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2006年08月15日

『本当に「中国は一つ」なのか-アメリカの中国・台湾政策の転換』ジョン・J・タシク・ジュニア編著、小谷まさ代・近藤明理訳(草思社)

本当に「中国は一つ」なのか-アメリカの中国・台湾政策の転換 →bookwebで購入



   本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。


 1996年3月、NHKBS1でフィリピンのニュースを見ていたら、マニラに日本の軍用船が50年以上ぶりに入港したと大きく報じていた。中華人民共和国(中国)軍が、台湾に直面する中国沿岸で軍事演習をはじめ、台湾の高雄と基隆の沖合にミサイル4発を発射したときである。日本の報道は、中華人民共和国軍の演習とアメリカの空母機動部隊の動きを中心にしていた。そのとき疑問に思ったのは、日本の海上自衛隊の動きが報道されなかったことだ。流れ弾が日本の領域に飛んでくるかもわからない状況で、日本が監視船を出していないのはおかしいし、監視船を出しているならそれを報道しないというのもおかしいと感じた。

 あれから10年、中華人民共和国の存在は、軍事面だけでなく、まずもって経済的に大きく発展し、政治力も増し、文化などあらゆる面で、「超大国」ぶりを発揮するほどになった。その存在があまりにも大きくなったために、わたしの専門とする東南アジアにも大きな影響を与え、その陰に隠れて東南アジアの存在が無視されるのではないかと危惧さえ抱くようになった。しかし、その危惧は、台湾に比べるとはるかに小さいことが、本書を読んでわかった。

 本書は、「アメリカを代表する有力シンクタンクの最重要提言!」で、「「一つの中国」政策は時代遅れの虚構である」と主張している。別の言い方をすれば、アメリカが台湾を見捨てれば、「民主主義国家となった台湾」の「民主主義」がなくなり、「アメリカの国益を損なう」ことになるという。「訳者あとがき」によると、本書は2004年3月の台湾総統選の直前の2月に開催されたシンポジウムをまとめたもので、「最大の特徴は何といっても、これまでタブー視されてきた曖昧な「一つの中国」を公然と論じた点」である。「アメリカの政府高官のなかにさえ誤解があるというアメリカの「一つの中国」政策の真の意味」は、「決して台湾の主権を中国に認めるものではないことが、膨大な資料を提示しながら説得力もって詳細に解説されている」。

 本書で何度も出てきて確認されていることは、アメリカ政府は、「中国はただ一つであり、台湾は中国の一部であるという中国の立場をアメリカは認識」している、ということである。つまり、アメリカ政府は、中華人民共和国政府が主張するような、台湾には国家としての主権がなく、台湾は主権国家中国の一部である、ということは認めていないというのである。そのアメリカの基本的台湾政策が、「経済大国となり、軍事力を増強しつづけ、台湾を脅かしてアジアの覇権を握りつつある中国を前に」、「全体主義、独裁専制国家、領土拡張主義という言葉」を並べて、いわゆる「中国脅威論」が展開されるいっぽうで、「台湾問題をきっかけに中国の民主化を促し、世界に民主主義を拡大するという夢と希望が高らかに語られ」ている。

 この台湾をめぐる問題は、きわめて政治化していて、もはや従来の国際関係では解決しえない問題であるかのようにみえる。そして、それは当事国だけの問題ではすまされなくなっている。近隣諸国の一つである日本にとっても、いつその影響が直接に及ぶかわからない。だからこそ、本書が日本語に訳され出版されたのだ。また、台湾が、「一つの中国」という原則から、中華人民共和国が加盟している国際機関からはじき出されていることは、グローバル化する現代、どのような影響が世界全体に及ぶかわからない危険性がある。たとえば、2003年に「台湾のオブザーバー資格でのWHO参加が否決された」ことは、SARSや鳥インフルエンザなどの伝染病の拡大阻止に影響を与えることを意味している。主義主張を超えた解決の糸口を見つけるために、この分断国家の悲劇の原因をつくった日本に、なにができるのか。本書を読むかぎり、台湾の運命はアメリカの政策で決定されるように思えてくる。それでは、あまりに情けない。日本の「国際貢献」とは、このような問題の解決に努力することではないだろうか。

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