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2010年05月18日

『原理主義の潮流-ムスリム同胞団』横田貴之(山川出版社)

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 著者、横田貴之は、まず「イスラーム原理主義とイスラーム復興」と題したまえがきで、つぎのように述べている。「初めにいっておきたいのは、イスラーム世界において同胞団は決して地味な運動ではなく、今日最大のイスラーム復興運動の一つだということである。一九二八年にエジプトにおいて誕生したこの同胞団という組織は、創設後約二〇年のうちに同国最大の社会・政治結社に成長し、現在も同国において大きな勢力を有している。地理的広がりという点からは、同胞団に比肩しうるイスラーム復興運動はない。同胞団や同胞団に関係する組織はアラブ諸国に広く存在し、各国で大きな勢力を誇る運動となっている。その思想的影響は、さらに遠く中央アジアや東南アジアにまでおよんでいる」。

 ついで、エジプトを中心に、5章にわたってムスリム同胞団の歴史を概説し(「第1章 ムスリム同胞団誕生前夜のエジプト」「第2章 ムスリム同胞団の誕生」「第3章 バンナー暗殺と「冬に時代」」「第4章 ムスリム同胞団の復活」「第5章 新時代のムスリム同胞団」)、最後の「第6章 アラブ世界のムスリム同胞団」でパレスチナ最大のイスラーム復興運動、ハマースを扱っている。

 エジプトについては、つぎのように第5章を結んでいることから、非合法組織である同胞団が問題の解決どころか、問題をより複雑で解決を困難にしているように思える。「非合法組織が広範な社会活動を許されていることや、人民議会の二割が非合法組織メンバーという事態は、日本に暮らすわれわれにはなかなか理解しがたいことで、大きな違和感を覚えさせる。現在のところ、ムバーラク政権も同胞団にたいしては抑圧政策を基調とし、非合法状態を解く気配はない。むしろ、それ以外の政策を見出せないようにもみえる。政権側も、同胞団をいかにあつかうかについて手詰まりの感がある。この同胞団問題の解決は、エジプトの社会・政治が統合された機能的・多元主義的な民主主義を獲得するために、避けては通れない道のようにも思われる」。

 「第6章 アラブ世界のムスリム同胞団」では、「ムスリム同胞団は、アラブ諸国を中心に地理的広がりをみせており、その思想的影響は中央アジアや東南アジアにまでおよんでいる」ではじまる。しかし、「中央アジアや東南アジア」まで議論が広がるどころか、アラブ世界のなかで同胞団がどのような影響を与えているのか、よくわからなかった。本書冒頭で、本書は「アル・カーイダやターリバーン」などの「イスラーム原理主義組織」についての解説本ではないと断っている。しかし、書名が『原理主義の潮流』で、副題が「ムスリム同胞団」であるならば、ムスリム同胞団から広がるイスラーム原理主義について、語らなければならないだろう。その困難さは充分に理解できるが、「中央アジアや東南アジアにまでおよんでいる」と2度強調するなら、中央アジアや東南アジアの原理主義組織の名前くらい出してもいいのではないだろうか。さらに、それらの組織が、どのように同胞団と結びついているのか、具体例を示せば、もっとよかっただろう。エジプトのムスリム同胞団とパレスチナのハマースだけでは、「イスラーム世界における存在感、ムスリム(イスラーム教徒)たちに与える影響、活動の実績をみれば、同胞団の重要性が浮かび上がってくる」といわれても、説得力はあまりない。

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