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2014年05月06日

『補給戦と合衆国』布施将夫(松籟社)

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 本書の目的は、「南北戦争から第一次大戦までのアメリカが近代国家としてどう統合・形成されてきたかについて、鉄道と軍事の相互関係というあまり脚光を浴びない側面から検討し、この期間のアメリカ史を可能な限り具体的に示すこと」にある。

 本書は、序論、5章、結論と補論からなる。第一章「南北戦争時の鉄道軍事利用と国家統合-戦争前期(一八六一-一八六三年)のヴァージニア戦線における北部を対象に-」では、「南北戦争中の北軍に新設されたUSMRR(略)という鉄道運営機関が、当時主戦場であった東部のヴァージニア戦線で鉄道をどう利用、管理したかを検討した」。そして、つぎのような結論を得た。「南北戦争期の鉄道軍事利用という局面では、従来のイメージと異なり、合衆国における国家の形成や統合が組織・運営の両面できわだって進捗したことはなかったと考えられる」。第二章「アメリカ大陸横断鉄道の建設構想-一九世紀中葉から立法化までの議会動向を中心に-」では、「一八六二年に初めて建設が立法化され、一八六九年に鉄道二社が連結して開通した大陸横断鉄道の建設構想を検討した」。第三章「USMRR(合衆国軍事鉄道局)のハーマン・ハウプトとゲティズバーグの戦い」では、「第一章で登場したUSMRRのハウプトに注目し、同局の責任者としての彼の動向を検証し」、「合衆国における国家の形成や統合が組織・運営面でさほど進まなかった、という第一章の結論を補足し、強調することとなった」。第四章「陸軍省参謀部の創設と鉄道-軍制改革期のレトリックと実態-」では、「南北戦争が終了してから第一次大戦が始まるまでの鉄道と軍の相互関係を概観しつつ、この期間のなかで特に革新的であったとされる軍制改革に焦点をあてて検討し」、「軍による鉄道利用の組織化は、当時の政府が進めていたトラスト規制ほど平時の社会にとって不可欠だったとは言いがたいが」、「合衆国の国家統合は、軍政改革による組織上の外見ほどには進まなかった」とした。最後の第五章「第一次大戦期アメリカの産業動員-鉄道庁創設の意義をめぐって-」では、「第一次大戦期における鉄道産業の動員を検討し」、「第一次大戦当時の合衆国は鉄道行政の点から見る限り、組織・運営の両面でかなり高い国家形成・統合を達成していたと考えられる」とした。

 本書の帯では、つぎのように書かれている。「「戦争」「補給」「鉄道」から読み解くアメリカ史」。「こんにちのアメリカ社会が形成される上で決定的な役割を果たしたのは「戦争」そして「鉄道」である。この二点ともに深くかかわる「補給線」に本書は焦点を当てる。南北戦争から第一次大戦までの時期を中心に、アメリカ陸軍の補給の実態を検証し、それがアメリカをどう変えてきたかを分析する」。「戦争」はこんにちまで続いているが、「鉄道」はこんにちのアメリカでは、すくなくとも「決定的な役割を果たし」ていない。あくまでも本書は、「国家形成・統合」期のアメリカと理解していいだろう。著者も、そのあたりを充分理解しており、つぎのように述べて「結論 国家形成過程の皮肉」を結んでいる。「今後、アメリカ現代史を通時的に検討する機会があれば」、「第二次大戦期以降のアメリカにおける産業と軍、および国家の関係をめぐる実証的な考察から始めてみたい。ただし当時の鉄道産業は、基幹産業の一つである輸送・流通業のなかで、かなり斜陽化していたと思われる。それゆえ今後は、その鉄道産業に取って代わる勢いを示して、軍産複合体の中核になったと最近見なされている航空機産業や自動車産業といった他産業にも目を配る必要があるだろう」。そうすることによって、本書のタイトルである「補給戦」の意味が、より具体的に、とくに総合戦のなかで理解できるようになるだろう。

 「鉄道」は斜陽化した。もうひとつの「戦争」も斜陽化してきている。「戦争」をしないアメリカは歓迎すべきことだが、「戦争」をすることで「国家形成・統合」を成し遂げたアメリカが、「国家形成・統合」を維持するために「戦争」をするなら、その「補給」を絶たなければならない。

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