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2005年04月26日

『教養のためのブックガイド』(東京大学出版会)
『大学新入生に薦める101冊の本』(岩波書店)
『歴史研究と地域研究のはざまで−フィリピン史で論文を書くとき』(法政大学出版局)

教養のためのブックガイド 大学新入生に薦める101冊の本 歴史研究と地域研究のはざまで
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   本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。


 新学期ということもあり、大学新入生のための読書案内が2冊出版された。ともに「教養」を意識しての企画である。

 東京大学教養学部は、1994年に出版した『知の技法』以来、教材開発事業をすすめており、だんだん洗練してきた感がある。図書紹介も、本が主人公ではなく、執筆者の個性が前面に出ていて、こんな先生のこんな話の授業を聞きたいという気にさせる。「読んではいけない本15冊」があったり、「教養がなくってごめんなさい」というコラムがあったりで、目次を見ているだけで楽しい気分になる。専門を度外視して、本全体を読んでみたくなる。読んでみて、いろいろな発見もあった。
 物理学は「時間と空間の本質」を追求しており、次元が違うとはいえ歴史学と同じだと驚いた。ビジュアル情報は想像力と思考力を貧困にさせるという記述は、「視聴覚教材の使用は、学生をバカにしているだけだ」と言って、文字を読ませる授業をしているわたしを喜ばせた。ひょっとすると、この本は執筆者たちの「同僚の再発見」という副産物を生んだかもしれない。

 それにたいして、広島大学総合科学部の読書案内は正攻法だ。両開き2頁で1冊の本を紹介している。学部として「一〇一冊の本プロジェクト」を立ち上げて議論を重ね、「時代を超える基本教養」「人間の記録」「越境する知」「現代の重要問題」というわかりやすい4つの章にわけて、バランスよく紹介している。難易度にあわせて、★マーク数1〜3をつけているのも親切だ。
 感心したのは、「著者とその時代背景」欄があることだ。東京大学の本で紹介されている「読んではいけない本」のなかにも、いま読んではいけない本であって、出版された当時は「読んでいい本」だったものもある。本には「旬」があり、最近出たものでなければ、どういう時代背景でその本が書かれたのかを知る必要がある。その助けになる欄があることで、古色蒼然とした本がいまに通用するものとして蘇ることもある。
 そして、最終章の「本の買い方選び方」も魅力的だ。これで本をとりまく世界の広がりが一気にわかり、「本の目利き」ができるようになって、世の中がわかったような気分になること請け合いだ。そうなると、いまの世の中も、だんだんおもしろくなってくる。

 問題は、このような読書案内を手にとって、実際に本を読むことになる新入生がどれだけいて、在学中にどれだけの「教養」が身につくかだ。まずもって、インターネット世代の新入生は、本を丸ごと1冊読まない。インターネットで検索して自分のほしい情報だけを得るように、興味ある部分だけを拾い読みするという読み方をする。ましてや、お金を出して本を買うということはしない。本を丸ごと1冊読むことの効用、本を買ってマークを付けたり線を引いたりメモしたりすることによる読解力の違いなど、本を読むことの基本的意味づけも、案内には必要だったかもしれない。それでも、読書習慣のない学生は、本を読まない。
 授業科目もかつての必修科目が減り、「自己責任」で選択して自分にあった能力をつける、いまの大学カリキュラムでは、学生が共通に読む本はあまりない。とすると、もう強制的に読ませ、買わせるしかないか。授業科目ごとに最低1冊の本の書評を要求することも、ひとつの方法だろう。
 わたしが実践しているのは、試験のとき「本2冊まで持ち込み可」で、本さえ読めば単位がもらえるというのも、学生にとってはありがたいことのようだ。まずは、本を丸ごと1冊読む体験をしてもらうことから、始めなければならないようだ。

 3冊目は、挨拶がわりに自分の新刊書を紹介します。これは、はじめて論文(卒論・修論)を書く学生・大学院生のためのマニュアル本です。わたしの専門のフィリピン史を具体例としていますが、ほかの分野・地域で論文を書こうとする人も、すこし設定を変えるだけで充分に役立つはずです。
 論文指導をしていて気づいたことは、学生は言われたときには納得してわかったつもりでも、実際に自分で書こうとしたときにそれをなかなか活かせないことです。また、学生によって、論文作成の進捗状況が違い、個々の学生にあった指導するのは難しいということです。教師が、思いつきで話をするのも、学生を混乱させる元になっています。そういったときに、いつでも読むことができるマニュアル本があると学生も教師も便利、ということで書いてみました。
 ところが、この本の最大の欠点は、第1章「はじめて論文を書くためのスケジュール」の最後に書かれています。「このガイドに書かれたアドバイスの意味がよくわかるようになるのは、論文を完成させて提出した後でしょう」と。この本の刊行で、もっともウケがよかったのは、すでに論文を書いたことがあり、博士論文に取り組んでいる人たちでした。

 従来の日本の大学では研究が中心で、教材の開発にはあまり熱心ではありませんでした。いま時代の転換点にあって、研究者自身も研究の基礎や学説史の確認、学際・学融合的研究のためのほかの分野の基本知識の必要性を感じるようになってきています。このような読書案内や論文作成マニュアル本の開発は、学生のためだけでなく、新しい科学への基礎力となっていくことでしょう。

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