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2013年03月20日

『Shopgirl』Steve Martin(Hyperion Book)

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「人気コメディ俳優スティーブ・マーティンの小説」

 コメディ俳優でもあるスティーブ・マーティンのノベラ(中編小説)『Shopgirl』。この作品はマーティン自身の脚色・主演で映画化もされている。
 作品を紹介すると、主人公はビバリーヒルズにある高級デパートのニーマン・マーカスに働く28歳の女性ミラベル。ミラベルは絵描きになることを夢みて毎日デパートの手袋売場で働いている。しかし、どうも絵描きとしては成功しそうもない。

 彼女の住んでいる場所はビバリーヒルズのずっと東にあるシルバーレイクという街だ。それも住所に「1/4」がつくような小さなアパートだ。

 彼女は、鬱病気味で医者から坑鬱剤を処方してもらい飲み続けている。彼女の容姿は悪くないのだが、自分の美しさには気付いていない。そのため、自分に好意を持ってくれるというだけが取柄のような駄目男のジャーミーとつき合っている。しかしジャーミーとは夕食は割り勘、デートはお金のかからないショッピングモールやボーリング場というつき合い方だ。

 こういうふうに彼女を取り巻く状況を説明すると悲惨なのだが、著者のペンのタッチは軽く、駄目男のジャーミーとの関係もコミック調で進んでいく。

 そこに現れるのが大金持ちで60歳近いビジネスマンのレイ・ポーター。レイはおしゃれで優しい紳士だ。年の差を感じつつも、いままで考えたこともないような夢の体験をさせてくれるレイはやはり魅力的だ。

 レイとの関係が自分をどこに導いてくれるか分からないまま、ミラベルはレイとつき合い始める。

 サブプロットとして、ミラベルの友人であるリサが登場する。リサは自分のセックスの上手さで男を捕まえることができると信じている。リサはミラベルからレイを横取りすることを企む。このあたりのドタバタなどはまさにハリウッドのコメディ映画そのものだ。

 マーティンの文章は、情景や人物の姿が思い浮かべられ表現力は十分だ。気の利いた比喩や台詞も多い。オペラに例えれば、コミックな流れのオペラ・ブッファだ。

 同じタイトルの映画ではクレア・デインズ がミラベル役として出演している。デインズはレオナルド・ディカプリオと共演した「ロミオ+ジュリエット」で一度はアイドル的な存在になった女優。レイ・ポーター役がスティーブ・マーティンだ。

 気楽なロマンチック・コメディを読みたいと思っている人にお勧め。


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2013年03月05日

『The Bookseller of Kabul 』Asne Seierstad(Back Bay Books )

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「アフガニスタン社会の女性の地位が分かるノンフィクション」


 もともと2003年にノルウェーで出版された『The Bookseller of Kabul』はアフガニスタン・カブールにある本屋の主人と彼の家族の暮らしを追ったノンフィクションだ。発刊されるやいなや大きな反響を呼び、ノルウェーはもちろんスェーデンやデンマークでもベストセラーとなった。アメリカでも同じ年に訳本が出版された。

 著者のアスネ・セイエルスタッドは、コソボやアフガニスタンの戦況をテレビや新聞に伝えるリポーターとして活躍した30歳代の女性ジャーナリストだ。

 セイエルスタッドは9・11ののちのアフガニスタンに赴き、北部同盟の部隊とともにタリバン政権が倒れたカブールに入った。そこで英語を話す本屋と出会い興味を抱く。彼は首都カブールで、1万冊近くの本をあちらこちらの地下室に隠し、本の保存に力を尽くした男だった。そのために牢獄に入れられ、拷問も受けた。

 02年の2月、彼女は本屋やその家族たちのことについての本を書きたいと申し出て、本屋からの承諾を得た。それから4カ月間、セイエルスタッドは本屋の家に住み込み、家族やアフガニスタン社会について観察をはじめた。

 その結果がこの本だが、内容はヨーロッパ女性の視点から描かれたアフガニスタンの社会についての報告だ。小説のように人の心の動きまでを捕えているが、全体に流れるものはアフガニスタンの男性優先社会への憤りだ。

 物語の中心となるスルタン(本屋の男の偽名)は、16年間の結婚生活のあと16歳の少女を第2の妻として迎え、それまでの妻と同居をさせる。家のなかではスルタンの意見は絶対で、娘や息子たちは結婚相手から職業の選択、また家庭での役割まで彼の意志に従わなければならない。

 このほかにも、アフガニスタンの男性社会を象徴するようなエピソードも収められている。スルタンの第1の妻の姪が、自分の部屋に男を引き入れたために、家族会議の結果、兄弟に殺されてしまうというものだ。若い女性はひとりで外を歩くだけで、不徳な女性という評判をたてられる危険があり、家族の男の連れが必要となる。そのため女性は男の同意がなければ外出もままならない。不徳という烙印を押された女性の恥は、家族の恥であり、その女性はもう結婚もできず家で奴隷のように働き続けるか、ときには命を奪われてしまう。

 この本の成功は、イスラム社会を内側から見せてくれたことだろう。スルタンは、もちろんイスラム原理主義者ではなく、書籍を愛するインテリに属する。それでも、僕たちとはずいぶんと価値観が違う。

 まだ戦争が続いているアフガニスタン。他人の生き方をとやかく言うことはしたくないが、読み終わったあとに怒りとともに状況を変えることができない自分に 無力感を感じる本だった。


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