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2013年01月15日

『ベルリンの壁-ドイツ分断の歴史』エトガー・ヴォルフルム著、飯田收治・木村明夫・村上亮訳(洛北出版)

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 「壁が倒れたとき あなたは何歳でした? なぜ人びとは壁に慣れてしまったのか? その壁がどうして、1989年に倒れたのか? 建設から倒壊までの、冷戦期の壁の歴史を、壁のことをよく知らない若い人にむけて、簡潔かつ明瞭に解き明かす。写真 多数掲載」と帯にある。表紙見返しに「主な人名と用語」「主な出来事」があり、「壁のことをよく知らない若い人」だけでなく、「連邦共和国」と「民主共和国」のどちらが西ドイツか東ドイツかわからなくなったときなどに役に立つ。

 読者対象を「若い人」としているなら、帯の最初の問いの答えは、「生まれていなかった」になる。「なぜ人びとは壁に慣れてしまったのか?」の問いは、つぎの記述から読みとれる。1961年8月13日に始まった「ベルリンの壁建設が国家の分裂の原因を作りだしたのではない。その諸原因はずっと以前にさかのぼり、とくに一九四八年の通貨改革にあったと。壁建設を支持した民主共和国[東ドイツ]の少なからぬ知識人たちは」、「「階級の敵の攪乱工作」や「親ファッショ的」連邦共和国[西ドイツ]の時代遅れな輩が、民主共和国に害をなしてきたではないか。だから壁を築くしか、共和国を最終的に安定させることはできなかったのではないか」。そして、「大多数の人たちはいつまでも、反抗的態度や抵抗の姿勢をつづけるわけにはいかなかった。だからといってエルベ以東のドイツ人が、熱心な共産主義者になったのではない。彼らはむしろ民主共和国に適応して、あらゆる対外的、対内的な困難にもめげず、しだいになし遂げた自らの建設的業績を誇りに思うようになった」のである。

 また、9章「世界最長のカンバス ポップ・アートの壁」の冒頭の「ベルリンの壁は三つの顔を併せもっていた」の説明では、3つめとして「西側の多くの人たち」が慣れていった理由を説明している。「第一に東側にとって壁は、防波堤、防塁そして都市要塞」であった。「第二に中立的な立場からみた壁は、率直にいって二〇世紀後半のもっとも重要な建築物に属した。それは鉄のカーテンとともに、東西の分断線と分離の政治的現実とを象徴していた。第三に西側において壁は恥辱の壁、コンクリートの怪物、死の壁であり、それには告発調の、あるいは終末論的な常套句がとりついていた。しかし、人びとはそれにもしだいに慣れていった」。「西側の多くの人たちは壁の存在に-そしてまたドイツの分断にも-すっかりなじんだ。少なくとも壁はますます「見過ごされる」か、あるいは人びとの日常生活に溶けこんだ。境界域は一般には、心の緊張をほぐし、休養をもたらす自然保護公園とみなされた」。

 最後の問い「その壁がどうして、1989年に倒れたのか?」は、11章「世界を揺るがした出来事 一九八九年、壁の倒壊」で、つぎのように結論づけられている。「一二月二二日の公式開放までには、なおしばらく間があった。だが一一月九日の壁決壊は、たんに国境の開放にとどまらない意味があった。それは社会主義統一党体制の終焉であった。国境を統制できなくなるとともに、党支配体制は一九六一年の壁建設以降、住民の意志に反して国内的な承認を強制できた権力の元手をも失ったのである。社会主義統一党国家はその醜悪極まりない建造物よりも、ほんの短い期間生きながらえたにすぎない」。

 このあと、12章「壁の消滅と記憶へ 壁が後に残したもの」、「むすび 現代世界における壁」とつづき、「今なお世界中にある「壁」にも目を向けてほしい」と著者は願って、「日本語版まえがき」にもつぎのように書いてきた。「いまもなお世界はたくさんの壁からなります。さまざまな国家が巨大な遮断施設をつくり、閉鎖的となっています。今日みられる壁は、もはや自国住民の出国を阻むためのものではなく、「入国してほしくない」人びとに対して国々が外への門戸を閉ざしているのです。けれども、ひとつだけ確かなことがあります。遮蔽物、つまり壁を築くことは、政治が正常に機能しなくなっている証拠にほかなりません。このことは世界にひろく当てはまるでしょう」。

 「たとえば、イスラエルとパレスチナのあいだ、アメリカとメキシコのあいだ、インドとバングラデシュのあいだ、都市の富裕層と貧困層とのあいだに、「壁」が構築され続けていることに」、あなたは気づいているでしょうか。そして、あなたの身近にも。それは、あなた自身がつくっている「壁」かもしれない。

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