« 『泰緬鉄道-機密文書が明かすアジア太平洋戦争(再版)』吉川利治(雄山閣) | メイン | 『カブラの冬-第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆』藤原辰史(人文書院) »

2011年02月01日

『ベトナム女性史-フランス植民地時代からベトナム戦争まで』レ・ティ・ニャム・トゥエット著、藤目ゆき監修、片山須美子編訳(明石書店)

ベトナム女性史-フランス植民地時代からベトナム戦争まで →bookwebで購入

 本格的な総力戦となった第一次世界大戦中に、軍需工業などにも女性が動員され、戦後女性の社会進出が顕著になった。ベトナムの対フランス、対アメリカの戦争は、第一次世界大戦時にヨーロッパが体験した総力戦の比ではなかった。それだけ、女性が担った役割は大きかった。悲しいことに、ベトナム女性の「活躍」の背景には、悲惨な戦争があったことを、まず心得ておかなければならないだろう。

 しかし、それだけではないことを、著者は「日本語版への序」で、つぎのように説明している。「ベトナム社会の歴史のすべての段階におけるジェンダーの特徴を分析した資料から、ベトナムは東南アジアの各文化と同様に、世界の他の多くの地域と比べて明らかな相違があるということができます。それは女性の相対的に高い地位です。この相違点の文化的な特徴は、対立性よりも相補性があることで、権力はジェンダー関係よりも、社会や家庭や年齢のヒエラルキー関係に基礎をおいています」。

 「ベトナムの女性の、社会と家庭での地位を決定する要素は、まさに女性の重要な役割にあります。女性たちは、文化のすべての様式-精神文化、物質文化、社会と家庭の文化-を含む民族文化を守り、発展させた人々です」。「この相違点は以下に述べるいくつもの原因から生じています」。「第一に、外国の侵略、とりわけ同化に対抗しようとする民族の抵抗が、死守といえるような状況を、特に村単位で作り出したことです。したがって、母権制の時期から女性が建設してきた最初の貴重な伝統が、ベトナムでは他の多くの場所におけるように除去されることがなく、絶えることのない伝統になったのです」。

 さらに、第二、第三、第四の原因を説明した後、つぎのようにまとめている。「このようにして、生産労働、社会的闘争、家庭の建設、民族文化の創造と発展における伝統的役割に応じて、ベトナムの女性のイメージは、勤労者、主婦、戦士、芸術家となり、政治家のような他のイメージは、より曖昧であったり、その役割に同化していたり、あるいは切り離されていたりするのがわかります。それはまた、ベトナムのジェンダー関係のイメージでもあるのです」。

 本書は、「歴史の異なる段階にそって、ベトナムの女性についての多くの豊富な面を総合的に述べようと試みたものです。最初の部分と結論の部分を除いて、本書は六章から成り、歴史的時間の順序にしたがって書かれています」。「各章の内容は、昔のすばらしい伝統が継承され、発揮され続けていることを証明し、今日の社会におけるベトナムの女性の、現代的な心理と徳性についてのいくつかの主な特徴を発見したものです」。

本書の6章は、大部の原著(日本語訳『各時代を通してのベトナムの女性』)のうち「近現代史の部分である第四章から第六章まで、および再版の序文、初版の序文、結論を訳したものである」。「原著はベトナム戦争の最中の一九六七年から六九年にかけて執筆された。初版はベトナム戦争終結前の一九七三年に出版され、多数の読者の反響を得て、一九七五年に第二版が出版された」。

 本書の各章の内容は、編訳者による「解説」で訳出されなかった部分を含めて紹介され、最後の「結論」はつぎのような要約になっている。「著者はベトナムの女性についての理論的考察を試みる。一人のベトナムの女性の中に、勤労者と主婦と戦士の三人の女性が混在することを、ベトナムの女性の伝統と品格として挙げる。ここで主婦とは家庭の主人という意味である。その品格を作り出した歴史的文化的背景を考察し、著者はふたたび原始時代の母権制からの歴史をふりかえる」。

 一九七五年の再版(第二版)にさいして、著者は執筆中の一九六八年からの大きな変化が、多くの場合突然に起こったことを感じ、その変化に合わせて本書を修正し補足したいと考えていたが、実現できなかったことを悔やんでいる。編訳者は、さらに「再版が出版された一九七五年以降も、ベトナムの人々はさらなる歴史の流れに翻弄され続けた」として、「解説」で時系列的にその後の変化を概観している。

 そして、「解説」をつぎのように結んでいる。「今日私たちが本書を読むとき、ベトナム近現代の女性運動、とりわけベトナム戦争当時の資料としての貴重な面にも注意すべきであるが、どんな状況においても創意工夫をこらして生きてきた女性たちの知恵と力、助けあい励ましあってきたその情愛に胸を打たれる。本書に絶えず現れる党の指導のもとに云々といった表現にうんざりする読者も多いであろうが、ベトナムで活動を続けるための合言葉と割り切って、著者が本当に伝えたかった女性たちの姿を読み取っていただければと思う」。

→bookwebで購入

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://booklog.kinokuniya.co.jp/mt-tb.cgi/4127