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2009年04月21日

『アジア海賊版文化-「辺境」から見るアメリカ化の現実』土佐昌樹(光文社新書)

アジア海賊版文化-「辺境」から見るアメリカ化の現実 →bookwebで購入

 まず、タイトルに惹かれた。つぎに、各章のタイトル見て期待した。そして、カバー見返しの要約を読んで楽しみになった。

 各章のタイトルは、つぎのとおりだが、節や見出しからも、いろいろな現実を教えてくれるのではないかと期待はふくらんだ。
  第一章 アジアとアメリカ
  第二章 ミャンマーの海賊たち
  第三章 中国の海賊、そして文化とコピーの関係について
  第四章 ティーショップに霧深く-公共圏から見たアジア文化
  第五章 ポピュラー文化が切り開く通路-「韓流」が見せたアジア的交流
の可能性
  終章 空高く、あるいはビル群の隙間からアジアの明日を見つめる

 要約では、つぎのように書かれていた。「文化人類学者である著者は、ミャンマー、中国、韓国の内部へと分け入り、鳥の目と虫の目でフィールド調査する。そこで発見したものは、海賊版ネットワークによってハリウッド等のアメリカ文化が受容されている現実であり、ビデオショップや喫茶店に集う人びとの体制批判であった」。「それら、先進諸国からすれば「非合法」なものこそ、統制社会の中にグローバル化の風をもたらすものなのだ」。「今こそ、こうした事実をふまえて、古いアジア像を更新する時である」。

 その古いアジア像とされたひとつが、梅棹忠夫の「文明の生態史観」であった。具体的に、著者、土佐昌樹はつぎのように述べている。「「文明の生態史観」がもつ本質的な欠陥を克服しなければならない。それは、ユーラシアをあたかも完結した系のように取り扱い、その中での歴史的進展にだけ注目したところにある。南北アメリカ、オセアニア、アフリカとの相互作用がまったく図式から欠落している。とりわけ、北米との相互作用が抜け落ちているのは、二〇世紀以降の世界を語る上で致命的な欠陥であり、その点は著者も自覚していたことを後で語っている。しかし、アジアと日本の文化変容にとって、アメリカは副次的な要因として片付けるにはあまりに大きな存在である。端的にいって、アメリカを軽視したあらゆるアジア論は空論になるしかないだろう」。

 以上のことから、著者の意図はわかったが、読み終えて、わたしが期待したものとは違っていたことがわかった。わたしが期待したのは、アジア各国・地域で、「アメリカ化」がどのように具体的に受け止められ、そこからどのように独自の「発展」をしているのかという、きわめて近代的な発想からのものであった。しかし、具体的な事例は、要約にあるとおりミャンマー、中国、韓国が中心で、それも期待していたほど「内部へと分け」入っていなかった。著者が「あとがき」で述べている「過去一〇年くらいの間で大学の仕事や調査研究を目的として訪れた国と地域」としてあげている「韓国、中国、ミャンマー、モンゴル、香港、台湾、ベトナム、タイ、インドネシア、フィリピン、スリランカ、マレーシア、キルギス、カザフスタン、ウズベキスタン、インド、ドバイ、イランなど」は、とくに取りあげられているわけではない。

 そして、「古いアジア像を更新」するために、ハーバーマスの公共圏にはじまり、ターナー、グレーバー、コーエン、クリフォード、アンダーソン、アパデュライなどの理論を用いて説明している。著者は、「終章」の最後を、「途方もない創造性と途方もない矛盾を抱え込んだ相似形のようなアジアの諸都市が、活発な交流を展開しながらお互いの「文化」を競い合う時代に突入したわけであり、その未来に胸ふくらむばかりだが、放蕩の自己増殖による破局(カタストロフ)のシナリオも絶えずその出番を窺っているかのようである」と結んでいる。文化人類学者ではない者にとっては、近代を基本とした理屈より、近代の理屈では語れない具体的事例をたくさん挙げてほしかった。とくに「アメリカ化」の歴史が長く深いフィリピンを研究対象としている者にとって、「アメリカ化の現実」の意味するものが気になった。

 具体的事例をもっと知りたくなったのは、本書を読んで、つぎのような疑問が浮かんだからである。近代における「アメリカ化」とグローバル化時代の「アメリカ化」とは、どう違うのだろうか。アジアの「アメリカ化」とほかの地域の「アメリカ化」とは、違うのだろうか。アジアといっても東南アジアを含む東アジアとほかのアジアとの違いはあるのだろうか。「「公共圏」が生まれる」ということが、なにを意味するのか。近代を越えるという意味で、もっと具体的に知りたいと思った。


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