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2006年04月11日

『国際テロネットワーク-アルカイダに狙われた東南アジア』竹田いさみ(講談社現代新書)

国際テロネットワーク-アルカイダに狙われた東南アジア →bookwebで購入



   本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。


 本書でとりあげている1990年ころからの東南アジアを、わたしもよく歩いた。ニュース報道としてとりあげられる事件と、実際に自分が見聞きした社会がどう結びついているのか、いまひとつよくわからなかった。それが、本書を読むことによって、多くの謎が解けた。

 「伝統的な書斎派タイプではなく、明らかに現場主義の研究者である」著者の竹田いさみは、本書の目的を「まえがき」でつぎのように述べている。「世界を見渡すと、実にさまざまなイスラム過激派やテロ組織が存在することに驚かされる。数あるテロ組織のなかで、本書ではアルカイダおよびアルカイダ系と呼ばれるテロ組織に限定して、その国際的なネットワークをあぶり出そうとしている。なぜ、アルカイダは東南アジアに進出したのか、またなぜ、東南アジアはそれを許したのか、その謎に迫りたい」。

 続けて、本書の構成と内容の要約を、つぎのようにしているのでわかりやすい。「第1章では、アルカイダの誕生から現代までの変化を追い、その組織の求心力とは何だったのかを考える。現代史のなかでアルカイダを捉えてみたい。第2章では、アルカイダが東南アジアに進出した要因をさまざまな角度から検証する。第3章では、東南アジアにおいて、どのようなアルカイダ系のイスラム過激派やテロ組織が存在し、なぜアルカイダと提携したのか、また、どのような国際テロネットワークを形成したのかを探る。第4章では、国際テロ組織やイスラム過激派と呼ばれる集団がどうやって資金を調達してきたのか、そのメカニズムを説き明かしたい。終章では、アルカイダの進出によって明らかにされた東南アジア地域の抱える問題を整理し、先進諸国、あるいは日本の役割について言及してみたい」。

 本書によって、大方の読者は「国際テロネットワーク」の概略を、理解できただろう。しかし、本書だけで満足することはできない。それは、著者への不満ではなく、本書が扱ったテーマが、ひとりの研究者、ひとつの研究分野だけで、扱えきれるようなテーマではないからである。マクロ的には、本書でも述べているように、「ちょうど米国経済のグローバル化とほぼ歩調を合わせるように、テロ組織における資金調達のグローバル化も進んだ」ことの検証が必要だろう。ミクロ的には、「なぜ、アルカイダは東南アジアに進出したのか、またなぜ、東南アジアはそれを許したのか」という著者自身の問いに、まだ充分に答えられていないことに答えることだろう。著者もそのあたりは承知していて、「あとがき」で「英語のみで調査」することへの「ご批判は覚悟のうえである」と予防線をはっている。「ご批判」するつもりはないが、東南アジアの民族間関係や社会の成り立ちは、一朝一夕に理解できるものではない。それが、インド洋を跨ぐ歴史的な積み重ねのうえでのイスラームとのかかわりが絡み、文献を重視しないイスラームや海域世界となると、いかにこのテーマが難しいかがわかってくるだろう。さらに、フィリピンではジャーナリストが殺害される報道が絶えない。世界有数のジャーナリスト受難の国だ。著者が終章で提起する国際テロネットワークの「根絶」策も、これらマクロとミクロの充分な把握があって、効果を発揮するだろう。それだけに、本書が議論の土台を提供した意味は大きい。

 それにしても、フィリピンは不思議な国だ。歴史的にみれば、16世紀後半に当時世界の最強国であったスペインの支配がはじまり、19世紀末には20世紀の最強国家アメリカ合衆国の植民地になった。日本の占領も、3年間以上経験した。フィリピンから宗主国を通して、世界も時代もみえてくる。しかも、中心からではなく、周辺という違った角度からみえてくる。今度は、本書からも明らかなように、フィリピンを通してテロ組織の実態がみえてくる。これらのことから、フィリピンを事例研究することの意味が、ひじょうに大きいことがわかるだろう。しかし、なぜ、この国から貧困が消え去り、正義がやってこないのか、もう30年間もつきあっているのに、みえてこない。

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