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2010年10月19日

『低炭素経済への道』諸富徹・浅岡美恵(岩波新書)

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 帯に「選択の余地はない」「CO2大幅削減がもたらす新たな経済成長戦略とは」とあり、その答えは表紙見返りにつぎのようにあった。「刻一刻と進行する地球温暖化。この未曾有の環境変動を前に、従来型の経済発展はもはや許されない。いま必要なのは、CO2の排出を大幅に削減し、なおかつ経済を向上させる、新たな成長戦略だ。困難な課題を克服する鍵は、産業構造の転換にある。低炭素化による経済の大いなる可能性と将来ビジョンを示す」。

 そして、本書はつぎのように結論して、終わっている。「以上、低炭素経済への移行期の問題について論じてきた。重要なのは、「技術的に困難だから」、あるいは「費用が莫大だから」という理由で低炭素経済への移行を止めよう、あるいはできるかぎり後回しにしようという発想から決別することである。本書を通じて、低炭素経済への移行が不可避ならば、早期に移行することにメリットが多いことを強調してきた。技術はいずれ進歩し、費用は低下するのである。後回しにすることで得になることは何一つない。われわれが停滞すれば、アジア諸国が追いつき、抜き去っていくだけである。したがって、まずは低炭素経済への本格的な移行に大胆に舵を切ることを決定し、次に、どのような困難が横たわっているのか、そして克服すべき課題は何かを確定したうえで、それらを解決する方途を見出すという発想に立つべきであろう。その最大の問題の一つは、低炭素経済への移行が人々の生活に大きな影響を与える点にある。われわれは、移行過程の痛みをできるかぎり和らげ、そのプロセスを平和で、公平で、円滑なものにする必要がある。いずれ、各国の政府はどこも、低炭素経済への移行に本格的に踏み込んでいくことになる。政府の手腕をめぐって真に明暗が分かれるのは、この仕事をうまくやり遂げることができるかどうかにかかっているといえよう」。

 本書を読むと、それなりに納得できる。しかし、本書の提言を実行するにあたって、基本的で決定的な不安が2つある。まず、技術的な問題である。本書で例示されているような、かつての技術的優位が日本のあるのだろうか。企業の技術力、とくに中小企業の技術力は、かつてほどないのではないだろうか。日本が誇った技術力は、特別優れた少数の人によって担われていたのではなく、共同作業による集団の力が大きかったのではないだろうか。つまり、裾野の広い技術力に支えられていたのではないだろうか、ということである。それが、現在は理系に進む者がすくなく、学力が低いために大学で高校までに学習の補講をしなければ、大学の授業ができなくなっている。単位さえ取れればいいので、必要以上の点数を取ろうとしない。知識や技術でなにをしたいかが、思い浮かばない学生が少なくない。

 もうひとつは、国家が低炭素経済への移行を明確に国民に示し、技術力向上のために中長期的な財政支援をすることができるだろうか、ということだ。目先の人気取りのばらまきばかりで、中長期的な財政計画が立てられない政府に、本書のような話が通じるのだろうか。

 学生にせよ、国家指導者にせよ、未来を展望する力が、いまの日本に欠けているのではないだろうか。この「選択の余地のない」状況で、ひとりひとりの現実への認識が大きな力となるのだが、その切迫感をいだいている者は多くない。自分自身のために、社会のために希望を見いだせるようにするにはどうしたらいいのか、わからない!

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