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2013年06月28日

『Let’s Explore Diabetes with Owls』David Sedaris (Little Brown & Co)

Let’s Explore Diabetes with Owls →紀伊國屋ウェブストアで購入

「アメリカのユーモアリト、デビッド・セダリスの新刊」

ニューヨークで暮らしているといろいろ考えさせられるというか、気になることがでてくる。
そのひとつが健康保険の高さ。ニューヨークに住むアメリカ人は(ここに住んでいる僕たち家族も)日本では信じられない額を健康保険に支払っている。僕と妻がふたりで入っている健康保険はひと月約20万円。2万円ではない。20万円だ。それも掛け捨て。安い健康保険を探してもふたりで15万円以下を探すのは難しいだろう。

もし、健康保険を持っていなくて病気や怪我をしようものなら、例えば2日の入院で300万くらいは楽にかかってしまう。大げさに言っている訳ではなく、本当にこれが実際の状況だ。健康保険を持っていないと治療してくれない病院もある。

高い健康保険のせいで、保険に入れないアメリカ人も多いが、日本のように医療保険制度を政府が導入しようとすると、反対の声があがる。アメリカでもやっとこさオバマ大統領が政府による医療保険制度を導入したが、それでも反対の声は続き、いまも政府の医療保険制度(オバマケアーと呼ばれている)を無効にしようという投票が何度もアメリカ議会で行われている。

日本のような国民健康保険制度は、右派のアメリカ人に言わせると社会主義的なもので、個人の自由を制限するもとなる。政府が押し付ける健康保険はアメリカの精神に反すると声高に主張するグループがいる。

とここまでシリアスな調子で書いてきたが、今回読んだ本はアメリカのユーモアリスト、コメディアン、ベストセラー作家デビッド・セダリスの新刊「Let’s Explore Diabetes with Owls」。

フランスやロンドンなどで多くの時間を過ごすセダリスは、アメリカを外側の世界からの視点で語れる作家だ。この本には26本の作品が収められていて、多くはエッセーだが、6本は架空のキャラクターが語る社会風刺が利いたモノローグも入っている。

最初のエッセー「Dentists Without Borders」は、彼がフランスで通った医者の経験談。政府の医療制度があるフランスで、彼は医者や歯医者に行くが、その費用は安い。ある日、彼は脂肪の塊が身体の右側にあるのを見つけ最悪、癌だと心配し医者に行く。

その脂肪の塊を診た医者は「心配いらない。犬がよくかかる奴だ」とそっけない。セリダスはその脂肪を取り除くことはできるかと聞く。「取るには取れるが、なんでそんなことをしたいんだ」と医者は言う。まだ安心できないセリダスはさらに食い下がり、この塊が大きくなるんじゃないかと医者に質問する。

「そりゃ、まあ、大きくなるかも知れない」と医者は言う。

「凄く大きくなるのでは」

「ならない」

「なんでだ」

「知らないよ。じゃあ、何で木が空まで届かないんだい?」

アメリカではこんなとき、医者はいろいろな検査をし、患者の悲壮感を満足させるような小難しい病名を患者に伝えるはずだとセリダスは思う。

また、歯医者嫌いだった彼が歯医者のストーカーといえるほど歯医者好きになってしまったいきさつなど、ユーモアたっぷりに語られる。

その他、数多く旅をするセリダスはこの本で、中国の公共トイレ、日本の語学テープ、空港のセキュリティー、それにバレンタインデーにボーイフレンド(彼はゲイ)に贈ろうとしたギフトなどの話が風刺とユーモアを込めて語られる。

どの作品の数ページと短いので、細切れに読んでも楽しめる本だ。


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2013年06月18日

『Roads : Driving America's Great Highways』Larry McMurtry(Simon & Schuster)

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「アメリカのインターステートを走る旅行記」


 これまで、アメリカ大陸を3度横断したので、いまでもアメリカ全土のロードマップをみるとその時のことが思い出される。もの凄いヒートウェイブのなかをニューメキシコ州のアルバカーキに向けて走ったインターステート40、ワイオミング州の荒々しい自然にみとれたインターステート80、テネシー州メンフィスからルイジアナ州ニューオーリーンズに抜けるインターステート55など、それそれの道と僕の記憶はいつまでも結び付いている。

 そんな僕の心の扉をノックするような本を読んだ。それはラリー・マクマートリーの新刊『Roads』だ。マクマートリーは1985年に出した小説『Lonesome Dove』でピューリッツァ賞を獲得した作家だが、『Roads』は小説ではなくエッセー集だ。内容は60歳を超えた著者が20世紀の終わりに、メリカのインターステートを走り、そのときに感じたことを書いたものだ。

 「20世紀の終わりにアメリカの道を車で走り、この国を再びみてみたかった」と著者はこの本の冒頭に記している。

 ニューヨークの本屋でこの本を手に取り、冒頭の文を読んだ僕は、「いいな〜」と心のなかで呟いた。僕も、自分の狭いアパートとときには仕事のことばかりになるニューヨークを抜け出して、果てしなく続いていそうなインターステートをまた走り回ってみたいのだ。

 著者の書く文章は旅行者の助けになるような情報はほとんどなく、車でアメリカを走り回ったビート作家、ジャック・ケルアックの『On the Road』に出てくるような英雄的な逸話もない。

 インターステートを走り、そのときに心に浮かんできた事象を、時には皮肉を込めて、またときには懐かしく思い出しながら書き進めている。
 
 この本のなかで、僕が最も気に入ったのは、著者が子供のころから何度も使ったサム・カウアン・ロードというかつては舗装もされていなかった道のことを書いた『Short Roads to a Deep Place』という話だった。

 その道は、著者がまだ子供のころ祖父と一緒に馬車に揺られ、6マイル離れた小さな町まで郵便を受け取りに行った道であり、トラックが使われ出す前に、カウボーイの一員として牛を運んだ道でもあった。

 ノスタルジックな描写に、どこか埃の匂いさえ漂う文章は一読の価値がある。また、インターステート75、US1を走りフロリダ州のキーウエストを訪れる話も面白かった。

 テーマパークのようになってしまったキーウエストを、「ここはもうディズニーに運営を任せた方がいい。ディズニーなら最低でも駐車場を上手く取り仕切るだろう」と皮肉を言い、キーウエストに残されたヘミングウエイの蔵書をみて、「ろくな本がない。きっとヘミングウエイの3人の妻の誰かががこの本を選んだに違いない」と意見を述べている。

 僕は、この本を読みながらこの皮肉にニヤリと笑い、センチメンタルな文章にアメリカの知らない土地への思いを馳せた。


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2013年06月05日

『Citizen Girl』Emma Mclaughlin & Nicola Kraus(Washington Square Press)

Citizen Girl →紀伊國屋ウェブストアで購入

「女性就職残酷物語、ニューヨーク流」

ニューヨークで日系の経済雑誌の記者をやっていた頃、記事を書くために日本の企業に働く数多くのアメリカ人にインタビューをしたことがあった。アメリカ人社員たちは、自分の言葉が記事になるにもかかわらず、いま自分が働いている会社に対し驚くほど率直な意見を述べた。
彼らの大半が勤めている日本の企業に不満を持っていてその不満は「意志決定が遅い」「役職に就く人間に役目を果たすだけの権限が与えられていない」「仕事のダイナミックさにかける」というものがほとんどだった。

不満の原因は、日米の企業文化の違いからでてくるもので、どちらのやり方がいいとはいえないが、考え方の違いがはっきりと浮き出でいた。

それでは、ニューヨークにあるアメリカ企業はどんなやり方で仕事を進めていくのだろう。その現実をかいまみることができるのが今回紹介する『Citizen Girl』だ。

社会風刺コメディなので、誇張はあるが、日本の会社では考えられない出来事が次々と起こり笑ってしまう。主人公が24歳の若い女性なので、『ブリジット・ジョーンズの日記』のように、若い女性が仕事と男を求めて現代社会を彷徨というチック・リット文学でもある。

著者のエマ・マクラフリンとニコラ・クラウスは、ニューヨークの中産階級家庭に雇われた子守を主人公にして、金持ちの家庭を内側から描いたコメディ『The Nanny Diaries』を書いたコンビである。

2002年に出版された『The Nanny Diaries』はアメリカで200万部を超えるベスト・セラーとなった。映画製作権はミラマックス社が50万ドルで買い取り、すでに映画になっている。

その大ヒットに続いた作品がこの『Citizen Girl』。『The Nanny Diaries』を出版した出版社は続編となる『The Nanny Diaries 2』を書くように著者に求めたが、彼女たちは、いま自分たちが一番関心のあるのは若い女性の就職状況や仕事環境だと出版社の希望をはねつけた。

その結果、別の出版社が25万ドルの出版契約金を払って出版されたのがこの『Citizen Girl』だ。

さて、その『Citizen Girl』の内容を少し紹介しよう。主人公のガール(若い女性を代表するこの主人公は単に「ガール」と呼ばれる)は大学を卒業してニューヨークにあるフェミニズムを提唱する非利益団体に勤めている。

上司の女性は、大きな会議のスピーカーに抜てきするという餌をちらつかせガールを酷使する。しかし、ガールがスピーチ原稿を仕上げると、その仕事を盗み自分の気に入った女性をスピーカーと決めガールの原稿をあげてしまう。

文句を言ったガールはクビとなり、ニューヨークで彼女の職探しがはじまる。就職活動中にバスターという青年と知り合うが、バスターは6人のルームメートがいる。苦労の末にやっとみつけた会社は、女性向けに美容や健康情報を流すインターネット・サイトのマイ・カンパニー。ガールの仕事は新たなサイト利用者を開拓するというものだった。

給料は最高、仕事もやりがいがある・・・はずだったが、そこでガールはお金を取るか、自分の良心に従うかの選択に迫られる。

ニューヨーク流の仕事の早さや株主の利益のためなら何でもやるアメリカ企業の様子、それに若い女性が直面する組織内の人間関係などがコミカルに描かれた作品だ。


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