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2010年11月02日

『皇族と帝国陸海軍』浅見雅男(文春文庫)

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 1960年にエリザベス2世女王の次男として生まれたヨーク公アンドルー王子は、78年に海軍に入隊し、82年に起こったフォークランド戦争にヘリコプターのパイロットとして従軍した。当初、後方事務の仕事へ異動させる話があったが、母の女王が許可したため、副操縦士として、対潜戦や対水上戦作戦などの任務をほかの将兵と同様に遂行した。そして、戦争終了後、女王夫妻は、ポーツマスの軍港まで、ほかの家族に混じって王子の帰港を出迎えた。

 フランス革命による王制廃止以来、ヨーロッパ各国・地域の王族・貴族は存続の危機にあった。その生き残り策のひとつが、王族・貴族が幼少のころから軍に入り、徴兵制などで集められた兵士からなる国民国家の軍隊を、自ら率いることだった。そして、それを日本の皇族は、明治初期のヨーロッパ留学で学んだ。

 しかし、ヨーロッパ各国民国家の軍隊の成立過程が、それぞれの事情でまちまちであったように、近代日本の軍隊も明治維新後の立憲君主制国家への模索のなかで生まれた。まず、天皇の後継者問題と天皇家をつねに支えるために、皇族が増加した(このことにかんしては、同著者の『皇族誕生』(角川書店、2008年)に詳しい)。江戸時代末期まで、宮家は伏見、桂、有栖川、閑院の4つしかなく、後継ぎ以外は出家して子孫を残さなかったために増えることもなかった。それが、幕末に久邇、山階、王政復古直後に華頂、北白川、小松、梨本、さらに明治20~30年代に賀陽、東伏見、竹田、朝香、東久邇宮家が創られた。これらは皆、北朝第3代崇光天皇(位1348-51年)を祖とする伏見宮家から分かれたもので、弟の梨本宮を除きすべて邦家親王(1802~72年)の子どもたちが立てたものである。皇族といっても、姻戚関係を除き、天皇とは数百年前に共通の祖先をもつにすぎなかった。

 本書は、この増えた皇族が、ごくわずかな例外を除いて軍人になった経緯を、「なるべく具体的に紹介し、皇族たちが軍人となったことが、日本という国や戦前の陸海軍、そして天皇や皇族たち自身にどんな影響をおよぼしたのかを考えるために書かれた」。皇族たちが軍人となった理由は、つぎのように説明されている。「それまで「武」とは無縁だった天皇が軍の頂点に立ったこと、国民皆兵をうたう徴兵令ができたこと、皇族の出家が禁じられたこと、それらの結果として、皇族には軍人となる義務を課せられたのだが、その代償であるかのように、皇族は軍の中で徹底的に優遇された」。

 日本最初の軍歌、俗称「トコトンヤレ節」で「宮さん宮さん、お馬の前でひらひらするのはなんじゃいな」とうたわれたように、近代日本の軍隊は、宮様を先頭に「ひらひらする」錦の御旗を掲げた明治維新の「官軍」を起源とし、宮様は天皇の分身として皇軍を率いた。そして、明治15年に発した軍人勅諭冒頭で、「我国の軍隊は世々天皇の統率し給ふ所にぞある」と明記し、皇族参謀本部長制が確立した。

 さらに、皇軍は、対外戦争を経て神軍となっていった。したがって、敵は「神」に刃向かう「賊」で人間扱いされず、会津白虎隊にみられたように、敵兵の戦死者は葬られることなく野晒しにされた。日中戦争を経て、中国人が日本人の残虐性を強調する原因のひとつは、皇軍・神軍の兵士が中国人を人間扱いしなかったことにあり、皇民化教育を受けた日本人に罪の意識はなかった。その罪の意識のなさは、敗戦後においても改めて考えられることなく、今日に至っている。

 日本の軍国主義化は、軍人が皇族を利用した結果であった、ということもでき、著者は「おわりに」で、つぎのように述べている。「軍人たちは天皇と最も近い人々、つまり皇族を、さまざまな形で利用しようとすることもためらわなかった。皇族を通じて、天皇を自分たちに都合よく動かそうと目論んだのである。そして、何人かの皇族は、意識的にか無意識のうちにかはともかく、そのような軍人のたくらみに同調し、他の皇族たちもそれを積極的に止めようとはしなかった。西園寺が言う、「常に陛下のお味方である」との「建前」は通用しなかったのである」。

 敗戦後、軍はなくなり、自衛隊として復活しても、天皇・皇族が自衛隊とかかわることはなくなった。しかし、天皇・皇族を「利用」しようとする人がいなくなったわけではない。著者は、つぎのように警告して、本書を閉じている。「外国要人と天皇の会見を自分たちの都合で強行し、そうした行為を居丈高に正当化する歴史に学ばない政治家がいるのを見ると、皇族と軍隊といういかにも時代離れしているかのように見えるテーマを中心にして日本の近代を振り返ってみるのも、あながち意味の無いことではなかろう。天皇や皇族を利用しようとたくらんだ軍人たちのおこないが、どんな結果をもたらしたか、是非そういう政治家たちにも知ってもらいたい」。

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