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2014年04月15日

『人の移動事典-日本からアジアへ、アジアから日本へ』吉原和男編集代表(丸善出版)

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 この事典は、項目の性格からすくなくとも二通りの利用の仕方がある。ひとつは、これまでの研究成果を理解するために読む、ストックの情報としての利用の仕方である。もうひとつは、現状を理解するために読む、フローの情報としての利用の仕方である。前者の有用性については語るまでもないだろうが、後者は今後どう変わるか、何年後かに読むとまた違った読み方ができる楽しみもある。加えて、巻末の28の付録(4つの法令、18の統計、6つのアソシエーション)が役に立つ。眺めているだけでも、いろいろイマジネーションがわいてくる。

 本事典の重要性は、今日のグローバル化のなかで人の移動が活発になってきていることから容易に想像がつく。「刊行にあたって」では、つぎのように説明している。「<人の移動>を包括的にとらえて総合的に研究することは、このような時代にあって日本の現代および近未来の人口構成に起因する諸問題に関わる多くの議論に貢献できるであろう。ここでいう<人の移動>とは、従来は国際移住・国際労働力移動・移民、さらに観光(ツーリズム)に伴う移動など、学問分野あるいは方法論の違いからさまざまな用語で表現されてきた現象を包括的にとらえようとする試みであり、英語ではおそらく<マイグレーション>が相当する。日本では「移民」という用語をその名称に含む学会や研究組織がいくつもあるが、基盤になる学問分野の違いから「移民」という用語の含意にはズレがみられることがある。また、「移民」という用語にこだわらずに進められる研究も多い」。

 「<人の移動>は他の社会現象にもまして単一の学問分野からだけでは解明しにくいため、基礎的な総合研究をめざす複数の分野での<人の移動>についての先端的な課題を、本事典では六つの部門に分けて取り上げる」。第Ⅰ部「近現代日本と人の移動」では、「日本人が海外のアジア諸国へ出かけて行った結果として、それ以降の日本へのアジア諸国からの一定規模の人の移動が生まれたことに注目し」、歴史的に4つの時代に分けて論じられる。第Ⅰ部にたいして、第Ⅱ部から第Ⅴ部までは、「アジアから日本へ来た人々に関わる現状を主に考察している」。「第Ⅱ部「グローバル化と移民労働者」ではアジアからの外国人の主な来日目的である経済活動が取り上げられるが、グローバリゼーションの概念やその関係での<人の移動>が多面的に論じられる」。「第Ⅲ部「現代アジアの人の移動と日本の対応」では、アジアから来日した人々に関わる入国管理政策と彼らを受け入れるわが国の制度的対応や国民統合について論じられる」。「第Ⅳ部「アジア系コミュニティと構築されるエスニシティ」では、日本国内で形成されるアジア系住民と彼らのエスニシティおよびその表象のされ方が論じられる」。「第Ⅴ部[変容する移民コミュニティと多重化するメディア」では、日本におけるコミュニティやネットワークの形成と変化、生活実態およびコミュニケーション媒体の発達と多様化が論じられる」。そして、「最後の第Ⅵ部「観光とライフスタイル移住」では、出入国目的としての観光および近年の日本人にもみられるようになったライフスタイル移住が考察され、アジアにおける<人の国際移動>が論じられる」。

 冒頭で述べたように、第Ⅰ部はストックの情報として、オーソドックスな事典の読み方ができる。だが、第Ⅱ~Ⅵ部はグローバル化の進展にともなって、大きく変わるものもあるだろう。巻末の付録とあわせて、2013年時点の「人の移動」を理解したうえで、今後の変化に注目したい。そのためにも、本書の出版はひじょうに有意義なことであり、第Ⅱ~Ⅵ部の追跡情報も欲しいのだが・・・。

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