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2011年05月17日

『東南アジア現代政治入門』清水一史・田村慶子・横山豪志編著(ミネルヴァ書房)

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 「日本とも関係が深く、多様性にみちた東南アジアには、いかなる特色があるのだろうか。本書は、各国の独立から国民国家建設、民主化、経済発展へといたる道筋をたどり、アジア経済危機のインパクトとその後の体制変動を明快に概観する。発展から取り残された、子どもや女性などの弱者にも目配りし、さまざまな角度から東南アジア地域を学ぶ面白さ、奥深さを味わえるテキスト」と、表紙の見返しに本書の内容が要領よくまとめられている。

 本書は、「序章 東南アジアを学ぶあなたへ」の後、ブルネイを除く10ヶ国が1章ごとに概説され、最後に「第11章 ASEAN-世界政治経済の構造変化と地域協力の深化」が収められている。各章のタイトルには、その国を象徴することばを含む副題が付され、最初の頁で「この章で学ぶこと」が簡潔に示されている。そして、本文の後に読書案内があって、さらに「Column」がある。このコラムがいい。「あとがき」によると、「コラムには、本文では書けないエピソードや虐げられた人々の物語を入れることで、本文をより理解できるようにした」という。そして、「コラムから伝わる執筆者の人となりを想像するのも、読者の楽しみとなるに違いない」と続けている。本文でわかりにくかったことが、このコラムでわかったという読者もいるだろう。

 各編著者・執筆者のさまざまな工夫にもかかわらず、本書がわかりにくかったとすれば、つぎの要因が思い浮かぶ。まず、おもな読者対象の学生が、あまりに東南アジアのことを知らなさすぎることである。目次の後にある東南アジア全域の地図と「東南アジア各国の基本情報」に加えて、各章ごとに各国の地図と基本情報をまとめたものがあると、イメージしやすかっただろう。なぜなら、多くの学生にとって東南アジアはあまりに多様で、それぞれの国の区別がついていないからである。つぎに、本書が「東南アジア現代政治入門」ではなく、「東南アジア各国現代政治入門」になっている意味を、本書のはじめのほうで理解してもらったほうがよかっただろう。その意味で、「第11章 ASEAN 」の終わりのほうの記述は、本書冒頭にもっていったほうがよかったように思う。

 その「第11章 ASEAN」では、なぜ「各国」で記述されたか、EUとはどう違うのかが、つぎのように説明されている。「現在のASEANにおいては、依然国民国家の枠は固く、国家間協力というこれまでの路線を維持している。ASEAN憲章には、EUにみられるような国民国家を超える機関(超国家機関)や主権の委譲という要素は、今の時点ではみうけられない。EUのような議会や裁判所も規定されていない。すなわちASEANはEUなどと比較して、各国民国家の意思を反映する形の独自の協力を進めているといえる」。

 また、「日本とも関係が深く、...」というのも、関係する記述が各国のなかに散りばめられていて、まとまって理解しにくいだろう。「政治」中心であるから「経済」に多くの頁を割くことができなかったのだろうが、日本との密接な経済関係がもうすこし詳しくはじめにまとめて説明されていれば、つぎの「第11章」の記述もより具体的に理解できただろう。「ASEANは、日本にとっても最重要なパートナーの1つである。政治的にも経済的にもASEANとの関係は不可欠である。また日系企業にとっても最重要な生産拠点である。日本と日本企業にとっても、域内経済協力の深化とASEAN経済共同体へ向けての展開はきわめて重要である。ASEAN日本包括的経済連携協定や経済協力を含めて、日本・ASEAN関係の一層の深化が求められるであろう。もちろん経済援助や技術移転も欠かせない」。

 さらに、第11章の最後の「東南アジアを見ていく際には、ASEANの分析は欠かせない。そして、ASEANを見ていくことは、世界とアジア全体の政治経済の構造変化を見ていくことにも繋がるのである」ということがわかれば、「東南アジア地域を学ぶ面白さ」がわかってくるだろう。だが、書店に東南アジアにかんする本が少ないことからわかるように、なぜ東南アジアを知ることが日本にとって、アジアにとって、世界にとって重要なのかを理解している日本人、とくに若者が少ないという基本的な問題がある。なげかわしいことに、自習用テキストとしては、東南アジアのことをなにも知らないことを前提に書かざるをえないのが現状だ。講義で基本的な説明を聞いて、本書が理解できるようになることを期待したい。

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