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2012年04月17日

『3・11複合被災』外岡秀俊(岩波新書)

3・11複合被災 →bookwebで購入

 1995年の阪神・淡路大震災のときは、すぐに2階から震源地の見える実家に行き、その後の復旧状況も具に見たが、しばらくすると報道を見聞きすることができなくなった。今回の東日本大震災・福島第一原子力発電所事故の報道も、しばらくすると見ることができなくなった。被災地に行くかわりに行ったのが、玄海島だった。島は、2005年3月20日に震度7と推定される地震(福岡県西方沖地震)に見舞われ、全225戸中173戸が全半壊し、ちょうど1ヶ月後の4月20日に最大余震5強で半壊住宅がすべて全壊した。人口700人ほどのすべてが、代表者10人ほどを残して島外に避難した。

 博多埠頭から福岡市営渡船が日に7便運航し、約35分で玄海島に到着する。周囲4.4キロの島は、6年たってようやく周回道路で1周できるようになっていた。港付近の平地には数階建ての集合住宅が建ち、そのひとつのエレベーターで屋上まで行くと、高台の一戸建て住宅街にいたる道があった。そして、そのさらに上に玄海小学校・中学校があった。玄海灘の南に面した住宅街は、東日本大震災のような津波に襲われることはないかもしれないが、ひとつの復興モデルが示されていると感じた。その体験は貴重で、震災後宮城県名取市などと交流している。

 本書は、震災後現地を歩き、1年たって回顧しながら、全体像を描こうとしたものである。著者、外岡秀俊は、その3月に新聞社を退職し、退職後フリーの立場で取材を続けた。そして、本書の目的・目標をつぎのように語っている。「東日本大震災について、何が起きたのかを、できるだけわかりやすく、コンパクトに伝えることを目的に書かれています」。「たとえば震災から一〇年後の二〇二一年に中学・高校生になるあなたが、「さて、3・11とは何だったのか」と振り返り、事実を調べようとするときに、まず手にとっていただく本のひとつとすること。それが目標です」。

 たしかに本書では「何が起きたのか」を書いているが、気になったのは「何かが起きたかもしれない」福島第二原発、東海第二原発のことも書いてあることだった。福島第一原発については、当然、今後詳細な検証がされるだろうが、同様のことが福島第二原発や東海第二原発でも起こった可能性があるなら、それは原発そのものの危険性を示すことになり、検証の仕方も意味も変わってくるだろう。北海道開拓記念館の常設展示では、数百年に一度襲う大津波が地層にあらわれている展示がある。「想定外」という言い逃れがさかんに使われたが、「想定」はどの程度の対策をとるのかという結論があって、逆算して導き出されたものだろう。すこし調べればすぐにわかることだし、このブログで震災前にとりあげた岩波ジュニア新書(西尾漠『新版 原発を考える50話』)を読んでいれば、事前に「想定」できたはずである。できなかったのは、はじめから変更不能のシナリオができていたからであろう。それが「安全神話」になってしまった。

 この「神話」について、著者は、10年後の読者に、つぎのように語りかけている。「それまで、原発について政府や電力会社は、事故を起こさないため何重もの防護装置を施してあるので、絶対に安全だといってきました。事故が起きて重点的に避難する地域も、原発から一〇キロ圏内にとどめ、事故が起きた場合に司令塔となる防災施設も、原発のすぐ近くに置いていました。そのため、実際に「想定外」の事故が起きたときに、政府の対応は遅れ、被害は拡大してしまいました。どんな場合でも、「絶対に安全」ということはできません。それをなぜ、どのように「神話」にしてしまったのか。「3・11後」を生きるあなたに、考えていってほしいと思うのです」。「絶対に安全」でないものはすべて拒否するのか、災害や事故を完全に防ぐことはできないことを前提に容認するのか、難しい問題を次世代は考えなければならなくなった。

 そのためには、この複合災害の事実、とくに科学で解決できないことを、人びとの心を考える人文力で補ったことを忘れてはならないだろう。科学力だけを根拠とせず、人文力の助けを借りながら、どう科学と向き合うのか。そのことを、著者は「はじめに」で、つぎのように語っている。「大災害であっても、「今」を生きることに懸命な日々がかさなると、つい意識から遠ざかり、「なかったこと」にしてしまうようになりがちです。失われた命、失われた故郷を思う人々と共に生きるには、忘れないこと、いつまでも記憶し続けることが何よりも大切だと思うのです。そしてそのことが、次の大災害で、あなたや身近にいる人の命を、ひとりでも多く、救うことにもつながるのだと思います」。

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