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2014年09月16日

『フィリピンと日本の戦後関係-歴史認識・文化交流・国際結婚』リディア・N.ユー・ホセ編著、佐竹眞明・小川玲子・堀芳枝訳(明石書店)

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 本書の編著者、リディア・N.ユー・ホセ(1944-2014.8.3)は、2012年春「フィリピンにおける日本研究の発展及び日比間の相互理解促進に寄与」した功績で、日本政府から旭日中綬章を叙勲された。このフィリピンにおけるフィリピン・日本関係研究の第一人者を、アメリカにおける日本・フィリピン関係研究の第一人者であったグラント・K・グッドマン(1924-2014.4.6)につづいて失ったことは、実に残念なことである。ともに、二国関係を超える研究への礎を築いた「親日家」であった。とくに、ユー・ホセ氏は、東南アジアの研究者で日本語文献を使うことができた数少ないひとりで、住友財団2013年度「アジア諸国における日本関連研究助成」を得て、研究を深めようとしていた矢先だっただけに、本人も残念だったことだろう。

 その助成金申請題目は、「フィリピン協会:未完成の主権としての日本・フィリピン両国の関係」で、概要はつぎのようなものだった。「1935年に設立されたフィリピン協会は1990年代当初まで存続したが、現存する同協会に関する文献は、1950年代までのことしか論じていない。本研究は、1930年代から1990年代にかけて続いた同協会の歴史を掘り下げ、同協会が日比の友好関係に重要な役割を果たした事実を明らかにすることを目的とする。史料としては、研究者が同協会から寄贈されたものに加え、外交史料館所蔵文書などを参照し、また関係者へのインタビューも計画している」。

 「本書について」、編著者は「序章 フィリピンと日本-結局はそれほど不平等にあらず」で、つぎのように述べている。「我々は過去の主要な研究で記述された日本との関係の様相を繰り返し述べたり、再解釈するつもりはない。むしろ、残された空白を埋めたいと考える。すなわち、比日間における文化関係の推移を見つめたいと思う」。具体的には、「フィリピン人と日本人との異文化間結婚、フィリピンと日本との知識人による相互交流、フィリピンで活動する日本のNGOという枠組み、映画という大衆メディアにおいて展開・形成される文化交流、文化解釈、イメージを理解しようと努める。私たちはここではまず人々に焦点を合わせる。つまり、現実及び観念上の領域において交流するフィリピン人、日本人個々人に焦点を合わせる。日本政府の文化政策がつくり上げる領域も扱うが、政策よりもこうした領域における人間観の相互交流に焦点を当てる」。

 そして、つぎのように結論した。「序章で概念化したように、第二次世界大戦以降の日比関係において、歴史、愛情、お金が三つの主要要素として確認されよう。私たちは両国関係が第一義的に経済的なものであるという、繰り返し唱えられる見解を修正するものである。二国間関係において、人の移動が最も濃密で持続された活動であると述べたが、二国間関係が主に経済関係だとする見解に基づくならば、これらの人々は経済的商品に還元されてしまう。だから私たちは、日比関係は第一義的に過去と愛とお金に関するものであると主張したい。過去はしばしば眼に見えにくい形ではあるが、現在の関係に影を投げかける。愛情とお金の両者、もしくはそのいずれかが二国間関係に関わる人々に見て取ることができる」。「歴史と愛情とお金をトータルに考えると、フィリピンと日本との関係を単純に不平等であると指摘することはできない」。

 本書を読むと、フィリピン人が日本人をよく観察し、理解していることがわかる。編著者の四十数年に及ぶ研究の最後のことばのひとつとなった、つぎの文章で本書を閉じていることも頷ける。「日本人とフィリピン人の相互交流が文化的影響をもたらすとき、興味深い疑問はどちらがより強く相手に影響を与えるか、というものである。わかりやすくいうと、どちらの文化が存続し、どちらが妥協するのか。私たちは、異文化間結婚と日本のNGOに関する章において、文化変容の実際の事例を検証した。これらの章は、家族関係、くつろぎ、精神的落ち着き、ジェンダー平等といった事柄ではフィリピン人が日本人に影響を与え、清潔、規律、勤勉といった側面では日本人がフィリピン人に影響を与える傾向がある、ということを示していた。言い換えれば、両者ともに文化的により豊かになっているのである」。

 外国人が、自分の国の文化に興味をもってくれただけで、感謝したい気持ちになる。それを研究し、成果を本国に持ち帰り、研究を深めるだけでなく、教育者として学生たちに興味をもたせ、さらに研究する者を育てていく。日本政府が編著者を叙勲したことを、ごく自然なことに思えた。

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