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2011年01月11日

『ワークショップ社会経済史-現代人のための歴史ナビゲーション』川越修・脇村孝平・友部謙一・花島誠人(ナカニシヤ出版)

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 本など、まともに読んだことはない。辞典・事典で調べるために、図書館に行くこともない。レポートは、インターネットで検索して、コピペして終わり。そんな学生を、日々相手にしていると、こんな本の必要性が浮かんでくる。

 本書は、4部50章からなり、最初の3部はそれぞれ近世から現代に至る時代順に、ヨーロッパ、インド、日本のテーマ15ずつを並べている。最後の「第Ⅳ部 21世紀の歴史情報リテラシー」だけが5章からなり、「歴史を学ぶ皆さんがインターネットやデジタル情報を利用する際に、心にとめておいてほしいことがらをまとめ」ている。「各章では、それぞれの時代やテーマの特徴を1頁で概観し、それに関連するデータ(統計図表・文字資料・図版資料など)を2頁にわたって提示した後、その時代を特徴づけているトピックについて詳述するという共通のスタイルをとって」いる。

 4人の著者が、本書を通じて伝えたかったことは、「はじめに」の最後で、つぎのように述べられている。「歴史は動くということ、そしてそれを動かすのは、経済や社会を形作っている私たちひとりひとりの日々の暮らしに他ならないということです。本書が、歴史を通じて今という時代における生き方を考えるナビゲーターとして役だってほしいと願っています」。

 最初の3人の著者が、それぞれの部15章を、ひとつひとつ15回にわたって、授業をしている姿が目に浮かぶ。しかし、その講義を聴いていない読者が、この本だけで理解するのはそれほど簡単ではない。かつて、物理学の大家が、高等学校の物理の教科書を見て、「あまりにも簡略化しすぎて、わたしでもわからない」と言うのを聞いたことがある。自習用としては、よくないかもしれないが、要点を押さえる、あるいは確認するためには、いいかもしれない。

 最後の「50 コピペよ、さらば-WEB情報の信頼性リスク-」を理解すれば、図書館に行って参考図書を探し、事典で調べるようになるだろう。「結局のところ、紙媒体の資料であれWEBサイトの情報であれ、自分で「裏がとれない」情報は、どれほど魅力的に見えても使うべきではないのです」。これが、わかるようになるために、どれだけの本を読まなければならないか。本を読まない者には、その危険性がわからない。

 最後のトピック「クラウド・コンピューティング時代の歴史研究」で、歴史を学ぶ者にたいして、つぎのように問題点を指摘している。「歴史の分野では、こうした取り組み[世界中に散在している膨大な歴史情報を共有化して、一つのデータベースであるかのようにインターネット上のどこからでも自由にアクセスできるようにする]が遅れているのが実情です。歴史研究者の間でこうした技術に対する関心が低いことが大きな原因になっていることは明らかです。クラウド時代の歴史研究者に求められているのは、他分野の研究者と手を携えて、人類の貴重な財産である歴史情報の共有化を成し遂げることかもしれません」。

 本書のような試みが、成功するかどうかは、つぎの3点にかかっているように思える。まず、文献史学の基本である地道な原史料を読むという作業を経験し、その重要性を理解しているかどうかである。理解していれば、時間をかけて読まなければならないものと、そうでないものとがあり、そうでないものの理解には便利なものになるだろう。つぎに、テーマによっては、文献以外の史料がより重要になることもあるということである。文献以外のデータベースのほうがつくりやすいかもしれない。その場合、逆説的に文献史料からわかることとの関連から、文献講読の重要性がますます高まることになるだろう。最後に、研究が進んでいる分野のほうが安直に入りやすくなり、そうでない分野との格差がますます拡がる危険性がある。逆に、歴史情報の共有により、研究が進んでいない分野が飛躍的に発展するかもしれない。いずれにせよ、偏りのない「世界史」の理解に役立つことを期待したい。

 本書を理解してから深く入っていくか、一通り勉強した後本書で基本を確かなものにするか、後先どちらでもいいが、そうとう勉強しなければならないことは確かだ。

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