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2012年12月26日

『あたらしいみかんのむきかた』岡田好弘 神谷圭介(小学館 )

あたらしいみかんのむきかた →bookwebで購入

 もうすぐお正月ですね。強制的に集められた親戚同士、旧交を深め合わなければならない微妙な季節です。義理の家族への対応にも頭が痛いですね。共通の話題もないし禁句も多い。「孫はまだかしら」とか「お義母さまの味付けって濃いですわね」とか、ちょっとしたやりとりから修羅場にもなりかねません。

 小さい子供でもいればまだ間が持つのですが、超少子高齢化社会ではそんな逃げ場もありません。後期高齢者の祖父母、前期高齢者の両親、中年の子供たち、平均年齢は六十歳なんていう正月もザラにあります。私の実家もそうでした。「祖母が利用するデイサービスでの出来事」くらいしか話題がなくなってしまった時のあのどんづまり感といったら…。

 日本の正月は今、猛烈にエンターテイメントを必要としている。私はそう思います。一世紀ほども違う時代を生きている老若男女全員が時を忘れて夢中になれる。そんなエンターテイメントが渇望されているのです。ということで、前置きが長くなりましたが今日ご紹介する本『あたらしいみかんのむきかた』について書きたいと思います。

むきおくんが、だいすきなみかんをたべずにじっと見つめています。なにやらしんけんなかおでかんがえています。
このままでいいのだろうか? だいすきなみかんをただむくだけでいいのだろうか? もっとすてきなむきかたはないものだろうかと。

 むきおくんのうしろに飾られているのはトロフィーと王将の駒の置物。一昔前の香り漂うイラストからは、ただの児童書ではない、おかしなオーラが漂ってきます。読者がそのオーラに気をとられている間に、むきおくんはひらめいてしまいます。そしてみかんの皮をむきはじめるのです。

 するとあら不思議。むきおわった皮が干支の動物たちの形に見えるではありませんか。まるいみかんの皮に切れ込みをいれて展開するだけでアートになる。こんなことよく考えたものです。干支だけではありません。イカ、さそり、トナカイなど細かい部位を必要とする動物も次々にむかれていきます。これが1個のみかんの皮からできているだなんて想像もつきません。

「面白い発想だね。でも子供向けでしょ」と思ったあなた。果汁のように甘いです。ひとつむくたびに鉛筆で書き記されるむきおくんの「思ったこと」。そのブラックなことといったら。最初にむく「うさぎ」からして子供には見せられないレベルです。

ちょうかわいくむけた。うさぎはいちねんじゅうはつじょうきらしい。

 蛇をむけばアダムとイブを連想し、犬を見れば去勢手術に思いを馳せるむきおくん。第2弾となる『あたらしいみかんのむきかた2』では、みかんの皮だけでなく、ゆとり教育や肉食系女子などの社会の闇にも鋭く切り込んでいきます。その高い教養と次々にむきだされるみかん皮アートには舌を巻くしかありません。念のために確認しておきましょう。むしろアダルト向けの本です。お子様に買い与える際はあらかじめ内容を確認し家庭内で教育方針を話し合うことをお勧めします。

 さて、むきおくんも面白いのですが、この本の醍醐味はなんといっても「自分でむいてみる」ところにあります。かくいう私もまず自分でむいてみようと張り切っていました。しかしいざやろうと本を見ると・・・結構難しそう。あっという間に気持ちが萎えていきます。むかなくても面白く読める本だしむいてみなくてもいいかな、と逃げ腰になりはじめたそんな時。「めざましテレビ」がこの本をとりあげているのを見たのです。映像にはいとも簡単に「馬」をむいていく幼稚園児たちが。私のハートに静かに火がつきました。

 わたしむくよ!

 まず難易度★の「うさぎ」に挑戦。みかんにサインペンで切り込み線を入れていきます。これが難しい。いかに三次元に弱いかということを思い知らされます。結局、みかんを回転した途端正面がわからなくなってしまってジ・エンド。悔しい私は、幼稚園児がむいていた「馬」の難易度を確認しました。★★だそうです。そういえば幼稚園児たちはあらかじめ線を入れてもらっていました。ずるい・・・。

 気持ちを入れ替えて新しい動物に挑戦です。実は私、今年の一月に『海に降る』という小説を出版しています。物語には巨大海棲爬虫類、通称「竜」が出てきます。そうだ、「竜」をむいてみよう。さっそく干支の「竜」のページをめくった私の目に飛び込んできたのは難易度★★★★の表示。見なかったことにしました。さらにページをめくっていくと巻末に「ネッシー」を発見。難易度★★。これにします。ネッシーも竜も似たようなものです。

 わたしむくわ!

 今度は失敗しないように線をひき、カッターで切れ目を入れていきます。なんとかいけそう。皮と果実の間に爪楊枝を入れ、ぴりぴりはがしていきます。快感です。みかんの皮をむくだけでこれほどの興奮が得られるとは思ってもみませんでした。ついに皮がむけました。いやすごい。ほんとすごいです。手がすべって首と前びれを切ってしまったのと、うしろのひれがなぜかひとつ足りないのが残念ではありますが、でもまぎれもないネッシーです。

 ネッシーがむけたぞ!

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 ※完成度が低かったので潜水調査船しんかい6500のプラモデルの箱に乗せてごまかしてみました。

 どうでしょう。これこそ日本の正月にふさわしいエンターテイメント。みんなでむけば時間もあっという間にすぎます。自然と無言になるので余計な波風も立ちません。お年寄りには認知症予防になるでしょう。キャリアウーマンを気取っていた嫁がわりと不器用だったり、嫌われ者だったおじさんに意外な才能が開花したりして、親戚づきあいに新たな局面が生まれるかもしれません。いかがですか。行き詰まった家庭、日本のお正月に、おすすめの一冊です!


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2012年12月20日

『テラフォ-マ-ズ』貴家悠 橘賢一(集英社)

テラフォ-マ-ズ →bookwebで購入

「テラフォーミング」という言葉をご存知でしょうか。惑星地球化計画、つまり他の惑星を人類の住みやすいように改造する計画のことです。最有力候補地は地球と環境が似ている火星。人類が火星に住むなんて、今は想像すらできませんが、オバマ大統領は「2030年代に有人火星探査を実現させる」と言ってました。もしかしたらあながち遠い未来ではないのかもしれません。

 方法も色々考えられているようです。黒い藻類を生やし太陽の熱を集めて火星の気温を上昇させ永久凍土を溶かして水を生成させる…。うーん、本当にうまくいくのでしょうか。何より私は思ってしまいます。火星の環境を地球人が勝手に作り変えてしまっていいのだろうか。そんなことして何か悪いことが起きないだろうか、と。

 そんな潜在的恐怖をこれでもかというほど引き出してくれるのが『テラフォーマーズ』です。「このマンガがすごい!2013」で第1位を獲得してしまったので、私がお勧めするまでもなく、むしろ私がこの波に便乗している感の方が強いのですが、それでも、物凄く面白かった作品として素直に紹介させていただきます。

※ここから先は多少のネタバレを含みますので注意してお読み下さい。

 物語の舞台は西暦2599年。500年かけてテラフォーミング化した火星に、若者たちを乗せた宇宙船が飛び立ちます。着陸を控えた船内で乗組員の秋田奈々緒は、火星が緑と黒になっているはずだ、と発言します。緑と黒? どういう意味でしょう。人類はどのようにしてテラフォーミングを行なったのでしょうか。

元来 火星は平均気温がマイナス58度しかなかったんですね。というのも火星の大気が0.006気圧しか無いために全く太陽光を吸収できていなかったんです。(中略)……ではどうやって最初に火星を暖めるか…20世紀の科学者たちは考えました。ある「苔」と「黒い生物」を火星に大量に放ち、地表を黒く染め上げることで太陽光を吸収し火星を暖めようと。

 さあどういうことでしょうね。黒い生物って何でしょう。勘のいい方はもう気づかれたかもしれません。昆虫、とだけ言っておきましょう。とにかく火星を暖めてくれるはずだったこの黒い昆虫たちによって火星はえらいことになってしまったのです。というより彼ら自身がとんでもない姿になっちゃったのです。これ以上書くとネタバレになってしまうので、彼らの鳴き声だけ下に引用しておきますね。

じょう じじょう じょうじ じょうじょう

 彼らはもはやまったく別の生き物に変異してしまっています。なので、彼らが苦手で写真を見るのもいや、という方でもこの漫画を楽しむことができます。大丈夫です。しかし、私たちが畏怖してやまない彼らの能力……強靭な肉体、驚異的スピード、高い飛翔力……はそっくりそのまま残っています。これがこの漫画のすごいところです。

 はっきり言って火星に住むのはもう無理です。あきらめましょう。普通ならそうなるところですが、人類はあきらめません。こういうこともあろうかと、火星に送りこんだ若者たちをフォーミング(改造)していたのです。彼らの体内に組み込まれた様々な昆虫のDNA配列。それらが発動した時、昆虫対昆虫の凄まじい戦いが幕を開けるのです。

 これこそ究極のムシキング世界最強虫王決定戦といえるでしょう。前々回に紹介したバッタ博士の愛してやまないサバクトビバッタも「最古の害虫」として出てきますのでお楽しみに。あ、虫嫌いの人、逃げないでください。リアルな虫はそんなに出てこないので大丈夫ですよ!

 さて、大丈夫、大丈夫、と言ってきた私ですが、ストーリーは全然大丈夫じゃありません。黒い昆虫の強いことといったら。主要人物だと思っていたキャラクターが文字通り虫けらのように殺されていくのを見るのも怖いのですが、彼らに対し有効だと思われていた攻撃方法があっさりクリアされてしまうシーンには涙目になりました。

 一般に火や熱湯などの高温に弱いとされる××××だが如何なる環境にも容易く適応してこその××××である。現に2009年の韓国ではオーブンで焼かれても死なない××××が発見されている。

 そうです。虐げられれば虐げられるほど進化してしまう黒い昆虫××××(※ネタバレを防ぐため伏字とさせていただきました)。無敵です。もう無理です。地球に帰りましょう。しかしそうこうしている間に若者たちの故郷・地球にも恐ろしい魔の手が……。

 息をつく暇もないスピーディーな展開。度肝を抜くバトル描写。練られたプロット。「このマンガがすごい!2013」第1位も納得の面白さです。将来、NASAがテラフォーミング計画を正式に発表したとしても、この漫画を読んだ人は全員反対するでしょう。「やめろ、このU-NASAめ!」と叫んで。U-NASAってなに? それも読んでのお楽しみです。今後の展開が楽しみです!

 


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2012年12月13日

『指名ナンバーワン嬢が明かすテレフォンセックス裏物語』菊池美佳子(幻冬舎)

指名ナンバーワン嬢が明かすテレフォンセックス裏物語 →bookwebで購入

 テレフォンセックスと聞いて何をイメージしますか? 私が思い出すのは「セックス・アンド・ザ・シティ」のワンシーン。ニューヨーク在住の独身女性キャリーが元彼とセクシーな言葉の応酬で楽しむ場面です。正直思いました。電話でセックスして何が楽しいのか。そこまでするアメリカ人って本当に性欲が強いんだな、と。

 なので『指名ナンバーワン嬢が明かすテレフォンセックス裏物語』というこの本のページを開く直前までこう考えていました。高いお金を払ってまでテレフォンセックスしたいだなんてよっぽど特殊な人たちの物語なんだろうな、と。その通りでした。この本に出てくるお客さんはみんな変態でした。それも私たちの想像を絶する超一級の変態だったのです。

 この世における人類は、本来持っている能力の五~七パーセントしか発揮できていないという説があります。それと同じように、この世における男女は、本来持つ性癖の五~七パーセントしかさらけ出していないように私は思うのです。

 指名のとれないキャバ嬢だった著者、菊地美佳子さん(敬意をこめて、さん付けで呼ばせてください)は、22歳の秋、声が可愛いという特技を生かしてテレフォンセックス嬢へと転身します。そこで出会ったのは、まさに、残り95パーセントの性癖をさらけ出した男たちでした。

 配偶者にも恋人にも見せることのできないフェチズム。実際にやったら倫理的にも法的にもアウトなプレイの数々。それを「自身の姿を明かす必要のない電話回線上」で思う存分発揮する。それがテレフォンセックスの世界だったのです。

 例えばある日、女性のブーツフェチだという男性が美佳子さんに電話をかけてきます。とりわけ好きなのは黒の皮製ロングブーツだと、彼は熱く語りました。

 彼のブーツに対する熱い想いはとりあえず理解したものの、さて、ここから彼は、いったいどのようにしたいのでしょうか。ブーツ姿の美脚の女性を眺めていたいのか、はたまた美脚女性のブーツを失敬して自身で履きたいのか。
 彼の場合は、どちらでもありませんでした。彼は、もっと深い性癖を持っていたのです。
 それは、ブーツとの性行為……セックスでした。

 もうついてこられませんか。いえいえ、これでもかなり苦労して『書評空間』の品位を汚さない、もっともノーマルに近い性癖例をチョイスしたのです。その他はことごとく「閲覧注意」。引用したくでも引用できないものばかりなんですから。

 試しにキーワードだけでも(問題のない範囲で)並べてみましょうか。「セックスレス保険ごっこ」「少女の洗顔」「自称・美少年」「動物の交尾萌え」「嘔吐」「地球」「死体」「咀嚼音」「男体盛り」「ワキ毛」「アイロン台」「第九」……。もういいですか。そうですか。これ以上披露したら読む楽しみがなくなっちゃいますものね。わかります。

 常識をぶち破る性癖の数々。そのすべてに美佳子さんはやさしく寄り添います。高い瞬発力と演技力によって繰り出される彼女のプロフェッショナル・プレイはもはや神の領域といっても過言ではありません。最終章、引退を決めた美佳子さんが、四十路童貞奴隷と別れるシーンにはうっかり落涙してしまいました。感動です。ぜひこの感動を皆さんにも味わっていただきたいと思います。

 さて、少々加熱気味に紹介してきたこの本ですが、ひとつだけ問題があります。書店で買いにくいということです。レジで書店員さんに差し出す時の恥ずかしさと言ったらありません。「ち、違うんです!」と叫びだしたくなること請け合いです。ただ、私は言いたい。「購入する時から美佳子さんのプレイははじまっているのだ」と。ぜひ、この本を堂々とレジに運んでください。私? 私ももちろん、そうしましたよ。おすすめです!
 


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