2017年06月20日

『戦後日韓関係史』李鍾元・木宮正史・磯崎典世・浅羽祐樹(有斐閣)

戦後日韓関係史 →紀伊國屋ウェブストアで購入

 「近くて遠い国」「古くて新しい関係」「実態と制度の乖離」「「過去の直視」と「未来志向」」、この4つが本書の序章「戦後日韓関係の歴史と構図」「1 日韓関係の重層性」の見出しである。この序章は、「2 戦後日韓関係の展開」「3 本書の視点」「4 本書の構成」とつづき、本書の全体像がよくわかる。本文は7章からなり、「4 本書の構成」で示されているとおり、1950年代から「10年単位の章立て」をおこなっている。

 「伝統的な外交史にとどまらず、関係史の記述をめざす」本書は、執筆者全員が「政治学分野の研究者であり、政治や外交の動きが主な内容になる」が、「日韓の外交関係に影響を与える経済や社会の変容にも目配りをし、広い文脈の中に日韓関係をいかに位置づけるかに重点を置く」。

 本書では、「一つの分析枠組みとして、国家・市場・市民社会の相互関係に着目する」。「国家、市場、市民社会という3本の柱は、それぞれ政治、経済、社会の分野に対応する。本書では、戦後の日韓関係の展開について、国家(政府)の動きに焦点を当てつつ、市場(経済)や市民社会(社会)との相互作用や相互関係をも視野に入れて、包括的な視点の提示をめざす」。

 また、分析レベルでは、個人、国家、国際関係の3つに着目する。「第1のレベルは人間、すなわち政治指導者など個人の役割に注目する。ここには2つの意味合いがある。一つは、人間の権力欲などの本性や認識の限界など、人間が共通してもつ特徴や制約である。もう一つは、政治指導者の思想や価値観、性格など、政策決定者の個別的な特徴である」。「第2のレベルは国家のあり方、すなわち政治体制や制度の違いが戦争の有無に与える影響を強調する。例えば、独裁体制と民主制のうち、どちらがより戦争に走りやすいか、という問いになる。「民主制の国家同士は戦争をしない」と主張する「民主制による平和」の議論は、その一例である」。「第1の人間(個人)と第2の国家はともに単位(unit)レベル、すなわちアクターの属性を重視する見方である。それに対して、第3のレベルは国際関係に注目する」。「例えば、二極構造と多極構造では、どちらがより不安定で戦争を誘発するのか。あるいは覇権安定論が説くように、一国支配の単極体制のほうがむしろ平和をもたらすのか。こうした議論が第3レベルの例である」。

 そして、終章「今後の日韓関係に向けて」では、「21世紀に入り、日韓関係には大きな構造的変容が起こっている」ことを踏まえ、「日韓の「民主的平和」」「国家・市場・市民社会の複合体」「東アジアの中の日韓」「グローバル化と日韓」「日韓関係はどこに向かうのか」の見出しの下に、「重層的な変化を概観し、日韓関係の今後について考える手がかりを提供」している。その概観は、つぎのようにまとめられている。「アクター・レベルでは、「民主化」が進み、日韓の政治はより多様化し、分散的になっている。はたして日韓の間に「民主的平和」は深化するのだろうか。地域主義やグローバル化の潮流に日韓はどう対応しているのか。非対称な状況から始まった戦後日韓関係は、「ナショナル・リージョナル・グローバル」の三層構造の変容に直面しつつ、新たな関係構築の課題に直面している」。

 終章は、つぎのパラグラフで終わっている。「戦後の日韓関係もこうした進化への模索の過程にあるといえよう。依然として、とりわけ認識の面では不信感に基づく対立の溝が深いが、多様な相互作用を通じて、協調の土台を築いてきた。21世紀に入り、日韓関係を取り巻く国際システムは流動性を高めている。非対称な関係から始まった戦後の日韓関係が、グローバル化や民主化といった潮流に対応しつつ、水平的な「パートナー」を経て、「友人」の関係に深化できるかは、東アジア地域の行方にも大きな影響を与えるであろう」。

 「東アジアの行方にも大きな影響を与える」というよりは、東南アジアを含む東アジアのなかで日韓関係の重要性はとくに経済において低下してきており、中国やASEANの動向が日韓関係に大きな影響を与えることになるだろう。その意味で、「東アジアの中の日韓」をJICAやKOICAといった経済援助する側のかつての目線ではなく、「「特殊」から「普通」へ」の関係で臨むことが大切になってくるだろう。東アジアのなかの「普通」の国同士になるためにはどうすればいいのか、近隣諸国との歴史的関係を踏まえてASEAN各国が教えてくれるかもしれない。

 日本との関係では、近年歴史博物館が充実してきていることが注目される。ソウルのメインストリート世宗大路の北端の光化門の前に2012年に大韓民国歴史博物館がオープン、近くのソウル歴史博物館も国立故宮博物館も同年にリニューアル・オープンした。近代史の展示では、「反日」が強調されたものになる。近代史だけではない。光化門広場には、李舜臣と世宗大王の像があるが、その地下には李舜臣記念館と世宗大王記念館があり、秀吉軍と勇敢に戦った様子が描かれている。ソウルの繁華街、東大門近くには2007年に80年余りの歴史の幕を閉じた東大門運動場跡地に東大門歴史観がオープンした。1925年にヒロヒト皇太子の結婚を祝して建設された運動場の歴史だけでなく、発掘された遺物から秀吉との戦いも描かれている。また、東大門城郭公園内に2014年にオープンした漢陽都城博物館では、日本の植民地時代や独立後の開発のために破損した都城を復元した様子が展示されている。これらの博物館は、入場無料で気軽に入ることができ、韓国の歴史教科書の半分を占める日本植民地時代をさまざまな角度から「深く」理解することができる。戦後の日韓関係史も、歴史教科書だけでなく、歴史博物館での展示なども踏まえて理解することが必要だろう。

→紀伊國屋ウェブストアで購入

  《 前へ