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2010年03月16日

『グローバル・ヒストリー入門』水島司(山川出版社)
『グローバル・ヒストリーの挑戦』水島司【編】(山川出版社)

グローバル・ヒストリー入門
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グローバル・ヒストリーの挑戦
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 『グローバル・ヒストリー入門』は、「近年さかんに成果が出されているグローバル・ヒストリーについて、ヨーロッパとアジア、環境、移動と交易、地域と世界システムという項目を便宜的に分け、いくつかの研究の紹介」をしたものである。「グローバル・ヒストリーには文字情報をおもにあつかう歴史学者だけではなく、多くの自然科学者も参加し、これまでになかった斬新な手法と多様な情報が駆使された成果が続々と生み出されてきている。これらの研究は、今後の歴史学のありかたを大きく変えるもの」で、著者、水島司は、「本書によって、グローバル・ヒストリーの概要が伝えられ、歴史学のいっそうの広がりと深まりと魅力がもたらされ」ることを期待している。

 『グローバル・ヒストリー入門』の原型は、2007年4月から7月にかけておこなわれた東京大学教養学部連続講義などを基に、著者が編集した『グローバル・ヒストリーの挑戦』の「序章 グローバル・ヒストリー研究の挑戦」にある。そこでは、世界システム論、人類史、環境史、疫病史、人やモノの動きの歴史、生活、地域史・地域システム、アジアとヨーロッパ、帝国といったテーマが、おもな文献とともに紹介されている。

 『グローバル・ヒストリー入門』は、元々の企画では『グローバル・ヒストリー』というタイトルであったが、「入門」が付け加えられた。この「入門」が付け加わったことが、グローバル・ヒストリーの現状をよくあらわしている。本書で紹介されているように、グローバル・ヒストリーの必要性が唱えられ、志ある研究者がそれに挑戦している。その成果は、『グローバル・ヒストリーの挑戦』で「第Ⅰ部 グローバル・ヒストリーの方向」と「第Ⅱ部 グローバル・ヒストリーの試み」の2部に分けて、12人の日本人と1人の外国人によって語られている。各部の「方向」「試み」が示すように、グローバル・ヒストリー研究が進展することによって、どのような歴史観が登場し、未来を切り開くための考察・分析をすることができるのか、まだ定かではない。

 したがって、『グローバル・ヒストリー入門』では、最後に「グローバル・ヒストリーの課題」が取りあげられ、「グローバル・ヒストリーは、現在にいたる人びとのさまざまな共同性のあり方、人びとが生きてきた空間のあり方を、個のレベルからと地球全体のレベルからの二つの視点が交差するなかで描き出すとともに、近代という時間的限定性のなかで地球をおおうことになった国民国家の相対的位置づけをそこにおいておこなうという課題を担うことになる」とした。さらに、「グローバル・ヒストリーと日本における歴史教育のあり方についてふれ」、つぎのように締めくくっている。「もちろん、どのような歴史教育がなされるべきかという問題は、たんに教育の場のみが背負うものではない。ありうべき歴史認識、世界認識の形成に資する教育のあり方は、自身の立つ時間的位置と空間的位置、そして社会的位置を明確に認識しつつ、人と人との新たな繋がりを求めて模索する人びとすべてに資するものであるからである。そうした人びとの期待にこたえることが、グローバル・ヒストリーの課題であり歴史学の課題ではなかろうか」。

 『グローバル・ヒストリーの挑戦』全13章をみると、具体的な事例に基づいて論じているものとそうでないもの、その具体的事例でもそのデータに疑問をもちながら論じているもの、議論の枠組みをつくろうとしているもの、グローバル・ヒストリーの成果をどのように研究・教育に活用できるかを論じているものなど、さまざまである。はっきり言えることは、グローバル・ヒストリーという考え自体が、まだ確固たるものになっていないことである。具体的な事例の積み重ねと豊かな想像力が相まって、「試み」がおこなわれ、「方向」が定まってくるのだろう。「入門」で得たことを確認しながら「挑戦」を繰り返すことで進展していくグローバル・ヒストリー研究のゆくえを見守りたい。


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