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2012年07月31日

『地域・生活・国家』水島司・和田清美編(日本経済評論社)

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 本書は「21世紀への挑戦」全7巻の1冊で、「刊行にあたって」本シリーズが目指したのは、「人類史、社会史の劇的変化の解明」である。ほかの6巻のタイトルは、つぎの通りである:「哲学・社会・環境」「グローバル化・金融危機・地域再生」「日本・アジア・グローバリゼーション」「技術・技術革新・人間」「社会運動・組織・思想」「民主主義・平和・地球政治」。それぞれ3つのキーワードのもとに、「進行している人類史、社会史、ひいては歴史総体の変動とそれが抱える問題を解き明かす突破口を開いて」いこうとしている。

 本巻のキーワードは「地域・生活・国家」で、「地域と国家を両端に置き、その間に生活を置くという配置となっている。それは、個の営みである生活という視点から見た場合、それが地域および国家とどのような関係をもつべきか、地域と国家との関係は生活を挟んでどうあるべきか、国家の主権と地域の自治、あるいは中央集権と分権という問題にまで踏み込んだ場合、両者の間にどのようなバランスが築かれるべきかなどの問題が、より鮮明に浮かび上がるであろうと期待するからである」。「国家、より正確には国民国家」の存在感は相対的に低下してきているとはいえ、「なお、何よりも強力に共同性を主張し、かつそれを実体化させる強制力を有している」。そして、それにとってかわる地域像や地球像が、まだ明確にみえてきていない。本巻は、「国家からグローバルに至る重層的な諸関係が埋め込まれており、むしろ身近な生と生活空間に関わる具体的な事例から出発することによって、私たちが生きている社会の構造」をみようとしている。

 「本巻で扱われる事例は、主として日本からのものであり、生活の諸側面から地域と国家との関係を扱っている。しかし、それらの事例は、決して日常的なレベルの問題としてとりあげられているのではなく、私たち、および、ともすれば「私たち」の意識には含まれてこない人々も含めて、この二一世紀初めの時点で生きていくことの意味と、その向かう先について考察するためにとりあげられた題材なのである」。

 具体的には、つぎの8章である。「第1章 自治体における健康・医療行政の可能性-岩手県沢内村を事例として」「第2章 「障害と開発」と地域社会の戦略-ケイパビリティ・アプローチと社会関係資本の視点から」「第3章 教育の拡大と国家役割の縮小-高等教育機会の地域間格差」「第4章 外国人への言語支援と地域資源-奈良県の夜間中学を事例として」「第5章 生活の環境問題とエコロジー」「第6章 開発と環境」「第7章 戦後の住宅事情と二一世紀の居住政策の課題」「第8章 コミュニティ形成・まちづくりの系譜と現代的位相-地域、分権、自治、国家の二一世紀的展開」。

 編者のひとり、水島司は「序章 生活、地域、そして国家」で各章の紹介をした後、つぎのように「序章」を結んでいる。「『地域・生活・国家』と題する本巻は、以上簡単に紹介してきたように、医療、教育、障害、環境、居住、まちなどの題材をとりあげ、生活の中から地域と国家との関係を論じ、最後にコミュニティ、共同体の真のあり方とは何かという問題を政策論との関係で論ずる形で終始させた。「ここに、今、共に、ある」ということの意味を考えようとする読者からの批判を乞うてやまない」。  本書を読んで、結局国庫に納めている税金が有効に使われていないことが、問題の基本にあるように思えた。その解決のひとつは、第1章で示されていた。国家が保障してくれない生活を村の決断で決めた事例である。「税金が上がるかもしれない。他の事業を抑えないといけないかもしれない。こうした切実な問題を何回も話しあって、納税者である村の人たちも議員も意を決して日本で最初に老人医療無料化を決めたのである」。

 税金は、なんのために使われるかわからない「とられる」意識があるかぎり、納税者の不満はおさまらない。税金がどのように使われるのかを納得したうえで納めることが重要になる。いまの日本の社会を維持していくためには、消費税10%でも追いつかないことは、ちょっと考えればわかることである。今後、20%、30%と増加していくにさいして、地方自治体に直接納めることを含めて、議論し、住民が自分の生活を守るためになにに「投資」するのかを考えねばならなくなる。「納める」ではなく「投資する」という意識から、空約束と「ばらまき」をするポピュリズムに打ち勝つ民意が生まれる。本シリーズ第7巻で議論されている「民主主義」の発展は、コミュニティ形成・まちづくりにも不可欠なことである。

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