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2008年11月11日

『日本経済新聞の読み方』日本経済新聞出版社(日本経済新聞出版社)

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 「ビジネスに、投資に、就職・転職活動に…… すぐに役立つ活用法!」
表紙にこんな宣伝文句が載っている。かつて、家庭の通信費は新聞代と電話代、郵便代くらいだった。それが、いまや携帯電話代とインターネット代に食われ、郵便代は意識しなくなり、固定電話代は基本料に近くなった。購読料が下がることのない新聞代がなんとかならないか、と思っている家庭があるのではないだろうか。若い世帯では固定電話がなく、新聞もとらなくなってきている。この宣伝文句は、普通の家庭で日本経済新聞1紙だけをとることを想定していない。

 毎朝1時間は新聞を読んでいる人なら、全国紙の朝毎読産のうち1紙、地方紙と日本経済新聞の3紙を読みたいと思っているのではないだろうか。定年退職を機会に、奥さんから「1紙だけにしてください」と言われて悩んだ人もいる。定年退職後こそ、好きなだけ新聞を読みたいのに。そう奥さんに言えば、「図書館にでも行ってください」と言われるのだろう。公共図書館に行くと、新聞を楽しそうに読んでいる年配の人がいる。

 いまや情報源は新聞だけではない。テレビでも経済に特化した番組やチャンネルがあり、インターネットでも瞬時に情報が得られる。全国紙夕刊の前場午前の株式市況など、もうなくてもいいのではないかと思う。しかし、新聞はほかの情報源にない特色をもっている。なんども繰り返し、考えながら読むことができることだ。思考力を鍛えながら、情報を得ることができる。

 わたしは、十数年前、事典の「編者のことば」を書くにあたって、ストックの情報として事典、フローな情報として新聞を想定した。しかし、いまや新聞を相対的にストックな情報として考えなければならなくなった。事典もウィキペディアの出現によってフローな情報の仲間入りをし、フローな情報が氾濫するようになったからである。それだけ、わたしたちは情報について注意しなければならなくなった。本書は、その注意しなければならない点をも気づかせてくれる指南書である。いまのわたしたちに必要なのは、フローな情報をストックの情報に変える知識と思考力である。

 本書「まえがき」は、「現代は激動の時代です」ではじまり、「地球の反対側で行われた商品の開発や会社の買収だけではなく、冒頭に掲げたような、各国の政治の動きや紛争が、株式相場や為替相場、資源価格の変動に「翻訳」され、たちまち私たちの暮らしや仕事に響いてきます」と説明している。貯蓄より投資が奨励されるようになってきた日本では、内外の経済動向は、個々人の「暮らし」に直結するようになってきている。逆に投資より貯蓄が奨励されている国もあり、そのような国では政府が経済政策をしっかりしようとしている。つまり、いまの日本は、政府が無責任になって、暮らしも老後も個人の自己責任にしようとしているのではないかと思えてしまう。

 しかし、個人が世界の経済動向を把握して投資し、いまの暮らしと老後を自己防衛することは不可能なことだ。では個人に何ができるか。多少の生半可な経済的知識でマネーゲームに参加するのではなく、政府や金融機関にもの申すだけの知識をもつことだ。それは、断片的な知識ではなく、暮らしを中心に考えた総合的な知識だ。そのために必要なものが、日本経済新聞にある。

 「まえがき」には、つぎのようなことが終わりのほうに書かれている。「1つひとつのニュースはつながっています。ですから、ニュースを個別に読むだけでは、複雑な世の中を読み解くことはできません。たくさんのニュースがどんな関連をもち、その背景に何があるのかを理解することが大切です。本書の後半では、例えば「景気」や「物価」といったテーマについて、新聞がニュースを日々どのように報じ、関連のある記事がどこに掲載されているかがわかるように構成しました。いま注目すべきトピックを知ると同時に、新聞を読みこなす方法を理解できることと思います」。

 日本経済新聞は、宣伝文句にあるような「もうける」ためではなく、「暮らし」のために読みこなしていきたい。しかし、いまの紙面のままだと、定年退職後「1紙だけにしてください」と言われたとき、日本経済新聞は切り捨てざるをえない。

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