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2010年06月22日

『イスラーム銀行 金融と国際経済』小杉泰・長岡慎介(山川出版社)

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 現在イスラーム教徒が居住する地域は、もともと遊牧民、海洋民などが多く、イスラーム化以前からグローバルな経済活動をおこなっていた。それらの人びとが、このグローバル化の時代に手をこまねいているわけがない。イスラーム銀行の試みが、1970年代にはじまったのは偶然ではないだろう。著者たちは、それをつぎのように述べて、本書の目的としている。「総じていえば、イスラーム銀行の誕生と発展は、世界的な現象としての「イスラーム復興」と大きな関係をもっている。また、一九七〇年代以降に世界経済が大きく金融自由化に向けて舵を切ったこととも、深い関わりがある。これから、イスラーム復興と国際経済という二つの側面と関係づけながら、その実態に迫っていく」。

 当初「無利子金融」は「時代遅れの宗教的なドグマ」にすぎないと考えられ、「まもなくむなしい結末をむかえると思われていた」。しかし、その予測に反し、イスラーム銀行は、「各地で増殖し、多くの顧客のニーズを開拓することになった。その理由の一つは、「聖典で禁じられた利子を扱う銀行には行かない」という人びとが、イスラーム諸国に想像以上にたくさんいたことであった。利子を扱う銀行しかないときには、彼らは顧客ではなく、見えない存在であった。ところが、「無利子」を謳う銀行が生まれると、彼らがもっていた「タンス預金」とでもいうべき資金が大量にイスラーム銀行に流れ込むことになった」。

 イスラーム銀行がうまくいったことにたいして、つぎのような疑問が当初から投げかけられた。「「本当に利子を取っていないのだろうか」「たんに利子を手数料などの他の名前に言い換えただけではないのか」、あるいは「利子を取らないとしたら、どうやって経営が成り立つのか」「利子がなければ、預金者も損をするのではないか」」。

 これらの疑問にたいして、本書では6章にわたって答えている:「第1章 イスラーム銀行の誕生」「第2章 なぜ、利子はいけないのか」「第3章 イスラームの経済思想」「第4章 世界に飛躍するイスラーム金融」「第5章 イスラーム金融のつくり方」「第6章 イスラーム金融から世界経済が見える」。

 イスラーム経済の特徴をひと言でいえば、「公正、公平に非常に高い関心を示す」ことにあるといえよう。土地など公共性のあるものを、使用しないまま所有することは許されない。不労所得は、いうまでもない。そして、架空経済は許されず、サブプライム・ローン問題のようなことは起こりようがない。セイフティネットがしっかりしている。したがって、「イスラーム金融は、さまざまな問題を露呈させている現在の国際金融システムに対して、代替案や改善案を提示している」と注目されている。

 サブプライム・ローンは、従来のローンでは買えるはずのない人びとに、高級住宅の購入を可能にした。同種のローンで、高級自動車などを購入した人びともいた。人びとの生活を豊かにしたことは間違いなかったが、購入資金の裏付けが充分でなかった。イスラーム銀行が成功したのは、「タンス預金」で市場に出てこなかった新たな資金を利用することができたからだ。裏付けが確実でない架空の資金は危険性をともなうが、「タンス預金」を市場に出すことは、経済の活性化につながる。

 土地を使用しないで土地ころがしをすることは、イスラームでは許されない。資金を死蔵して社会の役に立てないことも、よくない話である。いま、日本で眠っている資金は、だれがもっているのだろうか。日本の将来に不安を抱え、自分たちの老後のために貯金をしている老人たちではないだろうか。老人たちが、老後に不安を感じなくなったとき、老人たちは手持ちの資金を社会にはき出すだろう。そうできる政策をすることが、いまの日本の政治に求められているのではないだろうか。

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