2016年12月06日

『サンゴ礁に生きる海人-琉球の海の生態民族学』秋道智彌(榕樹書林)

サンゴ礁に生きる海人-琉球の海の生態民族学 →紀伊國屋ウェブストアで購入

 本書は、著者、秋道智彌が1971年以来、八重山諸島、糸満を中心に「海について学ぶ旅をつづけてきた」成果である。その海の学びの環境は、けっしてよくなっていないことを、著書はつぎのように「はじめに」で述べている。

 「本土復帰から四四年の現在までに、沖縄では自然、社会両面にわたる大きな変化が起こってきた。本書であつかう海の問題についていえば、ウミンチュが観察し、実感してきた海の変化にはさまざまな要因が関与している。そのなかには地球温暖化、サトウキビやパイナップル農業の発展による圃場整備がもたらした赤土の流出、海洋観光産業の発展、沿岸部の埋立と港湾整備による海岸地形の改変、韓国・中国からの漂着ゴミの増加など、地球規模から東アジア、琉球列島、沖縄県など幅広い範囲にわたる諸要因がふくまれる。これらの変化を通じて、サンゴ礁の海は悪くなることはあっても、よくなることはなかった。石垣の白保ではかつて新空港建設をめぐる反対運動が巻き起こった。新空港用地は白保からカラ岳南に移転され、二〇一三年三月七日に新しく南(はい)ぬ島石垣空港が開港した。オスプレイの沖縄配備や米軍基地の辺野古移転などいままさに動いている事態もある。尖閣列島周辺海域では中国海監によるレーダー照射などの挑発行為があったし、中国漁船の不法侵入がつづいている。東シナ海の権益と海底油田・天然ガスのエネルギー資源をめぐる中国の拡張政策は東アジアの安全をそこねかねない状況にある。二〇一三年九月一三日には尖閣列島周辺で台湾マグロはえなわ漁船と日本のマグロ一本釣り漁船(八重山漁協所属)が台湾船の不注意で衝突する事故も発生した」。

 このように海を取り巻く環境が悪化するなかで、「沖縄ではサンゴ礁の海を保全・再生する動きが活発におこなわれている」。著者は、「今後、どのようにして宝の海を守り、しかも地域住民の暮らしを向上させていくのか。琉球の海は世界が注目する場であり、その海に生きるウミンチュにこそ光をあてるべきだろう」と、人びとの生活のなかでの解決策を模索している。

 だからこそ、つぎのように時間と空間の両方の拡がりのなかで、問題を捉えようとしている。「本書では、現代に生きるウミンチュのかかえる問題を過去にさかのぼって検証する。そして、沖縄とつながる東南アジア・オセアニアの海人を見据えながら、サンゴ礁の海に生きるウミンチュの世界を活写したい」。

 本書は、全7章からなる。「第一章[琉球の海と島嶼世界]では琉球の海と島嶼世界に展開してきた交易の実態を示す。第二章[海の民俗知と言語的世界]では海の生態と民俗知に着目し、言語的なアプローチから魚名と海の地名についての具体例を検討する。そしてウミンチュによる海への認識のありかたを明らかにする。これを踏まえて第三章[琉球の漁撈文化]では、具体的な漁撈技術の実態とその変容を示す。第四章[琉球の海のなわばり]では、ウミンチュの足跡を海のなわばり論と海外出漁の歴史のなかで位置づける。第五章[海の経済と食文化]ではウミンチュの獲得した海の幸が如何なる社会関係を通じて流通し、どのような食文化を醸成してきたのかを明らかにする。さらに、第六章[海の境界と生態・民俗]では海の境界領域における生態と民俗の関わりを探り、第七章[コモンズの海の未来]では資源の管理とコモンズとしての海の位置づけを踏まえて琉球の海の未来を照射する」。

 本書に結論はない。だが、著者は最終章の第七章の最後で「沖縄の海は誰のものか」と問うて、つぎのように答えている。「サンゴ礁の海は年に一度訪れる観光客のものではない。海に生きるウミンチュの生きざまとその知恵を未来に伝えるべきではないだろうか」。

 本土復帰後の沖縄は、美しい海を求めてくる国内海外からの観光客とアメリカ軍基地に雇用と現金収入を求めてきた。その代償が、海の環境破壊と海に生きる人びとの知と文化の喪失だった。著者は、つねにそこに暮らす人びとに寄り添って、海の生態学を考えてきた。そして、「沖縄こそ日本の理想とくらしを考える試金石になるという強い思いにかられる」ようになった。基地問題を含め、沖縄の問題を本土の人びとが自分たちを含む日本の問題だと気づいたとき、「沖縄の海は誰のものか」にたいする答えをもつことができるだろう。

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