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2013年06月18日

『戦う女、戦えない女-第一次世界大戦期機のジェンダーとセクシュアリティ』林田敏子(人文書院)

戦う女、戦えない女-第一次世界大戦期機のジェンダーとセクシュアリティ →紀伊國屋ウェブストアで購入

 本書は、「大戦の勃発を機に顕在化したイギリスにおけるジェンダー問題を、プロパガンダ、制服、モラル・コントロールをキーワードに読み解いていく」。

 大戦という非常事態は、女性にとってプラスにはたらいたのか、マイナスにはたらいたのか、よくいわれる社会進出のきっかけになったのか、そんな単純なことではなかったことが本書からわかる。それを的確に簡潔にまとめたのが、「あとがき」のつぎの一文である。「大戦は女性の暮らしをどう変えたのか。従来のジェンダー概念にいかなる変更を迫ったのか。大戦とジェンダーを扱った研究が格闘してきたこのシンプルな問いへの答えは、視点を変え、スパンを変えることによって、いかようにも変化する。女性の目覚ましい社会進出と新たなジェンダー秩序の形成。しかし、その陰には常に、限界と揺り戻しがあった。執筆当初は「問い」に対する答えをさがしあぐねて袋小路に入ってしまったが、しだいに、光のあて方によってまったく違う像を見せるその多面性こそに意味があるのではないかと思うようになった。大戦期の女性の前には、おどろくほど多くの道がひらかれていたと同時に、ただ一つの選択肢が決定的に欠けていた。大戦が女性に与えた豊かな選択肢と、同じく女性に課した重い足かせ。そこに生じる軋轢や矛盾、両義性こそが大戦期のジェンダー問題の本質なのだとあらためて思う」。

 戦時に戦う選択のある男性に比べ、女性はより複雑だったことを、著者、林田敏子は「おわりに」でつぎのように述べている。「戦時においては、男性が自らの存在価値を証明するには、軍隊に入隊しさえすれば十分であった。男性に与えられた選択肢は、兵士になるか、ならないかというきわめて単純なものだったからである。しかし、(自国の)兵士になるという選択肢を奪われたイギリスの女性たちは、国民/市民としての価値を男性とは違う形で示さなければならなかった。白い羽運動をはじめとする募兵活動に取り組んだ者、軍需工場で兵器の製造に携わった者、男手の不足する農地で農作業に従事した者、そして、軍の補助要員として戦場へ向かった者。女性たちはさまざまな形で戦争に協力することで、自らの愛国心をかたちにした」。

 その複雑さは、普通、節のない「はじめに」と「おわりに」にそれぞれ4節、3節があることで現されている。「はじめに」の4節のタイトルは、「1 カーキ・フィーバー」「2 大戦がひらいた世界」「3 制服の時代」「4 生産か生殖か」、「おわりに」の3節は「1 セクシュアリティの戦争」「2 大戦が変えたもの、変えなかったもの」「3 「空」への扉」である。そして、具体的事例は、4章からなる本文(「戦いを鼓舞する女」「ベルギーの凌辱」「愛国熱と戦争協力」「「戦う」女たち」)で、各章扉および62枚の図版とともに語られている。

 男性のように単純なものではなく、兵士になるという選択肢を奪われただけに、女性には反戦・非戦のための選択余地があった。にもかかわらず、白い羽運動のように無責任に男性を戦場へと駆り立てる選択をしたのは、なぜか。そう仕向けたのは、なにか。男性からでは見えてこない、時代や社会に潜むものが見えてくる。戦争という非常時の研究から、日常の基本的問題が見えてくる。

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