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2014年02月18日

『ラオスを知るための60章』菊池陽子・鈴木玲子・阿部健一編著(明石書店)

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 「エリア・スタディーズ」シリーズも、2013年に126冊になった。とりあげる国や地域は、「現代」を冠したものもあり、その目的や読者対象がさまざまで一律ではない。本書は、日本で「ニュースになる機会は多くない」「ラオスを知るための60章」である。

 編者一同は、つぎのような目的で本書を編んでいる。「今日の世界の大きな強い流れに身を置いていると、ゆったりと生きている小さな国の人々のことには、なかなか関心がいかない。しかし小さなことのなかにこそ大切なものがある。本書の以下のさまざまな話題から、ラオスにはそれがあふれていることを実感してもらえるのではないか」。「時間の流れがゆったりとしており、メコン河の向こうに沈む夕日をながめていると、この世の喧噪を忘れさせてくれる。ラオスには目に見えない豊かさがある。それこそがラオスに人々が魅了される所以であろう」。「ラオスは目立たない小さな国であるが、いくつも素晴らしい点がある」。

 本書を通読すると、それぞれの執筆者が、ラオスに魅了されていることがわかる。本書を手にとって、現実のラオスを見に行きたくなった読者も多いことだろう。そのような読者のために、本書は9部「自然」「生活と生業」「環境と開発」「歴史」「経済」「政治と外交」「宗教と儀礼」「言語と文学」「文化」、さらに60章にわけて、魅了される旅に誘ってくれる。最初の2部14章では、「素晴らしい点」として、まず自然についてとりあげ、「はじめに」でつぎのように紹介している。「他の多くの国々では失われてしまった森林や汚れていない豊かな河川、さらに自然と調和した生活が今日もいたるところに見られる。本書の第Ⅰ部では、その豊かな「自然」について、そして第Ⅱ部では、その自然を賢く利用する人々の「生活と生業」について、主に自然科学者が執筆している。出自も言語も文化も歴史も違う多様な民族が、さまざまな自然環境のなかで、上手に棲み分け共存している点は、多くの執筆者が指摘している点だ」。

 このようないくつも素晴らしい点があることはわかったが、本格的にラオスのことを学びたいと思う読者には、少々物足りない面もあるだろう。ラオスには、2つの世界遺産がある。1995年に街ごと認定されたルアンパバーンは、14世紀にランサン王朝の都となって以来、王宮文化が栄えた街である。「東南アジアの伝統的都市形態であるムアンの形を残していることでも貴重な存在で、王権を中心とした構造、さらにはそれを支えるバーンという、寺を中心とした村組織の形を見てとることができる」。その都が、1945年に「独立を求める動きが表面化してから」「30年に及ぶ闘争の歴史」の中心のひとつになった。「アメリカの支援を受けた右派、ベトナムやソ連の支援を受けた左派、両者の間で揺れ動いた中立派と3派に分かれたラオス人同士が戦いを繰り広げる内戦」が、人口わずか数百万の国で起こったのはなぜか。75年にラオス人民民主共和国成立後、その内戦の後遺症はないのか。本書では、多く語られていない。本書で語られている「ほんわか」した感じのラオスだけではないはずだ。

 もうひとつの世界遺産チャムパーサック遺跡群は、2001年に登録された。カンボジアのアンコール遺跡と関連すると考えられている10~12世紀の遺跡群は、「遺跡と自然の2要素が組み合わされ、それが文化的景観として統合されている点」に特徴がある。だが、この遺跡を遺した人びとのその後について、よくわからない。ラオスという枠組みだけではわからないことは、本書のほかの多くの章についてもいえるだろう。ラオスという小さな国をダイナミックに語ることによって、「小さなことのなかにこそ大切なものがある」ことが、もっと伝わるのではないか。たんなる観光地として魅了される以上のものが、この小さな国にはあるはずだから。

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