ごあいさつ

私たち阪大生は、書評空間で書評ブログを書く書くことにしました。

本との出会いは一生のうちに何度もあります。
その出会いの中には、どうしても忘れられないものがきっと誰にでもあることでしょう。
私たちはそれに着目し、ライフステージごとに設定した5つのテーマについて大阪大学の学生や教職員から、本との出会いや思い出について紹介してもらいました。
誰かのアルバムの1ページをそっとめくるような、そんな気持ちでご覧ください。
大阪ならではの個性が光る「オモロイ」書評集が出来上がりました。

また、各テーマを順に見ていくと、ひとつの人生が浮かび上がってくる、という仕掛けにもなっています。
あなたの人生や、誰かの人生に思いを馳せながら、そのような視点からもお楽しみください。
本を紹介した誰かの人生だけでなく、あなたの人生にも彩りを加えてくれる、そんな1冊との出会いが、このページから生まれれば何より嬉しく思います。

大阪大学 「ショセキカ」プロジェクト一同

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2013年10月01日

この空のまもり/芝村裕吏

この空のまもり
芝村裕吏

⇒紀伊國屋書店ウェブストア
7/5/2013 15:24:52
情報科学研究科マルチメディア工学専攻
修士2年生・男性

お書きいただけるのは以下のどちらの本についてでしょうか。該当する方をチェックしてください。

いま学んでいることにまつわる本

その本の名前と著者をお答えください。

この空のまもり/芝村裕吏

その本はいつ読みましたか?

つい最近(修士2年)

どんな内容の本ですか?簡単なあらすじや、設定等をお書きください。

スマートフォンのカメラを通して世界を覗きこむと、実際にそこにはないのに立体や映像があるように見える拡張現実(AR)の技術。頭に装着する形のディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)を利用して、コンピュータ上の世界や遠く離れた場所に、あたかも自分がいるかのようにする仮想現実(バーチャルリアリティ)の技術。この2つの技術が普及した近未来の日本が、小説の舞台です。これらの技術が普及した社会では、現実世界の実体として存在する物よりも、仮想世界上に存在する物の方が人々にとって価値を持つようになります。そして、現実世界の自分よりも、仮想世界の自分の方が社会的価値が大きくなったり、さらには仮想世界に作られた政府が現実世界の政府の影響力を超えてしまうことも十分にありえます。この本の主人公は、仮想世界に架空の政府を設立し、10万人の架空防衛大臣を指揮するニートの青年です。彼を始めとした、登場人物の現実世界と仮想世界でのギャップや、それぞれの人物の視点からばらばらに始まる物語が最後に一つの線になってつながっていく様が見どころだと思います。また、拡張現実・仮想現実が当たり前になった社会では、こんな些細な(だと思っていた)ことが社会問題に発展したり、たったこんなことで多くの人が影響されたりと、近未来の日本社会に起こりうる問題点が垣間見えて、とても興味深いです。

いま、あなたはどのようなことを学んでいますか?その学問に対する熱意などもあわせてお書きください。

私は今、情報科学研究科で、情報推薦システムに関する研究をしています。近年急速に発達した情報社会では、ニュース記事から個人のつぶやきまで、あらゆる情報がインターネットから利用可能になり、その情報の量は日々爆発的に増え続けています(このような現象は情報爆発と呼ばれます)。インターネットの利用者は、広大にあふれかえる情報の海の中から自分の目的に合った情報を見つけ出さなければなりません。ここで情報推薦システムは、その人が興味を持つ事柄に関連する情報を自動的にお勧めすることで、目的の情報を探し出す手間を削減したり、思いがけず有益な情報を発見する手助けする役割があります。そして、特に注目されてきているのが、最近急速に普及が進んでいるスマートフォンを始めとした携帯端末上での情報推薦です。携帯端末はいつでもどこでも持ち歩かれるので、利用者は生活の中の様々な場面で、その時々に合った情報を探します。このとき利用者がどんな情報を欲しがるのかを、場所、時間帯、利用者の年代、性別など、様々な手がかりを元にして推測を行えば、利用者の時と場合に応じて、有益な情報推薦が行えるのではないか、というのが私の研究分野で特に話題になっている事柄です。この研究が進めば、欲しい情報は向こうから勝手にやってくるので、わざわざ欲しい情報を探しに行くといった機会は減ることになるでしょう。しかしそれだけではなく、推薦システムが利用者の興味のアンテナを刺激して、知的好奇心の守備範囲を広げていく役割を担っていくべきだと、私は密かに期待しています。

その本とあなたの学問領域にどのようなつながりがありますか?

現在、携帯端末の利用者向けの情報推薦の手がかりとして使えるものは、場所、時間帯、利用者の年代、性別などの情報です。しかし、人がどんな情報を欲しいと思うかは、その時に一緒にいる人、気分や健康状態、周りから聞こえてくる騒音や話題、目に見えるものなど…、身の回りの状況に関する莫大な種類の要因が複雑にからみ合っていると考えることができます。しかし、現在では、このような状況に関する様々な情報が、電子化し、保存されるような仕組みはまだあまり出来ていません。つまり情報推薦の手がかりとしてはまだ利用できないのです。ところが、この本の中で描かれる世界では、身の回りのありとあらゆる情報が電子化され、利用できるようになっているのです。物語の中で登場人物たちは、自分の欲する情報を何不自由なく入手しています。これはおそらく、身の回りの情報を利用した理想的な情報推薦システムが完成しているからなのでしょう。しかし、それよりもずっととんでもないことを実現していることに私は驚きました。それは仮想世界上での人格の複製です。身の回りのありとあらゆる情報を電子化するということは、人物そのものを記録することに他なりません。つまり、その記録を十分に集積すれば、これまで集積した記録を手がかりに自分と全く同じ言動を行う人格(人工知能)を仮想世界上に複製可能だというのです。そんな新たな常識が生まれるかもしれない未来は、そう遠くないのではないかと私は期待しています。

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