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2012年05月06日

『モ-レツ!イタリア家族』ヤマザキマリ(講談社)

モ-レツ!イタリア家族 →bookwebで購入

 映画『テルマエ・ロマエ』が絶賛公開中です。古代ローマの技師が、現代日本の風呂にヒントを得て、古代ローマの浴場建設にセンセーショナルを巻き起こしていくという、奇想天外のストーリー。本当に面白いですよね。同名の原作漫画はマンガ大賞2010にも選ばれました。著者はイタリア人の夫を持つヤマザキマリ。今や押しも押されぬ人気漫画家です。

 しかし私は、あえて彼女の別の作品を強くお勧めしたい。それが今日ご紹介するエッセイ漫画『モーレツ!イタリア家族』です。海外生活が長く「日本の風呂に入りたい」という著者の飢えから生まれたのが『テルマエ・ロマエ』なら、イタリア家族と暮らすストレスを発散するために描かれたのが『モーレツ!イタリア家族』。表紙を開いた瞬間から、あなたはイタリア人家族との過酷で過激な同居生活に否応なく巻きこまれていくことでしょう。
 
 著者が結婚したのはイタリア人で学者のベッピーノ。彼は「物静かで大騒ぎが大嫌い」。一般にイメージされがちな、情熱的でちょい悪風イタリア人とはまったく違うタイプです。彼の「ジェントルマンな物腰」に惹かれ、結婚した著者は、彼の育った家庭環境を知り愕然とします。そこにいたのは、息子を溺愛する激情型の姑、発明マニアの舅、美大生の小姑、お互いにライバル意識を持つ父方の義祖母(90歳)と、母方の祖母(95歳)…。まったく「一律性のない」人々ばかりだったのです。

 なかでも「いいたい放題やりたい放題」の姑マルゲリータのキャラクターは猛烈です。彼女の前では日本の鬼姑も赤木春恵もかすむばかり。「うちの姑にはもう我慢できない!」と息巻く日本の嫁も「マルゲリータが姑でなくてよかった…」と心底思うことでしょう。我々の想像をはるかに超えるこのイタリア人姑に、真っ向から抗う著者。ふたりの戦いはこの漫画が終わった後も、果てしなく続いていきます。

 そう、著者のエッセイ漫画は他にもたくさんあるのです。『モーレツ!イタリア家族』を読み終わったあなたは『イタリア家族 ―風林火山』に進みましょう。愛する息子の結婚式で暴走するマルゲリータのパワーに、ただただ圧倒されるはずです。次に読んでほしいのは『それではさっそくBuonappetito!』。世界の「食」にまつわるエッセイ漫画なのですが、ここでもマルゲリータの存在感は健在。彼女が豚を解体し、著者をこきつかいまくって作った地獄のクリスマス料理、私も一口だけなら食べてみたいです。

 さあ、ここまで読んだらもうあなたは自分を止められないでしょう。そう、ヤマザキマリのエッセイ漫画が魅力的なのは、マルゲリータが猛烈なキャラクターだから、だけではないのです。

 17歳で単身イタリアに渡り、世界のあちこちに移り住んだ著者。彼女は常に、そこに住む人々とまっこうからぶつかり(多くの場合は向こうからぶつかられて)、熱い火花を散らしています。その彼女が、時に怒りをこめて、時に愛をこめて描く、実物大の「外国人」たちは、とても生き生きしています。そんな彼女の姿は、『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスが、熱い湯につかることで、平たい顔の種族(現代日本人)を理解しようと努める姿にとてもよく似ています。

 私たちはただ旅行をしただけ、上っ面で交流しただけ、その国の音楽や映画を鑑賞しただけで「外国人」を理解した、と思いがちです。しかし真に理解しようと思ったら、やはり著者やルシウスのように、熱い「何か」を避けては通れないのではないでしょうか。真の異文化交流は「モーレツ!」な関係のその先にあるのではないでしょうか。ヤマザキマリのエッセイ漫画を読むたび、私はいつもそう思うのです。

 著者のエッセイ漫画は他にもたくさんあります。長きにわたる放浪生活を独身時代に遡って描いた『世界の果てでも漫画描き』、飼い猫の視点から著者のシリア滞在生活を語る『アラビア猫のゴルム』、こちらもおすすめです。また漫画ではないエッセイもあります。外国から見た日本を綴る『望遠ニッポン見聞録』、SNSやブログに書き綴った日々の(主に姑の)愚痴をまとめた『ヤマザキマリのリスボン日記』も面白い。ヤマザキマリは文章も上手です。

 いかがでしょう。漫画『テルマエ・ロマエ』を読んで爆笑し、映画を見て感動したあなた。次なる扉を開いてみませんか? 『テルマエ・ロマエ』が風呂上りのカルピスウォーターなら、『モーレツ!イタリア家族』は希釈する前の濃縮カルピス。その濃さに咳きこみつつも、ヤマザキマリのディープな魅力にひきずりこまれていくはずです。すっかり彼女の世界に取りこまれてしまった私は、次に発売されたばかりの『テルマエ戦記』を読むつもりです。あなたも早くそこまで来てくださいね。


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