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2015年04月07日

『外交ドキュメント 歴史認識』服部龍二(岩波新書)

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 「繰り返されてきた関係悪化と修復」と、帯にある。今回の「悪化」は長すぎる。いまの若者にとって、ものごころついたときから、ずっと「悪化」状態がつづいている。「いいとき」を知らないのである。この事実は、「悪化と修復」を繰り返してきたという「楽観論」ではすまされない深刻な問題である。

 著者、服部龍二は、本書の主たる目的をつぎのように「はじめに」で述べている。「批判や提言ではなく、日本外交の視点から政策過程を分析することにある。諸外国との関係悪化だけでなく、修復の局面にも紙幅を割く。筆者が断を下すというよりも、読者のために材料を整理して提供したい。何度でも再燃しうる歴史問題を論じるうえで、そのことは基礎的な作業となるだろう。『外交ドキュメント 歴史認識』と題したゆえんである」。

 いま、「批判や提言」が自由にできないような雰囲気がある。これだけ長期間「悪化」がつづいている責任を、歴代自民党、民主党、自民党政権に問い批判し、「修復」のための提言をするのが、研究者の本来の役割のひとつだろう。それを許さない原因のひとつは、「二分法」にある。著者は、「あとがき」でつぎのように述べている。「二〇一五年は戦後七〇年であるとともに、中国にとっては抗日戦争勝利七〇周年であり、韓国にとっては光復七〇周年、対日国交正常化五〇周年ともなる。歴史問題で最も回避すべきは、国の内外で感情の応酬になることであろう。ともすれば、歴史問題は「保守」対「反日」という二分法で解されるようである。国を憂い、威信を重んじる「保守」が「反日」を売国と批判し、「反日」は「保守」を右翼、御用学者と指弾するといった構図である」。「複雑な事象が単純化されると、国論が「保守」「反日」に二分されているかのような感覚に陥りやすい。そのような観念が定着すれば、慎重な者ほどレッテルを恐れ、社会的言説を控えるだろう」。「二分法は便利だが、不毛でもある。国を憂えることは、自国の歩みを問い直すことと矛盾するものではない。過去を顧みることは、関係国の一方的な主張に同化することとは異なる。あらゆる国の過去には、よき伝統とともに反省すべきところもある。国の将来を真剣に考えればこそ、過去に学びながら未来を見据えるのは自然なことであろう」。

 昨年開戦100周年を迎えた第一次世界大戦の記念行事が、ヨーロッパを中心につづいている。その式典などには、敵味方の別なく関係者が出席している。戦後70周年の記念行事にも、敵味方の別なく、東アジアの関係者が出席できるだろうか。「修復」できないのは、互いが尊重し合い、必要不可欠な存在であることを認識していないからだろう。記念式典に出席するというような具体的な目標を設定して、「修復」のための努力をする必要がある。そのためには、「悪化」の原因となった事実を確認することが重要となる。本書は、そのための基本的文献になる。表紙見返しには、つぎのように書かれている。「歴史教科書、靖国参拝、慰安婦問題と河野談話、村山談話……様々な思いが絡み合う歴史認識。そこには、関係悪化と修復を繰り返す日本外交の複雑な歩みが存在した。日本はこの問題といかに向かい合い、中国や韓国とどのように交渉してきたのか。その過程を丹念にたどり、日本の立脚点を模索する」。

 この複雑な事情を単純化した「二分法」を超えるためには、関係国の国民が偏狭なナショナリズムを超える知識と対話をもつ必要がある。「修復」が来るのを待つのでは、一時的に「修復」してもまた「悪化」が来る。この繰り返しを止め「悪化」が来ないようにするには、政府・政治家を抜きにした互いのナショナル・ヒストリーを学び・理解する国民の力が必要である。

 時間には、自然治癒力がある。これまで悪化と修復の繰り返してきたのも、時間が解決した面がある。ところが、今回の悪化の長期化は、修復に向かおうとしているときに、悪化の原因となるようなことを政府・政治家がおこなうことに原因がある。反日感情が強いといわれる中国や韓国から、多くの観光客が日本に来ている。中国も韓国も、日本も、国民は歴史が政治の道具にされることに飽き飽きし、歴史に関心をもたなくなってきている。政府・政治家は、そのことに気づいていないのだろうか。そして、歴史研究者としては、歴史から学ぶことが多々あり、われわれの生活を豊かにするために欠かせない歴史に無関心な人びとが増え、歴史がおろそかにされることがたまらない。

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