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2007年10月09日

『草の根の軍国主義』佐藤忠男(平凡社)

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   本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。


 敗戦時14歳の少年兵だった著者、佐藤忠男は、戦後映画評論家になった。著者が、アジアの映画、とくに日本との戦争を題材とした映画に関心があることは、以前から知っていた。本書は、その専門性をいかし、一体験者として、「気分が戦争に突っ走っ」た背景を探ろうとしている。そして、アジアの平和のために、映画を通じてなにができるかを真剣に考えている。

 社会史や民衆史を理解するために、映画は恰好の材料を提供してくれる。戦争について、一般民衆は「犠牲者だった」という視点で描かれることも少なくない。しかし、著者は、一体験者として、「民衆は、指導者層や軍部に操られ踊らされただけだったのだろうか」と問いかけている。「捕虜になったらどうしよう?」の節を読むと、「操られ踊らされた」民衆がいかに残酷な存在になるかがわかってくる。映画「足摺岬」で描かれた主人公は、「俺がもし戦場で捕虜になれば、俺のおふくろも姉たちも近所の人々から白眼視されて故郷の町には住んで」おれなくなることを心配している。東条英機陸軍大将の名で出された「戦陣訓」の「生キテ虜囚ノ辱シメヲ受ケズ」ということばが、日本兵に捕虜になることより自害を選ばせたことは、よく知られているが、故郷の家族にまで累が及ぶ社会的圧力があったことは、戦後あまり語られていない。

 日本の戦争責任は、指導者層や軍部が充分に責任をとらなかっただけでなく、「戦争協力」した民間企業や民衆が、なぜ「操られ踊らされた」のかを検証しなかったことにも、問題があったということができるだろう。著者のように、「一体験者として書いておかなければいけないのではないか。そう思って私はこの本を書きました」という人が多く現われ、それに耳を傾ける戦争を知らない世代が増えると、いま起こっている戦争をやめさせ、将来の戦争を未然に防ぐことができるだろう。その意味で、最後の節の「大東亜戦争のまぼろし」は、本書をたんなる過去を検証するものから、今日と未来を考えるものにし、本書の価値をいっそう高いものにしている。

 この最後の節で紹介されているイラン・イラク戦争を扱った戦争映画では、目が見えなくなったイラン兵と歩けなくなったイラク兵の友情が描かれている。この映画を、著者はつぎのように評している。「これはイラン・イラク戦争の和解の映画と言えるでしょう。アメリカというより強大な対立者の前でイスラム同士の和解の必要が痛感されているのかもしれませんが、そういう目先の問題を抱えて<敵>を理解し、<敵>の眼で自分も見る映画こそが、いま世界で広く必要とされているのだと思います。」

 また、福岡の映画祭で公開されたイラン映画「運動靴と赤い金魚」を観たフィリピン人が、フィリピン国内のキリスト教徒とイスラーム教徒の和解を訴える映画を制作したことを紹介している。フィリピン人は、「イランのことはアメリカのテレビのニュースを通じてしか知ることはできない。当然のことながらアメリカのテレビではアメリカに敵対する嫌な連中としてのイラン人しか写らない。だからそれしか見ていないフィリピン人としてはイラン人というと薄気味が悪いというような先入観を持つことになってしまう。ところがどうだ。この「運動靴と赤い金魚」というイラン映画は! ここに描かれているイラン人ときたらみんな、俺たちフィリピン人とそっくりの人のいい連中ばかりじゃないか、というのです。本当に驚いたみたいです。」そして、この作品を観たフィリピン人映画監督は、「仲間たちに本当に、「命が危ないからよせ」」と忠告されたにもかかわらず、和解の手段としての映画をつくりあげた。そして、その映画を観て、著者は「映画こそは<敵>を理解する手段」「和解の手段」だと確信した。

 もし、世界の国のすべてに友人がいれば、その国と戦争になるかもしれないと思っただけで、その国の友人の顔が浮かび、戦争を回避する努力がなされるだろう。しかし、現実には、難しいことだ。著者は、映画ならそれが可能だと考えている。だから、著書は、世界の映画を、とくにアジアの映画をアジア人同士が観て、友情的感情を深め、<敵>意を失わせることを考えている。「ハリウッド映画の世界支配に対抗する力」こそが、世界平和へ続く道だと確信している。衛星放送などで、世界の映画を観る機会は確実に増えている。本書は、世界平和のために、世界各国・各地の映画を観てみようではないか、とよびかけている。

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