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2011年09月20日

『帝国崩壊とひとの再移動-引揚げ、送還、そして残留』蘭信三編(勉誠出版)

帝国崩壊とひとの再移動-引揚げ、送還、そして残留 →bookwebで購入

 本書は、2つのシンポジウムがもとになっている。ひとつは2009年に北海道開拓記念館との共催で開催された「日本帝国崩壊と人口移動-引揚げ、送還、そして残留」で、もうひとつはその翌年に「引揚げ港・博多を考える集い」という福岡の民間団体とともに開催した「二〇一〇年、いま戦後引揚げを問う-帝国崩壊と戦後東アジア社会」である。後者は、前者のフロアーの樺太からの引揚者の発言「先生たちの研究の話もいいですが、私たち引揚者の話も聞いてください」に刺激されて、体験者の話を中心に編成された。

 本書は、また同じ編者の前著『日本帝国をめぐる人口移動の国際社会学』(不二出版、2008年)の続編でもある。前著が「帝国形成期のひとの移動と再移動を主な対象」としたのにたいして、本書は「帝国崩壊後のひとの移動とその後の社会統合を主な対象」としている。

 本書の概要は、表紙見返しに要領よく、つぎのようにまとめられている。「日本は近代化と同時に帝国化を推進していき、植民地や勢力圏にひとびとが排出されていった。同時に、勢力圏から多くのひとびとが内地に流入、さらに朝鮮から満洲へなど、勢力圏内でも人口の大移動が生じた」。「そして、敗戦による帝国の崩壊によって、劇的な逆流が生じた」。「そのような終戦直後の膨大なひとびとの移動は、単に帝国崩壊によって引き起こされただけでなく、戦後東アジアの地域秩序の形成によっても強く規定されていた」。「その過程で、日本国内における在日朝鮮人という存在がもたらされ、勢力圏に中国残留孤児をはじめとする「日本人残留者」が生み出された。そしてそれは、単にひとびとが「新たな国境」を越えて大量に動いた(あるいは残った)というだけではなく、移動したひとびとが戦後の当該社会にどのように包摂され、あるいは排除されていったのかという社会問題と深く関連していた」。「帝国日本をめぐる人口移動を、いまなお残された「東アジアの課題」として検証する」。

 しかし、編者蘭信三の視野は東アジアに留まらず、地域や時代を超えて、学問的普遍的課題として、帝国日本崩壊後の人口移動と社会の問題を、つぎのようにとらえている。「帝国であったフランスでもピエ・ノワールやアルジェリア引揚者の社会的適応問題はありましたし、近年の続く北アフリカからの移民の社会統合問題は依然として未解決です。また、イギリスにおいても旧植民地出身者の階層や逸脱問題が色濃く残っておりました。そして東西ドイツ統一後のアウスジードラーと呼ばれるロシア在住ドイツ人のドイツへの帰国(移住)後の適応問題は、トルコ人移民の社会統合問題以上に緊急のものとなっています。さらに、一九九〇年代のソ連(帝国)崩壊後の様々な人口移動(イスラエルへの大量移民など)に見られますように、帝国崩壊後の人口移動と社会統合、あるいは脱植民地化と人口移動、社会再編、そして社会統合の問題は、多くの帝国崩壊後の社会に見られるいわば普遍的な課題なのです。このように、グローバル化が進行する今日であっても、第二次世界大戦後や植民地戦争後の帝国の崩壊をめぐる人口移動とその後の社会統合問題は依然として大きな研究課題であるのです」。

 本書は、つぎの4部から構成されている:「朝鮮をめぐるひとの再移動の諸相」「満洲をめぐるひとの再移動の諸相」「沖縄、台湾、南洋をめぐるひとの再移動の諸相」「帝国崩壊後の様々な戦後」。本書でキーとなるのは、前著でも指摘された朝鮮人である。たとえば、第二部の「満洲」でも、日本人開拓団員の話をよく知っている日本人は少なからずいるが、旧満州に居住していた朝鮮人の話を知っている日本人はあまりいない。帝国日本の崩壊とともに、「満洲国臣民」であった朝鮮人は中国東北に定住して「中国朝鮮族」になるか、朝鮮半島へ帰還するかの選択を強いられた。前者は中国内の国民党と共産党との内戦に巻きこまれることを意味し、後者は朝鮮戦争の勃発で前者を巻きこんで複雑な様相を呈した。めまぐるしく変わる限られた情報のなかで、人びとは翻弄され続け、民族の祖国と現実の祖国、階級の祖国とのあいだで苦悩することになった。

 いっぽう、中国に残留した日本人のなかには、日本に居住することができるにもかかわらず、日本を選ばない人びとがいることが紹介されている。その理由は、「日本の年寄りの生活はつまらない、とても単調で、さびしい」ということだった。

 ひとの移動は、自発的なものから強制的なものまで、それぞれさまざまな状況のなかでおこなわれた。そして、その先に自分自身が身を置く社会がある。選びたい社会、選ばれたい社会とは、何なのか。好きで来たわけではないが、居心地をよくするにはどうしたらいいのか。個々の体験が重要な意味をもつことが、本書から伝わってくる。

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