2016年06月28日

『石油技術者たちの太平洋戦争-戦争は石油に始まり石油に終わった』石井正紀(光人社NF文庫)

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 「油の供給の豊富なる国は光り栄え、油のなき国は自然に消滅す-。南方に徴用された石油技術者七千人、密林ふかく分け入り、石油を採掘精製して日本へ還送し、太平洋戦争を支えた石油戦士たちの知られざる戦い。石油獲得を企図として実施されたパレンバン落下傘部隊<空の神兵たち>の活躍とともに描く話題作」、と裏表紙にある。

 この「徴用」ということばの意味は、なんなのだろうか。『広辞苑 第五版』(岩波書店)によると、「①徴収して使用すること。挑発して用いること。②国家権力により強制的に動員し、一定の業務に従事させること」とある。徴用された者は、軍人でもなければ軍属(軍に所属する文官・文官待遇者など)でもない。その待遇の違いについて、「石油人」のひとりである著者、石井正紀は「あとがき」で、つぎのように書いている。

 「石油人たちは報国の気持で勇んで国を出た。戦場で武器を手にすることはなかったが、その戦場を支えたのは自分たちだという自負があった」。「その戦場では軍人との差別に泣かされた。戦後は、長い者で二年も抑留を余儀なくされ、あまっさえ、七人もの戦犯容疑者を出した。燃料廠関係の軍人からは一人だに出なかったのにである」。「そして、気がついてみたら、日本という国は、それだけ重要な働きをした石油人たちの身分をなんら認めていなかった。軍人、軍属に対しては、恩給あるいはそれに準じた形で慰労しているにもかかわらず、徴員という石油人たちは、軍人、軍属ではなかったという、たったそれだけの理由でなんら恩恵に浴せないでいる」。「戦場では軍人以上に立派に戦った石油人を遇する態度とはいえまい」。

 石油の重要性については、本書の舞台であるパレンバンを、3月1日のジャワ島上陸より早い1942年2月14日に奇襲したことからもわかるだろう。もうひとつの産油地ボルネオ島には、早くも1941年12月16日から占領している。しかし、原油生産、石油精製はうまくいっても、1944年半ばから日本への還送がうまくいかなくなった。タンカーがなくなったのである。「開戦後のタンカーの喪失をみると、昭和十七年は約四〇〇〇トンであったのが、翌年には約三九万トンと驚異的な激増となり、昭和十九年中に、実に累計七五万四〇〇〇トンのタンカーが沈められてしまった。日本の保有するほとんどすべてのタンカーが沈んだといってもよいであろう」。

 石油の不足によって、作戦、戦術の大きな変更となり、それがかえって悪い結果を招いた海軍の例を、つぎのようにあげている。「(1)燃料効率を高めるために艦船の速度を経済速度に押さえるようにした。その結果、肝心の戦闘に間に合わないという事態が起こるようになった」。「(2)タンカー不足から洋上給油を最小限にとどめるようになった。そのため、艦隊としての効率的な統合や航路選定ができず、みすみす敵方の術中に陥ることになった」。「(3)訓練用ガソリンの節約から、パイロットの練度が極端に落ち込んだ。それに加えて偵察不足、警戒不足にもなり、結果的に敗戦に結びつくようになった」。「(4)掃海にも手を抜くようになり、湾内でのタンカー損失が増大した」。「(5)燃料不足から片道飛行を強いるようになった。また、アルコールの混合燃料や低オクタン価の質の落ちるガソリンの使用により、戦闘以外の原因によって航空機が喪失するようになった」。

 著者は、「あとがき」で「今、なぜパレンバンか」と自身に問い、答えに窮している。パレンバンなどの南方石油が戦争を長引かせたことを、つぎのように述べている。「石油の消費実績という数字上だけで述べるなら、もしパレンバンを中心とする南方石油がなかったならば、先の大戦で陸軍は一年四ヵ月、海軍は一年半強で開戦時の備蓄を使い切ったことになり、大戦は昭和十八年の前半でかたがついていたことになる」。

 陸軍に徴用された石油人は約4900名、海軍は約2100名、合計7000名にのぼり、約1650名が犠牲になった。「民間人がこれほどまでに重要な役割を果たしたというのは、戦史上類をみない、稀有のことといえる」。生き残った石油人のなかには、1948年に千代田化工建設を創立した者がいる。ホームページ冒頭で、つぎのように説明している「1948年に設立された千代田化工建設は戦後日本の再建復興期に創業してから、国内の石油・ガス・化学・産業設備を数多く手掛け、1960年代には海外に進出するなど、エネルギーと環境の調和を経営理念とし、社会の持続的発展に貢献するエンジニアリング会社として成長してまいりました」。「軍人以上に立派に戦った石油人」は、いまなお日本という国家のために「戦っている」のだろうか。これらの石油人は、なんのためらいもなく、また戦時に対応し「任務」に没頭するのだろうか。軍人・軍属だけでなく、徴用される自身のことを考えると、戦争への危機をより身近に感じることができるだろう。「戦前の轍を踏むことは避けねばならない」

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