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2006年01月24日

『平和ミュージアム』立命館大学国際平和ミュージアム監修(岩波書店)

平和ミュージアム →bookwebで購入



   本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。


 本書は、立命館大学国際平和ミュージアムが、2005年4月にリニューアルされたのを機に、「常設展示のなかから、展示写真・資料約300点を選んで」、岩波書店が編集・発行したものである。DVDが付属され、「ピースメッセージ」(約10分)と「ピースマシンの旅」(約25分)という2本の映像作品が組み入れられ、実際にミュージアムに行かなくても展示を観ることができるようになっている。

 3つの要素からなるミュージアムは、つぎのように紹介されている。「地階の常設展示室は、日本の「十五年戦争」(1931年の「満州事変」から1945年の日本の「アジア太平洋戦争」敗戦までの戦争)の加害と被害の実態に加えて、第1次世界大戦からイラク戦争に至るまでの世界の戦争や紛争を描いています。いわば「平和のための戦史資料室」で、直接的暴力としての戦争や紛争を視野に入れて描いています。2階の「平和創造展示室」はその冒頭で「戦争がなければ平和でしょうか?」と訴えかけ、世界の構造的暴力の諸相と、それを克服するための市民たちの努力を描いています。「自分に何ができるか、あなたも考えて下さい」と呼びかけています。このフロアには、戦没画学生の慰霊美術館である「無言館」(長野県上田市)の姉妹施設である「無言館/京都館 いのちの画室(アトリエ)」や、平和をモチーフにした絵画や文学作品も紹介されています。そして、1階の「国際平和メディア資料室」には、戦争や平和についての文献・書籍・ビデオ・CD-ROM・DVDなどが豊富に用意されています」。

 大学がこのような時事問題にも通ずるテーマを、世に問うことは何を意味しているのだろうか。毎年8月15日の終戦記念日が近づくと、それに関連する書籍が出版され、雑誌やテレビ番組では特集が組まれる。それらと、どう違うのだろうか。近年の戦争論は政治的な問題が絡み、右からも左からも啓蒙的な論調が目立つ。さまざまな意見があって、いったい何を信用していいのかわからなくなり、考えることさえしなくなった人も少なくないのではないだろうか。だからこそ、大学がこの問題をとりあげ、教材として出版することに大きな意味がある。大学が出版する教材は、学問的成果を基本につくられる。そして、ものごとを考える基本(理論)を例示しながら、論を進めていく手堅さがある。生徒・学生や世間一般の人びとを、マインドコントロールの呪縛から解放する役目も果たすことができる。世の中は、事実ではなくイメージで動く。そのイメージを正しくするために、基本に忠実に論を進めていくのが、大学の教材の真髄だろう。

 本書は、「小・中学生のジュニア用に、わかりやすいナレーションが付いた映像も収録」されているということは、高校生・大学生・社会人一般を対象にしているのだろう。それならば、さらに学習を発展させることのできる「参考文献」一覧が欲しい。たしかに、写真をふんだんに使った本書は、「「自分に何ができるか」という実践的な視点で行動を模索すること-立命館の平和ミュージアムは、そのような学習と実践へのゲートウェイでありたい」というきっかけづくりにはなるだろう。しかし、視聴覚教材は、「その場限りの納得」に終わりがちである。視聴覚教材で得た知識は、書籍を読破することによって本物になる。

 それにしても、大学というところは教育機関の筈だが、教材作りという点においては、ひじょうに軽視してきたと言わざるをえない。研究と教育、教育も専門と教養のバランスを考え、実行している大学は、それほど多くないだろう。研究で顕著な業績をあげている者に、教育に時間を割くよう要求するのは、逆に大学にとってマイナスになる。大学で問題なのは、研究でさしたる業績をあげていない教員をそのままにしていることだ。そういう教員のなかには、研究より教育に向いている者がいるかもしれない。ある年齢になって、集中力・体力のいる研究がつづけられなくなった者もいるだろう。そういう教員に、教育を重点的に考えてもらい、教材・教育工具の開発などに力を注いでもらってはどうだろうか。これまでの経験をいかして、いいものができるはずだ。そのとき大切なことは、教育業績にたいして研究業績に勝るとも劣らぬ評価をすることだ。大学にとって、研究と教育は比較にならない次元の違う、ともに大切な両輪だからだ。大学というところは、人材活用と評価の仕方の面で、立ち後れているような気がする。

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