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2014年04月17日

『An Appetite for Wonder 』Richard Dawkins(Ecco Pr)

An Appetite for Wonder →紀伊國屋ウェブストアで購入

「リチャード・ドーキンスの「Selfish Gene」までの伝記」

イギリスの進化生物学者リチャード・ドーキンスを知ったのは、僕がボストンにある大学に通っていた時だった。
必修科目のひとつとして取った生物学のクラスで与えられた必読書の1冊が彼の書いた「The Selfish Gene(利己的な遺伝子)」だった。

動物や生物の進化を「種」が進化するというのではなく「遺伝子」レベルの闘いとしたこの本は僕に衝撃を与えた。

「Survival of the fittest(適者生存)」の争いが人間全体というどこかぼんやりしたものではなく、親あるいは気の遠くなるような遥か昔に存在した「先祖(哺乳類動物やそれ以前)」から今の僕に受け継がれた遺伝子レベルの闘いだと語りかけられ、進化という過程が一気に皮膚感覚で感じるものとなったのを憶えている。

長い旅をする遺伝子にとって僕の身体は「乗り物」であり、僕の判断の多くは僕の中の遺伝子をいかに有利な形で次の世代(次の乗り物)に渡すかにかかわっていると読み「なるほどな〜」と納得するものがあった。

行動を起こす時はコストがかかるが、遺伝子がそのコストを支払ってもよいとした時に人は行動を起こす。この考え方は、画期的だったと同時に何故僕がある種の行動を起こし、ある種の行動を起こさなかったかの答えともなった。

少し大げさに言えば、僕の人生の見方を変えたというか、はっきりさせてくれたのがドーキンスの「The Selfish Gene」だった。

そのドーキンスの自伝「An Appetite for Wonder」が出版されたと聞き、バーンズ&ノーブルですぐに購入。サイン入りのエディションがあったので、サイン入りの1冊を買った。ドーキンスのサインが本の最初のページにあり、とても嬉しい思いをしている。

ドーキンスは1941年にケニアのナイロビで生まれた。ドーキンスの家系はアフリカのイギリス領でイギリス政府に属する職業(軍人や研究者)についてきた家系だった。

父親のジョンも軍人で第2次世界大戦ではイタリア軍と戦った。しかし43年に彼は軍を退きマラウイの農政部の職員となった。

ドーキンスはアフリカで幸せな生活を送り、イギリスのプレップ・スクールを手本にした寄宿学校に通った。そして、ドーキンスが8歳の時に家族はイギリスに戻り、ドーキンスは父親も通ったプレップ・スクールであるシャフィン・グローブに入学した。

ドーキンスのシャフィン・グローブの思い出は、イギリスの寄宿舎制プレップ・スクールでの生活の様子が分かって面白い。学生たちは毎朝、起きるとすぐに真っ裸で冷風呂に入らなければならない。また、体罰は日常的なもので、アフリカの学校では物差しで打たれたが、シャフィン・グローブでは校長が2本の杖で学生を叩いた。2本の杖の1本は「Slim Jim」という名前がつけられ、もう1本は「Big Ben」だ。罰はその悪さにより3回から6回、杖で叩かれるというもの。ドーキンスは「Slim Jim」で叩かれたことしかないが、それでも充分痛かったという。

この本を読んでイギリス人は物に名前をつけるのが好きな国民だと思った。人々は家に名前をつけ、杖に名前をつけ、車には「Grey Goose(ツーリングカー)」や「 James(スポーツカー)」などの名前をつけていることが分かる。

シャフィン・グローブではいじめもあったようだ。ドーキンスはいじめを止めようとしなかった。彼は当時の自分を振り返り、今も罪の意識を感じているが、自分に対する疑問も残っている。その疑問とは、いじめを受けていた仲間に対し同情心を持っていなかったことだ。心の中を探っても、外には出さない秘めた同情心もなかったと言う。何故そんなことが可能なのか、彼の疑問は解決されないままだ。

ドーキンスはピアプレッシャーのこともこの本で語っている。

「Peer Pressure among schoolchildren is notoriously strong. I and many of my companions were abject victims of it. Our dominant motivation for doing anything was peer pressure. We wanted to be accepted by our fellows, especially in influential natural leaders among us; and the ethos of my peer was ---unti-intellectual.」

仲間内では持ち前の能力は賛美され、努力は見下されたという。そのためドーキンスはなにをやるにも実際よりも努力をしていないように振る舞った。スポーツの評価は高く、トレーニングをせずにいきなりスポーツで優秀な成績を上げるのが最高とされた。いまドーキンスは問いかける。「持ち前の能力」と「努力」のこの評価は反対であるべきではないのか。人間のこの心理は進化心理学者にとって興味深い質問だろうと言う。

遺伝子レベルでこの現象を見てみると、遺伝子はこれからもっと優れた個体になる可能性よりも、すでに優れたものを持つ個体(それ以上優れた個体にならない可能性もある)を選んでいることになる。何故、優れた個体になろうとする性向は低くみられるのだろうか(何故、努力はダサイのだろうか)。

話をドーキンスの経歴に戻すと、ドーキンスはオルドン校を経て、オックスフォード大学のベリオールカレッジに入学した。

オックスフォード大学では動物学を専攻。オックスフォード大学で一番良かったことは、優れた教授とのチューター・セッションだったと言う。これらのセッションではテスト勉強や講義から離れ、哲学的、理論的な議論をした。

そして、ドーキンスはオックスフォード大学が購入した当時最新のコンピュータを使い、自分の研究をコンピュータ上に移す作業に熱中していく。夜を徹してコンピュータに向き合ういわゆる「Geek」となっていった。

彼が「Selfish Gene」を書くきっかけとなったのが、1973年にイギリスで起きた炭坑労働者のストライキだったという話も面白い。このストライキのため、イギリスでは電力が足りなくなり、電気を使える日が制限され、使える日でも電気が落ちた。

ドーキンスは仕方なく研究を一度休みにし、本の執筆に時間を使うことにした。これが、僕が学生の頃に手にした「Selfish Gene」誕生のきっかけとなった。

この「An Appetite for Wonder」は「Selfish Gene」出版までの自伝で、2年後には続編となる自伝が出る予定だという。

ドーキンスは、もし何も大きなことが起こらずに、人生が無事に送れればこの出版は可能だと言っている。僕の方も、ドーキンスの続編を2年後に読むことができればきちんと人生を送れた証拠となるだろう。


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2012年02月27日

『The End of Illness』David B. Agus(Free Press)

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「未来の医療である個別化医療の話」


 僕の人差し指は薬指よりも短い。もし男で、薬指の方が長かったら、その人が前立腺がんにかかる確率は3割り減るという。

 女性の場合、人差し指より長い薬指の持ち主が骨関節症を発症する確率は、短い薬指の持ち主と比べ2倍となるという。
これは、子宮にいたときに受ける高いテストステロンと中指の長さ間の関係があるからだという。

 これは今回読んだ「The End of Illness」に書いてあったことだ。著者は、南カリフォルニア大学で医学を教えるデイビッド・アグス。世界的に有名な腫瘍学の医師だ。彼はまた、個々の特性に合わせた医療である「個別化医療(パーソナライズド・ヘルスケア)」の提唱者でもある。

 この本の冒頭で著者は個別化医療がいかなるものかを説明している。現在の医療は、例えば、関節炎になった場合、その関節炎に利く薬を患者に与える。個別化医療は、その患者の身体をシステムとして見て、そのシステムを直していこうといもの。

 「 今日の医療では『あなたの関節が痛む。その関節炎の助けになるものをあげましょう』ということです。私は、何故かを知りたい。何故、あなたのシステムが関節の痛みを許しているか。そして、そのシステム全体を違う方向に変えていきたい」

 この医療の鍵となるのがプロテオミクスという研究だ。いうなれば人体にあるタンパク質の研究だ。人は異なった時間、組織、環境で異なったタンパク質を作り出す。

 このタンパク質を研究することで、その個人がいかなる状況にあり、その状況下にあるシステムを変えるにはどうするかを解明していこうという医療アプローチだ。この本ではこのアプローチについてや、現在の医療、未来の医療について語られている。

 遺伝子の情報を研究するゲノムは医療の分野で大きな地図を医師たちに与えたが、プロテオミクスは、ある細胞がある条件下に置かれたとき、その細胞内に存在する全タンパク質を研究するもので、それによりさらに詳細な地図を医師たちに与えることになる。

 この本では、著者は最初に述べたような健康についての隠れた事象も上げている。

 例えば、座り続けることは喫煙と同じように身体に悪影響を及ぼすという。座ることは中性脂肪、コレステロール、血糖値、血圧、レプチン(食欲と代謝の調節をおこなうホルモン)に大きな影響を与えるという。

 その結果、テレビやコンピュータの前に6時間以上座っている人は、心臓病で入院するか死に到る確率が2倍になるという。

 未来の医療を思い浮かべながら、今の生活の見直しもでき、科学的にも興味を惹かれる本だった。




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2011年07月20日

『Area 51 : An Uncensored History of America’s Top Secret Military Base』 Annie Jacobsen(Little Brown & Co )

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「エリア51で働いた人々からの証言」


 もしあなたがレポーターで、ある夕食時親戚の小父さん(夫の小父の妻の姉妹の夫)が「凄い話があるんだ」と言ってきたらどうするか。

 そしてその小父さんがロッキード社のレーダー・マンといわれた物理学者で、世界でも最も謎の多い軍事施設である「エリア51」に働いていたとしたら。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、国家安全保障関係のレポーターでロサンゼルス・タイムズマガジンにも数多く記事を寄せるアニー・ジェイコブセンによる「Area 51」はこうして書き始められたという。

 そして話を聞かせてくれたのはエドワード・ロヴィック(彼は「Radar Man」というステルス技術の歴史に関する本を書いている)。

 ロヴィックはアニーに自分の知り合いのネットワークから、本を書くためにインタビューする人々を紹介した。

 この本でアニーがインタビューをした人間はエリア51に属していた19名。そして、この秘密施設に何らかの関係があった科学者、パイロット、エンジニアなど55名だ。

 特にインタビューの中心となっているのは、ロヴィックはもちろん、米国の偵察機U2で初めて当時のソ連上空を飛んだハーヴィー・ストックマン、エリア51のベースコマンダーだったヒュー・スレーター。そしてエリア51の購買マネジャーだったジム・フリードマンなどだが、最も重要な人物としてはエリア51で長年警備員として働き、施設内の多くの場所にアクセスがあったリチャード・ミンガスがあげられる。

 物語はエリア51の誕生から、そこで行われたU2偵察機の開発プログラム、ステルス機の開発プログラム、原爆実験プログラムなどが時系列で語られている。これらのプログラムの多くが1990年代から2000年代にかけ機密扱いから外され、米国政府により資料提供がなされている。

 しかしエリア51というと、UFOや宇宙人が施設内にいる、月面着陸はうそっぱちで実はエリア51に月面のセットが組まれそこで撮影されたものだ、などの噂がある。

 この本では有名なロズウェルの事件とその時発見された宇宙人とは何だったのかという謎から、CIAが極秘で情報を集めていたUFOの目撃情報収集プログラム、エリア51の地下基地の話までしっかり題材にし、回答を与えている。

 この本は国家安全保障に関するプロのレポーターに手によるもので、政府からの資料、CIAと軍部の権力闘争、ソ連との冷戦、CIAが使った大衆を欺く手段、テロとの戦いなどを検証。大きな歴史のなかでエリア51がいなかる役割を果たしたかを描いている。

 しかし一方で、エリア51でおこなわれているプログラムは「必要な時に必要な人物に情報を伝える」仕組みになっているので、大統領にも知らされないプログラムが存在するという。

 ある日著者はエリア51に関わったエンジニアと昼食を取った。

 「 私はクルトンを取り上げ・・・『もし私が知っていることがこのクルトンだとしたら・・・知らないことはこの皿くらいかしら』『あなたね〜』と彼は頭を振りながら言った。『本当の真実は椅子も入れたこのテーブルよりもっと大きいんだよ』」

 エリア51にはまだまだ秘密が隠されているようだ。



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2011年05月10日

『The Future of Life』Edward O. Wilson(Knopf Doubleday)

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「自然科学分野の名著」

 僕は大学時代から、必要に迫られ英語の本を原書で読むようになった。アメリカの大学に入っていたので、当たり前と言えば当たり前だ。
 教科書や課題図書のほかにも、好きで読む文学作品やノンフィクション作品もほとんど全て原書で読んだ。大学の四年間を通して、日本語の本はたぶん数冊しか読まなかったはずだ。それはいまも変わらず、読むのは圧倒的に英語の本が多い。

 大学時代に読んだノンフィクションで特に面白かったのは、スティーブン・ジェイ・グールドやリチャード・ドーキンスなどが書いた自然科学系の本だった。

 今回、読んだのはハーバード大学の生物学者であり、二度もピューリッツア賞を受賞している著者エドワード・ウィルソンの『The Future of Life』。

 表紙から洒落ている。黒いバックに白の文字でタイトルが書かれてある一見堅い感じの表紙だが、覗き穴が開いていてそこに、すでに絶滅してしまったコスタリカに生息していたカエルのイラストが見える。

 そして表紙を開くと、十七世紀のオランダ絵画のタッチを真似た美しい絵が続く。この絵に描かれている六十を超える動物や植物はすでに絶滅してしまったもの、あるいは絶滅の危機に瀕しているものだ。

 ウィルソンはこの本で自然の大切さを語っているのだが、どこかの環境保護団体のようなヒステリックな調子はない。二十一世紀の人類の挑戦は「いまの生活水準を保ちながら、貧困に喘ぐ国の人々の生活を向上させることだ」とウィルソンは語る。

 一方で自然の大切さも強調する。何故なら、ひどい環境のなかで幸せになれる人間はいないからだ。著者はいろいろな例を挙げ、もし人間が知恵を絞り、正しい選択をするならば、経済的にも自然環境的にもよい社会を作り出せるとしている。

 例えば、僕の住むニューヨーク市の水質につての記述があった。ニューヨークの水は良質とされているが、九〇年代の終わりには、水源であるアップステートの森が破壊されはじめ水質が落ちた。水質を維持するためには七十億ドルをかけてフィルター施設を作る必要があった。施設の運営には年間三億ドルの費用がかかる。選択を迫られたニューヨーク市は、水質保全のための債券を発行し、集めた十億ドルで森を買い上げた。

 これにより、森の自然は守られ、ニューヨーク市は大きな財政的な負担をおわずに済み、市民たちは良質な水と美しい森を手に入れた。自然を守ることが経済的に安上がりで、環境にもよいことを示す実例だ。

 この本の、もうひとつの良さは、本が美しい文章で書かれてあることだろう。ピューリッツア受賞作家だけあって、読み物としても十分楽しい。自然科学の好きな人はぜひ一読をお勧めする。
 
 
 
 


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2011年04月27日

『 Physics of the Future』Michio Kaku(Penguin Books)

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「トップ科学者たちが語った近未来の世界」


 私の息子は2002年に生まれ、21世紀を生きることになるのだが、彼が暮す21世紀の後半はどんな世界が待っているのだろうか。

 時代的にみると、ヘンリー・フォードがT型フォードを発表したのが1908年。ライト兄弟が最初の飛行に成功したのが1903年。

 もし息子の生まれた年を20世紀に置き換えると、息子はちょうどこの頃に生まれたことになる。

 そして、私たちが体験した20世紀末までの生活を思うと、これは凄い違いである。

 今回読んだ本は、21世紀中にどんな科学技術が発展するかを見せてくれる『Physics of the Future』。著者はニューヨーク市立大学シティカレッジ物理学部教授で超弦理論に貢献した日系3世の物理学者ミチオ・カクだ。アメリカに住む者にとっては、ディスカバリー・チャンネルやBBCの科学番組のホストとしてテレビでもお馴染みの人物だ。

 内容は、著者が300人を超える世界のトップ・サイエンティストたちにインタビューをし、そこから見えてくる未来を予測したもの。

 コンピュータ、人工知能、医療、ナノテクノロジー、エネルギー、宇宙旅行など8分野を「近未来(2030年まで)」「ミッドセンチュリー(2030年から2070年)」「遠い未来(2070年から2100年)」に分け、それぞれの分野、年代で何が起こるかを語っている。

 例えば「遠い未来」ではナノテクノロジーの発達により物体の形を自由に変えることができるようになるという。ちょっと驚くような話だが、理論は簡単だ。砂粒ほどのコンピュータを作り、その「スマート粒子」の表面の電荷(プラス・マイナス)を変えることにより、表面の形を変えるのだ。そして人型のロボットの表面をこの「スマート粒子」で作れば、姿を自由に変えられるロボットの登場となる。

 また、コンピュータチップとレーザー技術により、癌や痴呆症の超早期発見が可能となる。

 この本のよいところは、全ての話が科学技術に裏打ちされており、まったくの夢物語ではないところだ。そして、著者は応用される科学技術を一般の読者にも分かりやすいように解説し見せてくれる。

 また著者は、未来においてどんな仕事が残り、どんな国が繁栄していくかも語っている。

 著者はまた、おまけとして最後に「2100年の1日」という章を設け、未来の会社に働く男性の1日を描いている。

 著者の描く未来は明るい。それは、何が起こっても人間の知識欲は衰えず、科学技術は発展していくという信念に基づいているからだろう。人間性と科学技術を考えるにもいい本だ。

 「さあ、科学的革新を担う科学者たちが私に語ってくれた、今後100年間の科学の仮想旅行に出てみよう」と著者は誘っている。


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2009年10月04日

『The Great Influenza: The Story of the Deadliest Pandemic in History』John M. Barry(Penguin Books)

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「世界を襲ったインフルエンザ大流行の歴史」


 1918年春。アメリカのカンザス州にあった軍隊のキャンプでインフエンザが流行し始めた。

 アメリカは第一次世界大戦を戦っているさなかで、軍隊のキャンプは人員過剰の状態。その冬は寒さが厳しく、毛布さえも不足しがちだった。多くの人間が一カ所に集まり、寒さに耐えなければならない環境でインフルエンザの流行が始まった。

 しかし、この春のインフルエンザ第1波は症状が軽く、患者たちは数日間で病気から回復していった。人々は、少し症状が重い風邪くらいにしか感じなかった。

 その8週間後、変化を遂げ強力になったインフルエンザの第2波がアメリカを襲った。この本は世界中で1億人の命を奪ったといわれるインフルエンザ流行の記録だ。

 フィラデルフィア州にあった軍隊キャンプではインフルエンザによる死者がでたが、兵士の士気を重視する軍部は積極的な防衛策を講じず、市民にも情報を伝えなかった。

 その結果、フラデルフィア市民にもインフルエンザが流行し1週間に4500人以上が死亡する状況が生まれた。病院はその患者数の多さに対応できず機能マヒとなり、医師や看護士たちも病に倒れた。

 そんななかで、州政府は「すでに最悪期は過ぎた」と病気への対応より市民感情の沈静化を優先させた。

 しかし状況はさらに悪化し、死者を葬るための棺がなくなり、墓を掘る人間たちもいなくなった。死人がでた家では死体を部屋においたまま、または死者とベッドを共にするという生活を強いられた。

 1900年初頭はまた、医学界で革新的な技術が生まれていた時期でもあった。

 今回読んだ『The Great Influenza』は、1918年のインフルエンザ大流行を伝えるだけではなく、いかに医学界がこの病気と戦ったかを伝える本だった。

 医者たちは病気を治すことから、病気にかからないようにするため技術を編み出しつつあった。

 1918年の大流行に直面した医者たちは、まずこの病気の原因をつきとめることに腐心した。発症から死亡までひどいものでは1日もかからない病気の病原体を純正培養し、ワクチンを作る。しかし、病原体がはっきりとせずなかなか成功をみない。一方、街では数千人が日々死亡している。1918年の大流行は医学界を永遠に変革させた事象でもあった。

 「今日、1918−19年のアメリカでのインフルエンザ大流行は67万5000人を超える死者を出したと考えられている。当時の人口は1億500から1億1000万人で、一方2006年は3億人に達しつつある。そこで、今日の人口数にその比率を合わせると、175万人が死亡したこととなる」

 新たな型に変化を遂げるインフルエンザの怖さが分かる本だ。



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2009年05月29日

『A Lion Called Christian : The True Story of the Remarkable Bond between Two Friends and a Lion』Anthony Bourke, John Rendall(Broadway Books)

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「ロンドンで育てられたライオン、アフリカに帰る」


 今回読んだ『A Lion Called Christian』は1971年に一度出版されているが、ビデオクリップをネット上で観ることができるYou Tubeからの国際的大人気を受け、加筆・修正がくわえられ再出版されたものだ。売れ行きは好調で、今年3月に出版されてすぐにニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー・リスト上位に入った。

 You Tubeでの人気について著者たちは次のように語っている。

 「2007年の終わり頃に、僕たちのビデオがYou Tubeに流れているというメールを受け取り始めた。誰がYou Tubeに載せたのか知らないが、あまり気にもしなかった。でも、08年になってウィットニー・ヒューストンの曲をバックに付けたものが流れ始め、それを観た人が知り合いに送り遂には世界中の人が観るようになった」

 You Tubeのこのビデオクリプはアメリカやその他のテレビで紹介され、ハリウッドのプロデュサーが著者たちにコンタクトを取ってくるようになった。

 この本に興味のある人は、読み始める前でも読んだあとでもいいので、一度You Tubeのビデオクリップを観ることをお勧めする。

 物語の方は1969年に、オーストラリアからロンドンを訪れていたアンソニー・エイス・バークとジョン・レンダルが高級百貨店ハロッズで売られていた子供の雄ライオンを買ったところから始まる。

 ふたりはライオンにクリスチャンという名前をつけ、ロンドンで飼い始める。この間にクリスチャとふたりの間に固い絆が産まれるが、市内でいつまでもライオンを飼い続けることはできない。

 動物園に寄付をするのも、サーカースに売りショーライオンとしての生活を送らせるのもふたりにはよい考えとは思えない。

 ライオンの子供を買ったことでふたりに大きな責任が与えられる。

 ふたりは「野生のエルザ」で有名なジョージ・アダムソンとの協力を得てチリスチャンをアフリカの野生に帰す決心をする。

 野生に戻ったライオンの生涯は短い。しかし、管理された長い生涯よりも、自由で思い切り生きられる生涯をクリスチャンに与えてあげようと決めたのだ。

 その後、ふたりはクリスチャンとともにアフリカに渡り、アダムソンの指導のもとでクリスチャンに野生に戻る訓練を施す。そして、準備が整ったころにクリスチャンを野生に戻した。

 その1年後、飼い主のふたりはアフリカに戻りクリスチャンと再会する。この再会がYou Tubeで観られる場面だ。

 「クリスチャンは以前と全くかわらない深い愛情をみせた。昔のいたずらや新しいふざけ方をしてみせた。…牙は1インチ半の白いアイボリーだ!…間違いなく一群のボスだ」
 
 ロンドンでライオンを飼う話は心温まり、彼をアフリカの野生に戻す苦労も心にしみる。英語の読みやすさも魅力だ。



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2009年01月09日

『Time Traveler : A Scientist's Personal Mission to Make Time Travel a Reality』Dr. Ronald L. Mallett(Basic Books)

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「タイムマシンの作り方」


 「想像力は知識よりも大切だ。知識には限りがあるが、想像力は世界を巡る」

 アインシュタインの言葉だ。

 このアインシュタンの言葉のように、人々の想像力をかりたてる研究をしている博士がいる。それがコネチカット大学教授ロナルド・マレット博士だ。彼の研究対象というのが、な〜んとタイムマシンなのだ。

 しかしタイムマシンと言っても、荒唐無稽な話ではない。マレット博士のタイムマシン理論はアインシュタインの相対性理論を土台にしたもので、この機械を本気で作ろうとする組織がマレット博士を中心にコネチカット大学に設けられ、研究が進んでいるのだ。

 この本は過去への旅の可能性を科学的に証明した理論を発見したといわれる理論物理学者のマレット博士のメモワールだ。

 過去のあの時に戻ることができたなら、今度は違うやりかたで人生をやり直してみたい。過去に戻ることができるなら、愛する人の人生をよりよいものにしてあげたい。そんなことを誰でも一度は考えるだろう。

 マレット博士は10歳のときに父親を失ってしまう。愛する父親を亡くしたマレット博士は失意のなかに一筋の光を見つける。それがタイムマシンだった。H・G・ウェルズの本を読みタイムマシンという時を巡る機械に魅了され、いつかタイムマシンを開発し過去に遡り、父親に煙草をやめ今すぐ病院にいくように忠告し父の命を救いたいと強く願う。

 彼はタイムマシンの開発を胸に理論物理学者への道を進んで行く。しかし、黒人である彼は同僚の学者や社会から「変人」のレッテルをはられるのを恐れ、本当に信頼した人物にしかタイムマシンの話をしない。

 「私がタイムトラベルに興味を持っていることを話さないのは合理的な理由によるものだった。私の所属する学部の中からも外からも変人というレッテルをはられない方がよかった。」とマレット博士はこの本で語っている。

 しかし、アインシュタインが言うように本当に大切なものは知識よりも想像力だ。

 マレット博士は優れた理論物理学者であり、論文も数多く発表しコネチカット大学の教授となる。その後、彼は遂に過去への旅が可能であることを示す理論を確立し、物理学界に発表をする。

 最近では、スパイク・リー監督がこの本の映画化を発表し注目を集めた。映画化により、マレット博士の研究がさらに人々の関心を集めるのは間違いないだろう。



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2008年10月26日

『The Black Hole war: My Battle with Stephen Hawking to Make the World Safe for Quantum Mechanics』Leonard Susskind(Little Brown)

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「スティーブン・ホーキングとの争いに勝利した回想録」


 宇宙のなかでぽっかりと穴を空けているようなブラックホール。中心には超密度に収縮された核となる特異点と呼ばれる点があり、この点に向かってすべてのものは吸い込まれていく。

 ブラックホールには引き返すことが不可能な点と呼ばれる仮説上のラインがあり、このラインを超えた情報は光といえども、もうブラックホールの外にでることはできない。ナイアガラの滝に近づいたボートが、あるラインを超えると滝壺に向かう流れのほうが強く、どんなに力一杯ボートを漕いでも滝壺に落ちる運命を変えられないのと同じ原理だ。

 ケンブリッジ大学の理論物理学者スティーブン・ホーキングはブラックホールは蒸発を続けやがて消滅するという理論を発表した。この学説は物理学界を驚かせたが、1976年にホーキングが発表した学説はさらなる物議をかもしだした。

 ホーキングが発表した新たな学説とは、ブラックホールに吸い込まれた情報は永遠に失われるというものだった。

 この学説に意義を唱えたのが、本書の著者であるスタンフォード大学のレオナルド・サスキンドだった。彼はオランダの物理学者ゲラルド・トフーフトと陣営を組み、ホーキンス陣営に戦いを挑んだ。

 従来の物理法則では情報は絶対に失われることはないというものだった。例えば、火に投げ込まれた書物なども、大気上に放出された情報と燃え残った情報を合わせ、燃えた過程をひとつも間違わず逆に辿ればその本が再び現れるという説だ。もし情報が永遠に失われてしまうなら、これまでの法則が間違っていることになる。

 この戦いはホーキング率いる相対論学者とサスキンドとトフーフトがタッグを組んだ量子論学者の争いでもあった。

 「ホーキングはアインシュタインの等価原理に信頼を寄せる一般相対性理論学者であり、トフーフトと私は量子物理学者である・・・」とサスキンドは本書のなかで述べている。

 争いの結果は2004年にホーキングが自分の学説の誤りを認め、サスキンド陣営の勝利に終わった。この本は、サスキンド自身がその勝利までの過程を描いたものだが、いかに勝利したかを理解するためにはひも理論、ホログラフィック理論、そのほかの理論や数式を知る必要がある。そのため、多くのページが図解入りでそれらの理論の説明に割かれている。

 勝敗の結果もさることながら、それぞれの理論が興味深く(何度読んでも僕では理解できないものもあったが)、宇宙の謎に思いを馳せることになる本だった。
  



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2008年04月12日

『The Future of Life』Edward Wilson(Vintage Books)

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「美しい英文と興味深い題材が魅力の本」

僕がアメリカやイギリスの本を本格的に原書で読むようになったのは、ボストンにある大学に入ってからだった。アメリカの大学に入ったので、当たり前といえば当たり前だが、教科書や課題書籍、それに好きで読む文学作品やノンフィクション作品など手当たり次第に英語を読んだ感じがある。初めは辞書を片手に読んでいたが、なにしろ量が多いので分からない言葉をいちいち調べていたのでは間に合わない。それに、辞書を引いて文章に戻るという作業を繰り返すと、読んでいるものが面白くなくなってしまうことが多かった。

分からない部分はすっ飛ばして、なにしろ読み続ける。僕の本格的な洋書の読書はそんなふうに始まった。そうして、大量の洋書を4年間も読み続けているうちに、僕はいつしかかなり英語を読めるようになっていた。

大学の4年間を通して、日本語の本はたぶん数冊しか読まなかったはずだ。それはいまも変わらず、読むのは圧倒的に英語の本が多い。

大学時代に読んだノンフィクションで特に面白かったのは、スティーブン・ジェイ・グールドやリチャード・ドーキンスなどが書いた自然科学系の本だった。

今回紹介するのは、ハーバード大学の生物学者であり、2度もピューリッツア賞を受賞しているエドワード・ウィルソンの『The Future of Life』だ。

この本は表紙からして洒落ている。黒いバックに白の文字でタイトルが書かれてある一見堅い感じの表紙だが、覗き穴があいていてそこにすでに絶滅してしまったコスタリカに生息していたカエルのイラストが見える。表紙を開くと、17世紀のオランダ絵画を真似た美しい絵が続く。その絵に描かれている60を超える動物や植物はすでに絶滅してしまったもの、あるいは絶滅の危機に瀕している種だ。

ウィルソンはこの本で自然の大切さを語っているのだが、どこかの環境団体のようなヒステリックな調子はない。

人類の今世紀における挑戦は「先進国がいまの生活水準を保ちながら、貧困にあえぐ国の人々の生活を向上させることだ」とウィルソンは語る。そのためにも自然は大切だと強調する。何故なら、ひどい環境のなかで幸せになれる人間はいないからだ。著者は数々の例をあげ、もし人間が知恵を絞り、正しい選択をするならば、経済的にも自然環境的にもよい社会を創り出せるとしている。

本のなかには、僕の住むニューヨーク市についての記述があった。ニューヨークの水は良質とされているが、90年代の終わりには水源があるニューヨーク州北部の森が破壊されはじめ水質が悪化した。水質維持のためには70億ドルをかけて浄化施設を建設する必要があった。そのうえ施設の運営には年間3億ドルの費用がかかる。
 選択を迫られたニューヨーク市は、浄化施設を建設するのではなく、債券を発行し10億ドルで森自体を買い上げ、森の自然を守ることに力を入れた。この賢い政治判断の結果、森の自然は守られ、ニューヨーク市は大きな経済的負担をおわずに済み、市民たちは良質な水と美しい森を手に入れた。自然を守ることが経済的に安上がりで、環境にもよいことを示す実例だ。

この本には内容の面白さのほかにもうひとつの魅力がある。それは、この本がとても美しい文章で書かれてあることだ。読み物としても興味深く、英語の文章の美しさも味わえる。自然科学が好きな人や、美しい英文を味わってみたい人にお勧めの本だ。



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