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2011年03月17日

『カップヌードルをぶっつぶせ!-創業者を激怒させた二代目社長のマーケティング流儀』安藤宏基(中央公論新社)

カップヌードルをぶっつぶせ!-創業者を激怒させた二代目社長のマーケティング流儀 →bookwebで購入

 創業者の話は、おもしろい。成功した自慢話ではなく、いくつも失敗した話が聞けるからである。成功した実績のある創業者にたいして、それを創業者の目の黒いうちに受け継いだ2代目やサラリーマン社長の話は、おもしろくないのが普通だ。失敗を恐れるからだ。しかし、本書はおもしろかった。失敗の話がいっぱいあり、失敗を成功のもとにするにはどうすればいいのかのヒントが得られるからである。「失敗は成功のもと」とのんきに言っていても、失敗を繰り返すだけで成功には結びつかない。

 著者は日清食品ホールディングスCEOで、創業者安藤百福の次男である。著者自身、「創業者の事業を引き継いだ後継者は、私も含めて、だいたいが普通の人である。したがって、創業者と二代目の確執とは、異能と凡能とのせめぎあいといってもよい」と述べ、とても創業者にはかなわないことを認めている。そのうえで、「毎日がけんかだった」日々を語ったのが本書だ。

 本書は、2007年に96歳で亡くなった創業者が、「いったい私にとって何だったのか」を問う意味で書かれた第一章と第二章、「試行錯誤と経営記録」として書かれた第三~六章からなる。前者は亡き創業者、後者は「二代目、三代目の経営者だけでなく、カリスマ創業者のあとを引き継いだ経営者や、あるいは強烈なワンマン社長の下で働いている若い社員」を読者対象としている。加えて、就活する前の若者にも読んでほしいと思った。会社で働くことはおもしろい、社会に貢献することは人生を豊かにする、という希望が見えてくるからである。また、「金のないときに四畳半のアパートでこそこそ食べたというわびしいイメージ」を払拭するために、おもしろいCMにかけた著者の思いが伝わってくるからでもある。「面白くなければCMじゃない」「食べる喜びを伝えることが、インスタントラーメンのCMの役割」は、いまや生活の基本になっている。

 近年の麺には、驚かされる。その技術力が、どのようにして生まれたかが本書からわかる。そして、それは販売とも絡みあっていた。著者が、創業者が開発した「チキンラーメン」「カップヌードル」に果敢に挑み、「焼きそばUFO」「どん兵衛」「ラ王」などを開発した背景には、創業者との「闘い」だけでなく、社員や消費者との闘いがあった。その成功のひとつは、創業者が常々語っていた「日清食品は偉大なる中小企業でありたい」ということだろう。日清食品単体の社員数が1500人ほどで、著者は300人近い管理職全員の名前と顔を覚えるようにしている。

 著者はさかんに「二代目」を強調するが、正確には「三代目」であることを本書で書いている。2年間余だけであったが、創業者の長男で著者の兄が社長をしており、創業者の後を追うように同年に亡くなっている。年も著者より17歳も上で、この兄の散在なくして「二代目」の成功は語れないのではないか。「味、におい、色艶、舌触りなどのおいしさの情報が、いったい脳のどこで、どんな風に記憶され、再生されるのか」「消費者がある特定ブランドに愛着を持ち、繰り返し購入する「ブランド・ロイヤリティー」というこだわりの感情は、脳の中でどのように形成されていくのか」を解明するために、社内につくられた「脳研究会」は、「二代目」か「三代目」か、どう判定するだろうか。

 本書を読んで、今後のインスタントラーメン業界の動向に目が離せなくなった。工場見学もしたくなったが、近隣の学校教育以外はだめなようだ。「インスタントラーメン発明記念館」に、行くことにしよう(http://www.nissin-noodles.com/ 〒563-0041大阪府池田市満寿美(ますみ)町 8-25、開館時間:9時30分~16時、休館日:火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始)。

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 文庫化前の最終章は、つぎのことばで終わっていた。「「食品会社は平和産業である」。これが私の頭に叩き込まれた、創業者安藤百福の遺言のような言葉である。楽しむための食から、生命を維持するための食まで、あらゆる人々の欲求に応えていき、五十年後に、地球百億人類の食を満たすことが日清食品の使命なのである」。日清食品は、東北地方太平洋沖地震発生翌々日の13日、被災地へ「カップヌードル」ほか100万食を緊急無償提供および給湯機能付キッチンカー7台の派遣を決めた。いま、「命を維持するための食」を待っている人たちがいる。現場は、みながんばっている。現場の人たちが動きやすいよう、被災地以外の人びとは、食料や燃料を買いだめしたり、個人的に宅配便で送ったりすることを控えたい。日常生活を維持することが、場合によっては「支援」になる。



 なお、原発について、昨年12月14日にこの書評ブログで取り上げたhttp://booklog.kinokuniya.co.jp/hayase/archives/2010/12/。起こってしまったことをいま非難するより、被爆覚悟で努力している人たちを応援したい。非難は落ち着いてからすることで、失敗は成功のもとになるが、成功の望みのないものは、きっぱり断念する勇気と決断力も必要だ。そのことは、本書からも学ぶことができる。


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