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2013年03月05日

『記念碑に刻まれたドイツ-戦争・革命・統一』松本彰(東京大学出版会)

記念碑に刻まれたドイツ-戦争・革命・統一 →bookwebで購入

 東西ドイツの統一から丁度1年後の1991年10月3日に、ブランデンブルク門を見に行った著者松本彰は、「統一後にドイツ人の歴史意識がどのように変化していくか確かめたいと思い」、「記念碑のハンドブック」「記念碑の通史」を手に入れ、「何かがつかめるのでは、という予感がして、記念碑巡りを始めた」。本書の特徴は、冒頭16頁のカラー写真に加え、本文中93頁にわたる図版が掲載されていることで、「記念碑索引」6頁、「図版データ一覧(撮影年月・出典)」5頁が巻末に添えられている。

 「ドイツ統一」は、これが初めてではなかった。一般に知られる「一八六七、七一年のドイツ統一」に加えて、著者は「ヒトラーがオーストリアを併合した「合邦」=「一九三八年のドイツ統一」にも注目し、「範囲も意味するものも大きく異なる「三回のドイツ統一」と、戦争、革命の関係を問題にしながらドイツ史を再考」した。その成果が、本書である。

 本書は、「序章」と6章、「終章」からなる。著者は、つぎのようにまとめている。「本書は、記念碑の歴史を追いながらドイツ史を再検討すること、「記念碑に刻まれたドイツ」について考えることをテーマとする。ホブズボームの時代区分を用いて、第一、二章でフランス革命から第一次世界大戦までの「長い一九世紀」を、第三、四章で「短い二〇世紀」の前半、「現代の三〇年戦争」としての二つの世界大戦の時代を、第五章でその後の一九九〇年までを、第六章で一九九〇年以降を扱う。終章ではドイツ・デンマーク国境を取り上げる」。

 本書を読み解く鍵のひとつに、「国民」がある。著者は、「あとがき」でつぎのように述べている。「確かに、ドイツでは国民の意味するものが、時代によって、立場によって大きく異なり、そこには大きな断絶がある。本書では国民が三重の意味で用いられたことを指摘しつつ、一九世紀はじめからナチズムまでの国民記念碑への熱狂と、その後の「過去=ナチズムの克服」のための記念政策を追うことになった」。

 そのことをもっと具体的に、「序章」の「アイデンティティの重層・複合」で説明している。「ドイツ統一は、それぞれの個人にとっては、アイデンティティの問題である。ドイツでは「国民」が三重の意味で用いられたことに象徴されるように、国家と民族の関係が複雑で、どこまでがドイツか、誰がドイツ人か、様々な理解があり、人々のアイデンティティは重層的かつ複合的だった。平時ではアイデンティティは重層的、複合的、あるいは分裂的であっても差し支えないが、戦時にはそれは許されない。「ドイツは一つ」にならなければならない。人の命は一つであり、その一つの命を国家に捧げることが求められる。例えば、ドイツ系ユダヤ人の多くは、ドイツ語を話し、ドイツ文化を担い、ドイツ国民としてのアイデンティティを持っていた。一九世紀末以降、彼らへの差別が厳しくなるが、第一次世界大戦が勃発した時、かなりの数のユダヤ人が志願兵として戦場に向かった[一二一頁]。また、ドイツの国境は時代によって移動しており、住民の国籍はそのたびごとに変更させられた[終章]」。

 「強力な国家のために、誇り高い市民=国民=「兵士としての男」が必要とされ、ジェンダー的、民族的、宗教的、階級的な弱者、マイノリティは差別され、抑圧され、それに対する抵抗は社会運動を生み出した。ドイツでは統一のため、強いドイツのために戦争が繰り返され、行き着いた先がナチズムによる破局だった。ドイツ中に蔓延する「勇敢な兵士、強い男」「倒れた兵士を悼む、やさしい母と娘」というステレオタイプ化された戦争記念碑の表象は、「ゲルマン以来の伝統」とされたが、明らかに「創られた伝統」だった」。

 このような「重層・複合」的な問題を抱えながら建てられた記念碑は、多面的な分析が必要であり、著者は「記念碑の政治学」「記念碑の美学」「記念碑の宗教学」の3つの視角から考察を試みている。そして、「記念碑の歴史を具体的に考える上で、特に注意すべき五点」をあげている。「第一に、記念碑には事件の後、かなり経ってから建てられるもの」がある。「第二に、記念碑のその後にも注目すべきである」。「第三に、建てた側の「意図」だけでなく、見る側の「受容」も問題にしなければならない」。「第四に、記念碑の様式や意味の変化を追っていくことが重要になる」。「第五に、重要な記念碑は既存の記念碑、それもかなり遠方の記念碑や外国の記念碑なども意識して作られる。記念碑相互の関係について、長い歴史の中で総合的に検討する必要がある」。

 「ベルリンの壁」が崩壊し、記念碑をめぐって激しい論争が起こったことが、著者を記念碑巡りへとかきたてた。そして、記念碑論争が、ドイツ人の歴史への関心を呼び起こした。日本も、近隣諸国との「歴史認識」問題を抱えている。「終章 ドイツ・デンマーク国境の記念碑」は、双方から歴史をみつめる必要性を説いている。本書全体を通して、ヨーロッパ世界のなかで、とくに近隣諸国・民族との関係のなかで議論を進めている。それにたいして、日本人は東アジア地域のなかで歴史を考える土壌が生まれ、育っているのだろうか。ドイツの歴史から学ぶことも多い。

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