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2014年08月05日

『復興の文化空間学-ビッグデータと人道支援の時代』山本博之(京都大学学術出版会)

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 5.03, 5.69, 5.50, 6.35, 6.01, 4.63, 6.22, 6.49, 6.26, 5.78%。これらの数字は、2004年以降のインドネシアの経済成長率をあらわしている。2004年12月26日のスマトラ島沖地震・津波、2005年3月28日のニアス地震、2006年5月27日のジャワ地震、2007年9月12日のベンクル地震、2009年9月2日の西ジャワ地震、2009年9月30日の西スマトラ地震の影響は、これらの数字から2009年以外には感じられない。その2009年は、前年に経営破綻したリーマン・ブラザーズのショックで、世界的金融危機のなか日本の経済成長率がマイナス5.53%落ち込んだ年であるから、インドネシアのプラス4.63%は地震の影響がまったくなかったといってもいいだろう。因みに、日本は2010年に4.65%に回復したものの、2011年3月11日の東日本大震災の年はマイナス0.45%に下落し、その後2012年は1.45%、2013年は1.54%となっている。未曾有の大災害にもかかわらず、国家全体としてはあたかもなにもなかったかのように吸収し、数字には表れない。では、これらの大災害がなかったら、もっと大きな数字の経済成長を遂げたのか。どうもそうでもなさそうである。本書で繰り返し、「地域研究」の重要性が強調されるのは、そのあたりのなぞがあるからのようだ。

 著者、山本博之は、「はじめに」で本書の目的をつぎのように述べている。「本書は、地域研究を専門とする著者が、インドネシアで二〇〇四年以降に起こった災害の被災地について、被災直後の状況を観察し、そこからどのような地域のかたちが読み取れるかを考えるものである。被災直後に何を見聞きしたかを紹介し、それをもとに何をどう考えたかの道筋を示すことで、被災直後に地域のかたちがどのように表れるかを読み解いてみたい。なお、地域研究は、言語や歴史・文化に関する基礎研究から災害や紛争などの具体的な課題への取り組みを含む実践研究まで幅広い広がりを持ち、一口に地域研究といってもさまざまな研究が含まれる。本書では、地域研究を基礎とし、文化の空間性を意識して情報の意味を読み解くアプローチにより、防災・人道支援との連携を通じて災害対応と復興という課題に取り組むことを試みる」。

 また、つぎのことも目的とし、その理由を述べている。「本書では、検証した結果だけを記すのではなく、新聞・雑誌やコミュニティ・ペーパーの内容や聞き取り調査の内容をほぼそのまま引用して、調査研究の手の内を一部明かしながら、インターネットや現地調査を通じて被災地で得られる情報をどのように収集・分類し、内容を分析し、その結果を提示するかという過程を提示することも目的としている」。「このことは、本書が地域研究という学問分野に拠っていることと無関係ではない。現実世界で進行中の事態について限られた情報をもとに限られた時間で分析結果を示すことがときに期待される地域研究では、情報には広がりと重なりがあることを意識することに加えて、それぞれの情報はどの程度まで確からしいかを常に意識しながら発信するという妥当性の度合いも意識しなければならないためである。伝統的な学術研究の分野では、繰り返し調査や実験が可能であり、いつ誰が検証しても同じ結果が得られるものが理論や学説として積み重ねられ、その応用にあたって適用可能範囲が意識され、想定内の条件でのみ結果が保証されるのに対し、地域という現場に立脚して常に現実世界の課題を対象とする地域研究では、常に応用の性格を持つために得られた結論の適用可能範囲が意識されることに加え、想定外の事態が生じた場合でも学問上の免責にはなったとしても課題解決が進まなかったことの免責にはならないと考えるためである」。

 そして、著者は、結論として、社会学的想像力、人類学的想像力を発展させ、「自分が相手に働きかけ、また、相手が自分のことを観察しており、観察を通じて相手の態度が変わりうることを前提とする地域研究的想像力が求められている」とし、つぎのように説明している。「地域研究的想像力は、社会が均質であるという前提を捨て、異なる文化が並立していることを認めた上で、互いに関わりあうなかで作られる世界を思い描く。人道支援とビッグデータの時代をよりよく生きる上では、多様な世界をばらばらのままにするのでなく、相手と自分の色の違いを知ったうえで、互いを繋ぐ物語をうまく紡ぐ力が求められている。既存の物語をそのまま使うことはできず、新しい物語を作りだす必要がある。その意味で、今こそ地域研究的想像力が求められている」。

 本書から、地域研究のひとつのあるべき姿が読み取れる。著者は、それを「災害対応の地域研究」とよび、「研究対象の地域社会に対する深く広い知識と理解、異業種・異分野の専門家による協業と連携、専門性が異なる人に活用可能なかたちで提示される研究成果の三つが重なりあって進められる災害対応への取り組みである」としている。そのコーディネーターとして、著者が手腕を発揮してきた成果が本書だろう。だれもがそのような恵まれた環境にあるわけでないなかで、地域研究者の「土地勘」が著者を動かしたということができるかもしれない。地域研究とは無縁の基礎研究者や異業種・異分野の専門家にも、なにを想定して研究し、目の前の課題に対処すればいいのかを示したという意味で、本書の功績は実に大きい。

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