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2013年09月20日

『Prep』Curtis Sittenfeld(Random House)

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「アメリカ東部のプレップ・スクールが舞台となった小説」

マサチューセッツ州ボストンで大学の4年間を過ごした僕は、時々マサチューセッツ州が恋しくなる。ボストンは都会なので、ボストンに行きたいとはあまり思わないが、大学の春休みや夏休みを過ごした田舎町にまた行ってみたいと思う。
いまはマンハッタンのビルに囲まれて住んでいるので、あの樹木の多い古く美しい土地でのんびりと時間を過ごしてみたいと思うのだ。

そして、一緒に休みを過ごした大学時代の友人たちのことも思い出す。もう、居場所も分からなくなってしまった奴らのほうが多いが、それでも数人は連絡を取っている友人もいる(と言っても年に1回とか2回だけど)。マサチューセッツ州は、僕にとって学生時代の思い出と切り離せない場所となっている。

今回読んだ本は、マサチューセッツ州にある学校が舞台となった小説『Prep』だった。Prepとは、ハーバード大学やブラウン大学などアメリカの一流大学進学のための準備をする進学校のことだ。正式にはプレパラトリー・スクールと言うが、ほんとんどの場合は短く「プレップ・スクール」と呼ばれている。

東海岸の名門プレップ・スクールに通う生徒はプレッピーと呼ばれ、彼ら(彼女ら)のアイビー調の服装はプレッピー・スタイルと呼ばれている。小説『Prep』は、もちろんプレッピーの物語だ。

物語の舞台となっている寄宿制の学校の名前は「オルト・スクール」となっているが、これがマサチューセッツ州にある超名門プレップ・スクール「グロトン・スクール」であることは、グロトンを知っている人ならすぐに分かる。

主人公は、インディアナ州の小さな町から、オルトのアッパー・スクール(13歳から17歳)に入学したリー・フィオラ。

物語は24歳となったリーが、自信のなかった当時の自分を振り返りながら、名門学校での体験を語る形式で進められる。彼女の一番恐れていることは、自分が奨学金を受け取っている学生であるとほかの生徒に知られてしまうこと。金持ちの子弟子女ばかりが周りにいる学生生活のなかで、彼女は友人を作るのにも苦労する。

ロックの歌詞のなかに登場するような、裕福で高慢な、男子生徒の憧れであるブロンドの少女アペス・モンゴメリー。韓国からの留学生シン=ワン。アペスの取り巻きのひとりであるディー・ディー。桁外れの金持ちの娘でありながら、アウトサイダーの道を行くコンチータ。誰一人としてリーと共通な価値観を持っている生徒はいない。

そして、リーが心を寄せる男子生徒人気ナンバー・ワンのクロス・シュガーマン。リーは教師と対立し、時には女生徒と喧嘩をしながらだんだんと成長していく。

リーはコンチータの友人を奪う形で、生涯の友人となるマーサとルームメイトになる。そして、憧れていたクロス・シュガーマンともセックスをする仲になるが、幸せを感じられる関係ではない。

『Prep』には全編を貫く大きな事件は起きない。この物語の面白さは、4年間の学生生活のなかでのリーの心の動きだろう。自己嫌悪に陥り、友人と張り合い、自分の行動は正しいものだろうかと常に悩み考える。思春期から大人の仲間入りをしようという時期の、女性の心情が詳細に描かれる。プレップ・スクールという華やかな場所が舞台となっているのもこの小説を面白くしている要因のひとつだろう

著者のカーティス・シテンフェルドは、16歳の時に『セブンティーン・マガジン』誌がおこなったフィクション・ライティング・コンテストで優勝。その後、『ニューヨーク・タイムズ』紙などに寄稿。スタンフォード大学、アイオワ大学創作科卒業。高校は有名プレップ・スクール、グロトン・スクールを卒業。『Prep』は彼女のデビュー小説となった作品だ。
 


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2013年09月04日

『Daddy is Fat』Jim Gaffigan(Crown )

Daddy is Fat →紀伊國屋ウェブストアで購入

「NYの2ベッドルーム・アパートで5人の子供を育てる法」


ニューヨークに住んでいるコメディアン、ジム・ガフィガンはバワリーと呼ばれるイーストサイド・ダウタウンにある通りの5階建てエレベーター無しのビルに住んでいる。住んでいる部屋は2ベッドルームという居間のほかに2部屋あるタイプのアパートだ。

そして、子供が5人。はぁ〜? 僕は彼のこのプロフィールを読んで考えてしまった。実はこのバワリー通りは僕のブリーカー通り沿いのアパートから5分程度のところでよく知っている通りだ。この通りにかつてCBGBというニューヨークパンク発祥のクラブがあったと言えばどんな感じの通りか想像ができると思う。

そして、僕が住んでいるのは6階建てのエレベーター無しの2ベッドルーム。だが子供は一人。それでも、スペースが足りなくて困っている。同じような環境で子供が5人。想像するだけで気が遠くなる。

そして、今回読んだのがジムのその5人の子供と奥さんの生活を描いた『Daddy in Fat』。言うならば5人の子供をニューヨークの部屋数の足りないアパートで育てる奮闘記だ。コメディアンの本らしく、センテンスは短く、簡潔でパンチが利いている。ひとつの話は2、3ページで短く、約60本の話が収められている。

僕が最も気になったのは、基本的には3部屋のアパートでどう5人が寝ているのかというもの。

それについては「How to Put Five Kids to Bed in a Two-Bedroom Apartment」という話に書いてあった。面白かったので紹介しよう。

ジムの家の居間と2つのベッドルームには全て幼児用のベッドがある。そして1つのベッドルームにはその幼児用ベッドの他に2台のシングルベッドがある。夫婦のベッドルームには、幼児用ベッドとキングサイズのベッド。

子供たち3人は2台のシングルベッドと幼児用ベッドのあるベッドルームに寝て、あとの2人は夫婦のベッドルームのキングサイズベッドと幼児用のベッドに寝る。そしてジムと奥さんは居間で仕事をしたり、本を読んだり、テレビを観たりして貴重な「大人の時間」を過ごす。

そして2人が寝る時間になると「移動」が始まる。まず、夫婦のベッドルームの幼児用ベッドに寝ていた子供を居間にある幼児用ベッドに移す。そして、シングルベッドに寝ていた女の子を隣に寝ている女の子のシングルベッドに移す。最後にキングサイズベッドに寝ていた男の子を開いたシングルベッドに移す。

これで居間の幼児用ベッドに小さな子ひとり。ひとつのベッドルームに女の子ふたり、男の子ひとり、それに幼児用ベッドに寝ている小さな子。こうすると夫婦のベッドルームのキングサイズベッドにはジムと奥さんだけ、というアレンジメントになる。

そして、ジムと奥さんが寝る準備を始めると、子供たちが起きてきて、7人全員がキングサイズベッドで寝ることになるという。ハハハ。

その他に驚いたのが家族の夏や春のバケーションの取り方だった。彼らのバケーションはバスを借りるという。バンや小型バスではなく、日本で言えば修学旅行で使うような大型バスだ。ツアーバスというロックスターが全米ツアーをやる時に使う仕様のもので車内にはバックベッドが6台、大きなベッドが1台あるという。家族が7人にもなると飛行場に行ったり、列に並んだりするだけで大変(家を出ようとするだけでもう体力を使い果すという)で、バスならば家の前まで来てくれて、荷物もどんどん積めるのでいいらしい。

しかし、ツアーバスを借りるのは高いので、このバケーションに合わせてジムはその土地でコメディショーをやる。逆に言えば、ショーのスケジュールに合わせての家族移動だ。

その他、5人の子供と一緒にニューヨークの地下鉄に乗る話や、バースデーパーティの話(5人子供がいるとその友達のバースデーパーティだけで凄いことになる)、学校の送り迎えの話とか、ニューヨークの子育てがどんなものか分かるだけに可笑しく、しかし笑えないような話でいっぱいだった。

ニューヨークで子供を育てる親として同情しながらも心温まる本だった。


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