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2008年01月15日

『CSR 働く意味を問う』日経CSRプロジェクト編(日本経済新聞出版社)

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   本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。


 CSR(企業の社会的責任)レポートを、数十集めた。ここ数年、企業は積極的に営利とは直接結びつかない活動をし、それを社会にアピールするためにレポートを出版している。その目的は、第1にコンプライアンス、法令遵守である。つぎに環境問題、地域貢献などで、セクハラ防止対策もある。しかし、企業の不祥事が続き、第1の目的さえ充分に認識されていないことがわかる。各企業のレポートをよく読むと、いまや社会から信頼を得るための義務であると理解し、専門知識をもった社員を配している企業もあれば、一流企業といわれるためにマニュアル通りに出しただけで、専任者をおかず下請けに出していると思われるところもある。どの企業がどこまで本気か、CSRレポートを読み解く力が必要になる。

 本書は、日経CSRプロジェクトから出版された3作目である。「はじめに」につぎのように、その目的を記している。「一作目は、『CSR 企業価値をどう高めるか』と題し、企業を取り巻くステークホルダーごとに各分野の専門家が集い、CSRを多面的に論じた。二作目は、『CSR 「働きがい」を束ねる経営』と題し、現場で働く企業人のルポルタージュと識者の寄稿によって、企業経営と社員の働きがいとの関係を提言した。本書はさらに踏み込み、社員それぞれの「働く意味」について考える、という観点から構成している」。

 続いて、つぎの各章の内容が紹介されている。シンポジウムの講演や日経CSRプロジェクト参加企業の社員が大学・高校で行った派遣授業のルポルタージュなどである。
  序章 働く意味とCSR
  第1章 大人のためのモチベーション論
  第2章 なぜ私たちは働くのか
  第3章 CSRを担う人々
  第4章 人と人とのつながりが生む力
  第5章 社会から信頼される社員・企業とは
  第6章 受け継ぐCSR~いまこそ話そう、働くことのリアル~

 本書を読んで感じたことは、いま個人でも企業でも、スペシャリストでありジェネラリストであることが求められているということだ。本書に登場する成功例は、専門的な知識と豊かな人間性に支えられている。しかし、この両者を同時に実行することは難しい。専門性を身につけるためには、ある一定の期間、ひとつのことに没頭することが必要だ。他方、豊かな人間性を身につけるためには、視野を広げるためにいろいろなことに興味をもつ時間的ゆとりが必要だ。そして、ともに社会人として成長する時期に行うことが肝要だ。個人個人で、このことを充分意識して、目先のことだけに踊らされない中長期的な計画が必要となる。

 「おわりに」では、つぎのように記されている。利害関係者である「ステークホルダーとの対話とは、CSRレポートを出すことではない。社員が日々の業務のなかでかかわりのあるすべての人々と向き合うことだ。営業部員が顧客や代理店と、調達部員が納入先と、製品開発部員が大学・研究機関と真摯に語る。経営層が一般社員と、先輩社員が後輩社員と話し合う。企業を離れても、全社員が、一市民として隣近所などの地域社会と交流すべきだろう」。

 問題は、個人・企業が、このように意識しても、それを実行するだけの時間的・心的余裕があるかどうか、ということだ。ましてや、派遣社員やフリーターに、それを求めることができるだろうか。この格差社会のなかでは、本書で語られていることは、「きれい事」に思えてしまう。どういう社会をつくっていくのかというビジョンがなければ、絵空事に終わってしまう。国家だけでなく、地域、地球レベルで考えていかなければならないことである。

 もうひとつの問題は、たしかに学生のCSRへの関心は高まったが、その学生を社会に送り出す大学がどれだけCSRについて知っているかということだ。日々の授業のなかで、学生が卒業後、企業で働くことを意識している教員がどれだけいるだろうか。私立大学などでは、学生の就職支援のために企業まわりをしている教員もいる。教員本来の仕事ではない、と無関心の者もいるが、教育者であるならば、学生の卒業後の環境についても知っておくべきだろう。とくにもはや研究者養成だけではなくなった大学院教育において、社会(企業)とのかかわりが重要になっているはずだが。

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