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2015年03月24日

『【図説】「資源大国」東南アジア-世界経済を支える「光と影」の歴史』加納啓良(洋泉社)

【図説】「資源大国」東南アジア-世界経済を支える「光と影」の歴史 →紀伊國屋ウェブストアで購入

 コーヒーと茶、砂糖、米、スズ・ボーキサイト・鉄鉱石・銅・ニッケル、天然ゴム、石油・天然ガス・石炭、ココナツとアブラヤシ、これらは、これまで東南アジアが世界に供給してきた代表的な一次産品である。そして、この7項目が、本書のそれぞれの章のタイトルになっている。これらの一次産品を通して、東南アジアの歴史と社会を語り、いま直面している問題を考えようというのが、本書の目的である。

 表紙見返しに、「世の中の常識」と「本書の核心」が書かれており、本書が目指しているものがより具体的にわかる。「世の中の常識」はつぎのように説明されている。「東南アジアは熱帯であり、戦前はタイ以外は欧米の植民地となっていた。独立後も農業、漁業、鉱業、林業といった「一次産品」を生産・輸出する一方、近年は工業化と経済発展も著しい」。それにたいして、「本書の核心」はつぎのように説明されている。「19世紀後半から続く「一次産品」の輸出は、現在も世界経済を底辺で支えている。しかし、戦後、輸出先は欧米から日本を含む近隣アジア諸国、そして中国、インドに変わり、自動車、電気・電子など世界経済を引っ張る産業に不可欠の資源を提供する一方、「開発」にともなう環境破壊を引き起こしている」。

 7つの章のタイトルは、一次産品名とつぎのような副題からなる:「第一章【コーヒーと茶】世界市場を席巻するベトナム・コーヒー」「第二章【砂糖】世界的な消費増大と産出・輸出大国タイ」「第三章【米】「緑の革命」により大増産に成功」「第四章【スズ・ボーキサイト・鉄鉱石・銅・ニッケル】最先端産業を支える金属鉱物の宝庫」「第五章【天然ゴム】自動車産業に不可欠な天然素材の大生産地」「第六章【石油・天然ガス・石炭】世界のエネルギー源を左右する三つの国」「第七章【ココナツとアブラヤシ】アジアの食卓に必要な食用油の原産地」。

 そして、「おわりに-東南アジア経済史の「明暗」」冒頭で、つぎのように結論している。「本書で、いくつかの重要産品を取り上げて検討を加えた結果、全体として東南アジアの「一次産品」(農業・漁業・鉱業・林業の生産物で加工される前のもの)の生産と輸出は、消滅も後退もしておらず、むしろ大きく増加して、世界の経済発展にとり不可欠の「土台」を提供しつづけていることが明らかになった」。それは、日頃あまり気づかないところにもあることを、つぎのようにスズを例にあげて説明している。「過去二〇年ぐらいのあいだに、世界中で何億台も製造された携帯電話やパソコンには、例外なくスズが内蔵されている」。電気・電子産業にとってのスズは、「どんなに安くても、それが欠けたら産業全体が崩壊するような「必須素材」」である。「今のところこれに替わる素材は見つかっていない」。「スズの最大の輸出国は一九七〇年代まではマレーシア、そして現在はインドネシアなのである」。  東南アジア産の一次産品がグローバルな経済発展を支えてきた構造は、東南アジアが「資本主義の世界システムに組み込まれた一九世紀後半から現在まで一貫して継続している」が、著者は、第二次世界大戦後70年近くを経て大きな変化が生じたとして、つぎの3つの変化をあげている。

 「第一の変化は、主要生産国の交代である。コーヒー栽培におけるベトナムの台頭、米輸出国の首位だったビルマ(ミャンマー)からタイへの交代、砂糖輸出におけるインドネシア、フィリピンの凋落(ちようらく)とタイの台頭、スズ輸出国の首位だったマレーシアからインドネシアへの交代、フィリピンのヤシ油(コプラ)輸出の凋落とマレーシア、インドネシアのパーム油輸出の大躍進、天然ゴム輸出国の首位だったマレーシアからタイへの交代、などがその例である」。

 「第二の変化は、生産主体の変化と交代である。かつて、英領マラヤ(今のマレーシアのうちマレー半島の部分とシンガポール)や蘭領東インド(インドネシア)でプランテーションや鉱山、そして油田を支配していた欧米植民地企業は、ほぼ例外なく現地の国内企業(国営企業を含む)に交代した」。「またゴムやコーヒーの栽培では、小農の生産量が企業プランテーションを大幅に上回るようになった。アブラヤシの栽培やインドネシアの石炭採掘に携わる企業の大半は、戦前の植民地的伝統とは系譜的関連のない新興勢力から成っている」。

 「第三の変化は、輸出市場の変化である。第二次世界大戦以前の東南アジア産の一次産品は、主に英領インドと中国に向けて輸出されたインドネシア(ジャワ)の砂糖や、アジアの諸地域へも輸出されたインドネシア(スマトラ、ボルネオ)の石油のような例外はあったものの、ほかは大半が欧米へ輸出された。そこで直接消費されるか、工業原料として利用されたのである」。「しかし、現在の東南アジア産の一次産品にとって最大の輸出市場は、もはや欧米ではなく、日本を含む近隣アジア諸国、とくに近年の経済成長が著しい中国とインドである」。

 そして、その明暗をつぎのようにまとめて、本書を結んでいる。「現在の東南アジアにおける一次産品の生産と輸出は、一九世紀後半から二〇世紀半ばまで欧米諸国を頂点に世界を支配した帝国主義・植民地主義の伝統から大きく変化した文脈のなかで変貌(へんぼう)と発展を遂げた」。「しかし、その裏側には、暗いネガティブな側面も隠されている。鉱業開発やアブラヤシ農園の開発がもたらした環境破壊、地元住民との紛争、人権侵害などの事態がそれである。それは、アジアに成長の主役が移ったグローバルな経済発展が、地球の大地からの原料調達というシステムの底辺で引き起こしている、きわめて深刻な問題だと言ってもよい」。「同種の現象は、過去の植民地支配の時代にも起きていた。しかし、その規模と広がりは、今の方がずっと深刻だ。このような底辺での<きしみ>を、二一世紀の人類と地球はどうすれば克服していけるのだろうか。東南アジアの一次産品の将来も、この「持続可能性」問題の解決如何(いかん)にかかっていると言えよう」。

 本書は、著者、加納啓良の長年のインドネシア研究(文献とフィールド調査)の成果として、歴史と文化を充分に踏まえたうえで、現代の問題を鋭く指摘し、現実にそった解決策を模索している。机上の議論ではないことは、本書がインドネシア国立ガジャマダ大学でインドネシア語でおこなった講義に基づいていることからもわかる。外国語で理論的説明を受けて納得しても、現実とかけ離れたもので役に立たないことがある。だが、母国語だと、現実を具体的イメージとして浮かべやすく、より実践的になる。社会経済史とは、こういうものか、ということがわかる書である。

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