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2013年07月20日

『Every Tongue Got to Confess : Negro Folk-Tales from the Gulf States 』Zora Neale Hurston(Perennial)

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「民俗学者ハーストンが集めた黒人口承民話集」

ゾーラ・ニール・ハーストン。1920年代をニューヨークで過ごし、黒人作家ラングストン・ヒューズや、人類学者のフランツ・ボエズなどとも親交があり、ハーレムルネサンスの担い手のひとりとして活躍した民俗学者/女性黒人作家だ。
当時バーナード・カレッジの学生だったハーストンは27年から2年間をかけ、フロリダ州、アラバマ州、ジョージア州、ルイジアナ州などを旅しながらその土地に伝わる黒人口承民話を集めた。

「民話の収集は思うほど簡単ではありません」とハーストンはあるインタビューで語っている。

「収集に最も向いているのは、外部からの影響を受けていない土地です。民話を語ってくれるのは、社会的な恩恵を得ていない人々が多く、往々にして彼らは恥ずかしがり屋です」

ハーストンは南部の小さな田舎町や、製材所、ダンスホールなどに足を運び民話を集めた。

本書の前書きによると、彼女の南部の旅は、白人女性から月200ドルの援助を受けて実現したものだったという。集められた原稿の一部は出版されたが、大半は本になっていなかった。

スポンサーとなった女性は民話の出版準備をしたがある種の言葉の使用を制限した可能性がある。そのため、ハーストン残りの大半の民話の出版を思い止まったのかも知れないとしている。ハーストンは、聞いた通りの言葉使いを記録していた。

「彼女(スポンサーの女性)は汚い言葉は言い換えなければならないと言っている。もちろん、それは分かっているけど、私はまずそのままのものを集めたい」とハーストンは語っている。

この本はハーストンが集めた民話が長い時を経て出版された民話集だ。彼女の用意した原稿は、コロンビア大学の資料室に30年間眠り、その後はスミソニアン博物館に保管されていた。その後、個人に手に渡り、最終的にアメリカでも最大手出版社のひとつと言えるハーパー・コリンズから出版された(紹介されている本はペーパバック版)。

この本では言葉使いもハーストンの原稿をそのまま用いており、悪魔の話、神の話、説教者の話など15の章に分かれている。 

本書のイントロダクションを読むと、内容はかなり学術的なもののような気がしてくるが、まったくそんなことはない。ひとつの話はどれも短く、「神が男を作る前に、万物を創造したのは、男に作り方をみせると全ては俺が作ったんだと、女に嘘をつき自慢するからだ」などというユーモラスなものが多い。

そうしてハーストンの言葉通り、田舎の黒人の喋り方を音としてそのまま記録している。例えば「God wuz through maki' de lan' an' de sea an' de birds...befo' He made man.」などという文章に遭遇する。文法はともかく、普通のスペルに直すと「God was through making the land and the sea and the birds...before he made man(神は男(人間)を作る前に大地、海、鳥・・・を作り終えていた)」となる。

この本の文章を読むだけで、田舎の人の声や顔が浮かんでくるようだ。なんとなく嬉しい気分になる。黒人文化の資料としてだけはなく、黒人音楽の資料、文学作品としても貴重な一冊といえるだろう。


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2013年07月10日

『Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage 』Alice Munro(Vintage Books)

Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage →紀伊國屋ウェブストアで購入

「アリス・ムンロの短編集」

もう随分昔の話だが、僕がカナダ人作家、アリス・ムンロの名前を知ったのは、ジョン・アービングやニック・ホーンビイといった僕の好きな作家のインタビュー記事からだった。
ホーンビイはよく読む作家としてアリス・ムンロを挙げていたし、アービングにいたっては最も好きな作家に彼女の名前を挙げていた。

ムンロの作品を読めば、何故アービングやホーンビイが彼女を好きな作家として挙げているか分かると思う。それは、ムンロがストーリー・テラーとして優れた才能があり、運命の不思議さを物語のなかでみせてくれる作家だからだ。

その作風をアービングと比較すると、アービングは多くの言葉を使い、コミカルともいえる物語の構成のなかから運命の不思議さを浮かび上がらせるが、ムンロは短編という形を使い、言葉で語らない部分も読者に想像させながら物語を進めていく。

ムンロは短編作家といえるが、ほかに短編作家というと、レイモンド・カーバーがいる。カーバーは人生の危機の瞬間を切り取り、多くの作品とした作家だった。

一方、ムンロの作品はカーバーのものよりずっと長く、人生の危機の瞬間よりも、人生の微妙さ、運命のおもしろさを描いている。また、主人公が老年に達した女性が多いのもムンロの作品の特徴だろう。そのほか、直面する死とまだ心に残る愛情、または新たに芽生えた恋心などもムンロの作品のテーマだ。

さて、今回紹介する本この本は、ムンロの11作目の作品。表題作を含め9本の短編が収められている短編集だ。

表題作である物語は、家政婦として働くジョナ・パリーが主人公となっている。ジョナが働く家の主人にはふたりの娘がいたが、長女はすでに死んでしまっている。ジョナはその長女の元の夫ケンと文通をしているが、その手紙はケンが書いているのではなく、次女とその友人が悪戯として書き始めたものだった。

つまり、ジョナの手紙はケンの手元には届かず、次女とその友人の手に渡り、彼女たちがケンのふりをして返事を書いているのだ。悪戯の手紙の内容はだんだんと親密さを増し、遂にジョナは結婚を胸にケンを訪れる決心をする。

ジョナの手紙を一通も受け取っていないケンは、もちろんジョナが来ることなど知らないが、ちょうどその頃、重い病気を患ってしまう。自分のもとを訪れた実家の家政婦に驚くが、口を聞く元気もない。

ジョナはケンを看病し、経済的に窮地に陥っていたケンの生活を建て直す。最後にふたりは結婚をして家庭を作るという物語だ。この50ページほど作品のなかにジョナとケンの物語だけではなく、次女とその友人の人生、ジョナが働く主人の生活、古い町の様子などが書き込まれている。

タイトルの「Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriage」は次女とその友人が作り出した遊びで、それぞれの言葉を紙切れに書き、その紙切れを選ぶことでボーイフレンドとの関係がこれからどうなるかを占うというものだ。一見偶然とも思える、何かの力に左右されたジョナとケンの運命を暗示するタイトルだ。

しっとりとした物語を読みたい読者にお勧めだ。



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