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2012年03月13日

『山賊ダイアリ- ― リアル猟師奮闘記』岡本健太郎(講談社)

山賊ダイアリ-  ― リアル猟師奮闘記 →bookwebで購入

 とある平日の午後、私は紀伊國屋書店新宿南店の漫画フロアをフラフラと歩いていました。たまには大型書店もいいものです。棚が広いので置いてある漫画の数が半端ではありません。普段目にしないマイナーな漫画に出会えます。掘り出し物を発見することもあります。……そんな私の目の中に飛び込んできたのがこれ、「山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記」でした。

「猟師」…。その言葉に強く惹きつけられたのはなぜでしょう。「猟師」…。その言葉が私の中でムクムクとふくれあがり、気づいたらレジで会計を済ませていました。衝動買いです。「ダイアリー」という言葉も気になっていました。今も日本の各地に存在する「猟師」という職業。その日常を知りたいという思いが私のどこかにあったのでしょう。

 著者の岡本健太郎氏は岡山県在住。「猟師」を生業としているわけではなく、あくまで本業は漫画家で、狩猟は趣味のようです。年齢はわかりませんが、若者の部類であろうことが漫画の内容から伺えます。そんな彼がなぜ「猟師」などを始めたのでしょう。

わたし岡本健太郎は岡山県の超田舎の集落に生を受けました。友達の家まで片道で7kmくらいあったのであまり遊び相手に恵まれていない子供でした。そんなぼくとよく遊んでくれたのは近所の猟師のおじいちゃんでした。動植物の知識 罠の作り方、鳥の獲り方…… 様々なことを教わりました。

「わしは日本がどうなってもひとりで生きていける」

 そう豪語する、このおじいちゃん。幼い著者は「大人になるという事は当然猟師になる事だ」と思っていたそうです。冒頭でウサギを狩るシーン、そしてこのおじいちゃんの台詞を読んでしまったら、もうこの漫画から抜けられません。淡々と穏やかに綴られる「猟師」の日常に私は魅せられていきました。

 猟銃購入の方法、狩猟免許の取り方、そして実際に猟銃を手に山に分け入る臨場感など、面白いところはいくらでもありますが、やっぱり何と言ってもすごいのは、狩った動物を「解体」して「食べる」シーンでしょう。

家に帰ったらハトの解体です。羽をむしると羽毛が飛ぶので屋外で。ぼくはベランダでやります。まず羽をむしります。羽が飛ばないようにビニール袋の中でむしった方がいいでしょう。ハトの羽はなでるだけでも抜けるほど簡単に抜けます。

 普通のマンションに住む著者が、狩った獲物の羽をベランダでむしり、包丁で解体して、キッチンのグリルで焼き、ビールで一杯やりながら食べるシーンは、なんというか、ものすごいリアリティがあります。栗原はるみの料理番組を見ているような自然な印象すら受けます。仕留めたばかりの鳥獣の肉は本当に美味しそうです。

 ただ、自分が「できるか?」と言われたら答えは「ノー」でしょう。ハト、カモ、ウサギ、マムシでは何とか許容できていた私も、カラスの調理シーンにはさすがにのけぞりました。皆さんもぜひ読んでのけぞってください。

 この漫画にも同様の違和感を持つ人々が登場します。猟を「野蛮」だと吐き捨てたガールフレンド、獲物に拒絶感を示す猟師の奥さん、そしてもうひとりの猟師仲間マサムネ君。マサムネ君は自分の仕留めた獲物の解体にすら躊躇します。ちょっとかっこ悪いですね。

 しかし、カモの肛門から腸を抜き出す作業をしながら絶叫する彼を責めることなどできません。私だって、フレンチレストランで「ジビエっていいよね〜」などとワイングラスを傾けながら、猟師さんが獲物を撃ち止めてから皿の上に乗って出てくるまでの間のことは極力考えないようにしているのですから。

 食糧ひとつ自分で入手できない都会人の自分。そんな自分に、読み進めるうちにメラメラと劣等感が生じます。仕留めた獲物を淡々と解体し「いただきます」と手を合わせて食す著者は、本当に「日本がどうなってもひとりで生きていける」ことでしょう。ちょっと憧れてしまいます。

 ひょっとして私も、その気になりさえすれば、猟師になれるのではないでしょうか。狩った獲物を優雅に食するだけでなく、「猟友会」で腕を磨いて獰猛なイノシシやヒグマと戦える日が来るのではないでしょうか。そんな夢想すらしてしまうのです。

 第2巻で著者はイノシシの解体と調理に挑むようです。今から発売がとても楽しみです。そしてこんな面白い漫画を書店で「狩る」ことのできた自分に満足です。


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