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2009年06月02日

『政府系ファンド 巨大マネーの真実-なぜ新興国家が世界を席巻するのか』小原篤次(日本経済新聞出版社)

政府系ファンド 巨大マネーの真実-なぜ新興国家が世界を席巻するのか →bookwebで購入

 本書が出版されたこと自体が、経済の危機である。一般の人が「政府系ファンド」と聞けば、安定し、安心できるというイメージをもつ。ところが、「政府系ファンド」の定義もできなければ、実態もわからないという。だから、それをわかりやすく解説した本書が企画された。本来は、このような本が出版されないような、わかりやすく安心できる経済的環境であるべきだ。とくに影響力が大きく、公共性のある「政府系ファンド」は。

 著者、小原篤次は、そのわかりにくい政府系ファンドを、つぎのように定義している。「筆者なりに政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド、SWF)を短く定義すれば、「政府が運用原資を掌握し、運用対象に外国株式などのリスク資産を含む公的投資機関(年金基金など伝統的機関投資家、通貨当局の外貨準備運用を除く)」となる」。また、著者は、「図1-1 政府系ファンド定義・批判の論理構成」で「批判される」ものと「批判されない」ものなどに分けて、わかりやすく考えようとしている。しかし、その原資、機関は国・地域によってさまざまで、この図ではとてもあらわすことができない。そんな恐ろしいものが、いま「世界を席巻」している。

 その恐ろしさは、本書の目次を見て、再確認できる。
 第1章 四兆ドルの「実力」-ヘッジファンドを超えた政府系ファンド
 第2章 国家・政府に奉仕するファンドマネジャー
 第3章 政府系ファンドの持つ意味
 第4章 金融グローバル化-無国籍化するマネー

 著者は、「サブプライムローン問題が二〇〇七年初めに顕在化した後、世界的な悲観ムードを変えた瞬間があった。それが、政府系ファンドなど新興国マネーの台頭だった」という。しかし、このような「不透明な」マネーが、問題の根本的な解決にならないことは、だれにでもすぐわかるだろう。そして、「世界金融危機は、経済学が単なるイデオロギーや研究者の知的冒険ではなく、政策のツールであることを教え」、「経済学の意義を高めている」。その経済学は、理論から遠く離れた動向分析と「予想」でしかなく、それも後手後手にまわり、現実に対応できていない。

 著者が、新興国と金融の関係を考える背景として、フィリピン大学の大学院生時代に「アジア、アフリカからの留学生と寝食をともにし、時間を気にせずに本音で議論する機会に恵まれた」ことがあるだろう。フィリピンのマルコス大統領やインドネシアのスハルト大統領の不正蓄財やタイのタクシン首相の退陣につながる問題など、東南アジアに目配りがきくのも、その影響だろう。

 本書は、著者が心がけたために読みやすいものになっている。しかし、けっしてわかりやすいわけではない。そのことは、「ゴシップ」をとりあげていることからもわかる。「不透明」でわかりにくい部分を、「ゴシップ」で補っている。今日の金融危機を克服するために、そして今後新たな危機を生まないために、金融制度を透明でわかりやすいものにすることが不可欠のように思える。なぜなら、オイルショックやアジア通貨危機などを乗り越えるたびに、金融制度が複雑、不透明になり、だんだん危機の深刻さが増してきているからである。

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