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2012年11月26日

『The Great Inversion and the Future of the American City』Alan Ehrenhalt(Alfred Knopf)

The Great Inversion and the Future of the American City →bookwebで購入

「21世紀に入っての米国の新たな人口の動き」


この間、用があって久しぶりにニューヨークのロワー・イーストサイドを歩いたらあまりに綺麗になっていたのでびっくりした。

おしゃれなレストランやブティックが並び、通りの様子は数年前とは全く違っていた。

そういえば家の近くのワシントン・スクエアも大幅な改装工事が終わり、随分変わった。工事が終わったばかりの頃は昔のようにドラッグ売る人間も出ていたが、子供だとか家族連れとかファミリー・オリエンテッドの明るい公園に変わってしまったので最近では姿を見ない。

僕が初めてニューヨークに来た70年代は、マンハッタン中が荒み、ミッドタウンの大通りにもゴミが溜まっていた。クラックが蔓延した80年代は、ロワー・イーストサイドなどを歩くとすぐにも強盗に遭いそうな雰囲気だった。

裕福な人々はニューヨークを捨て郊外に逃げ出した。

21世紀になりニューヨークは犯罪が少なくなり、裕福な人々が戻ってきている。しかし、都市部に裕福な人々が戻ってきているのはニューヨークに限ったことではないらしい。この現象は全米レベルで起こっているという。その動きを伝えているのが今回読んだ「The Great Inversion」だ。

アラン・エーレンハルトは政治学者。20世紀の終わりは貧困層が都市に住み富裕層は郊外に住む時代だったが、21世紀は富裕層が都市の中心部に住み、移民などがその周辺に住む形が生まれつつあるという。

この本でアランは長くオフィス街だったウォール街にお金持ちたちが住み始めたことを伝えている。これは、ウォール街の西に位置する場所に市が計画的に作り上げた新たな住居地区となるバッテリー・パークシティが出来上がった影響もあるという。

2000年の国勢調査によるとバッテリー・パークシティ地区の住人の約75%が白人、約18%が東洋人、3%が黒人となっている。2007年の国勢調査によると住人のほとんどが中産階級かその上の階級に属し、54%の家庭が10万ドルを上回る収入があるという。そうしていま、先ほど言ったようにウォール街に暮らす裕福な人々が増えつつある。

アレンの見る21世紀初めのこの人口の移り方は、富裕層が大挙して都会に戻ってくるというものではない。統計的にはいまだに郊外に出て行く富裕層の数が多い、しかし都会のある地区に富裕層が戻り、その地区が高級住宅地域に変化していることに彼は注目している。

その典型的な例としてアランはシカゴのダウンタウンから少しはなれたシェフィールドの街の変化を語っている。1970年代、ギャンググループのラテン・キングがシェフィールドに本部を置き、同じ地域にライバルギャングのヤング・ローズが徘徊しドラッグを売り、殺人事件も多く起きた。

この地区の変化にはミシガン湖が綺麗になり、多くのハイライズビルがミシガン湖の付近に建てられたことが関係している。富裕層の住む地域はミシガン湖周辺から広がり始め、ミシガン湖に近く電車の交通の便がよいシェフィールドに人気が集まり出した。そして、スター・スポーツ選手やアメリカでも有名な金持ちがシェフィールドに大きな家を建て、このコミュニティは一変する。

移り住んだ金持ちたちはコミュニティ活動などには顔を出さず自分たちのプライバシーを守っていたが、自分たちの子供が通う地域の学校に大きな影響を及ぼした。幼稚園児童から中学生までが通うコミュニティの学校は白人の学生の割合が高くなり、教育レベルも上がった。高い教育をおこなう学校があるコミュニティはさらに富裕層の白人家族を呼び込み、家の値段が上がり、その地域が高級住宅地域に変化する。

こうして2012年の今、シェフィールドは家の平均価格が100万ドルを超える一角がある街へと変化を遂げた。

しかし、全ての街が高級化に成功している訳ではない。

アリゾナ州のフェニックスは政府から巨額の支援を受け街の中心となる地域を作ろうとしたが、多くのコンドミニアムの空き部屋を作っただけの結果に終わった。同じようにノースカロライナ州のシャーロットも街を高級住宅地にすることに失敗している。

何が富裕層を都会に呼び寄せるレシピなのかは、この本を読んでもはっきりとは分からない。しかし、職場に近く、良い学校があり、カフェやレストラン、劇場、映画館など快適な都市の生活がある場所に人々は戻りつつあるようだ。

アメリカでは都市型の暮らしが再び見直されている。




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2012年11月15日

『 Shades of Justice』Fredrick Huebner(Simon & Schuster)

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「法医学者ウィル・ハットンが活躍する法廷スリラー」


 今回、読んだ本は、法廷スリラーの『Shades of Justice』。著者のフレドリック・ヒューブナーはシアトル州で資格を持つ弁護士だ。

 「弁護士が書く法廷スリラー」。どこかで聞いたことのある経歴だと思ったら、そう、アメリカの大人気作家ジョン・グリシャムと同じだ。グリシャムもミシシッピ州で弁護士資格を持つ作家で、だいたい年1冊のペースで法廷スリラーの新作を発表している。

 アメリカは「訴訟の国」なので弁護士の数が多い。僕にも弁護士の知り合いは何人かいる。移民法専門の弁護士、労働法の弁護士、不動産専門の弁護士など各人の専門分野が分かれている。

 「訴訟の国」に住む僕は、裁判所に出向いての係争というのも経験した。カリフォルニアに住んでいた頃、二世帯住宅の片側を人に貸した。その人から夏の間、エアコンが壊れたので家賃を払わないと告げられ、困った僕は裁判所に訴えを起こした。判決は、僕の勝ちだったが、結果的には負けてしまった。

 というのは、ある一定の期限内に家賃を払うようにと告げられたその人が、その期限の終わらない内に引っ越しをしてしまい、そのまま行方が分からなくなってしまったのだ。引っ越し先だと教えられていた住所を訪ねてみると、見ず知らずの人が住んでいた。

 カリフォルニアの夏、僕に起こった法廷スリラーだ。世の中、何が起こるか分からない。

 さて、本の内容だが、主人公は法廷で被告人や原告人に対して精神鑑定の証言をおこなう法医学者ウィル・ハットン。彼が新たに関わる裁判の被告人がローラという画家だ。ローラは、夫を殺した罪に訴えられている。ローラを守ろうとする弁護士はエド・ハウザー。ウィルが父親と慕う人物であり、ローラの母親の恋人でもある。

 エドは仲間の弁護士と相談して、長く躁鬱病を患っていたローラの犯行時の精神状態を想像し、精神異常による犯行とした無罪を主張する。

 ウィルは弁護側の主張の正しさを証明するために、ローラが何故、精神障害をきたしたかの調査を進める。その調査のなかでウィルは、ローラやローラの母、殺されたローラの夫、それにエドたちが関わる犯罪の新事実を見つけていく。

 ゆっくりと展開する謎解きの面白さもさることながら、読み応えのあるのは、裁判の場面だ。一般市民から選ばれた陪審員たちを前に、原告側と被告側の弁護士が繰り広げる激しい尋問合戦。裁判を自分の側に有利に展開させるための戦術、その戦術の正当性を検討する裁判官の判断など、読んでいて息を飲む面白さだ。

 ぐいぐい引き込まれて、一気に読み終えてしまった一冊だった。
 


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2012年11月05日

『The Greatest Player Who Never Lived : A Golf Story』 J. Michael Veron(Broadway Books)

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「史的事実も交えたエンターテインメント性の高いゴルフ・ストーリー」


 もう二〇年以上昔の話となるがニューヨーク州ロングアイランドに住んでいた頃、近くにゴルフ場があったので、ゴルフ好きな友人に連れられゴルフをやった。

 それまで、一度もクラブを握がない人間がいきなりコースをまわるのだから結果は知れたものだろう。1ホールにとてつもない時間がかかったが、平日の昼間のゴルフ場は空いていて後続の人たちに追い付かれることもなかった。コース使用料も安く十ドルもかからなかったように記憶している。

 クラブ一式と自分で引っ張るゴルフカートをゴルフ場で借りコースに出てボールを打つ。ボールはころころと三メートルほど先まで転がったり、思いもよらない方向に飛んでいったりした。ひとりの友人を除いてほかはみんな僕と同じようなものだったので、僕たちのチームはてんでんばらばら、誰がどこにいるのかさえ分からないゲームとなった。

 ひとりが林の中に消え、もうひとりがティーショットを打った場所に留まり、ひとりがずっと先まで進みと、各人が非常に個性的な動きをするゲーム展開となった。打数もこれが十三打目なのか十四打目なのか分からない。もうこうなると、十三だろうが十四だろうがどちらでも変わらなかった。

 それから、二、三度ゴルフ場に行ったが、別に打ちっぱなしで練習をするでもなく、ただコースをまわっただけなので、僕のゴルフの腕は全く上達しなかった。以来、ゴルフはやったことがない。

 こんなことを思い出したのは、今回読んだ本がゴルフ選手と殺人がからむ法廷スリラーだったからだ。

 主人公は弁護士を目指してロースクールで学ぶチャーリー・ハンター。チャーリーは夏のインターンとして働いた弁護士事務所でボビー・ジョーンズという、すでに死亡した有名なゴルフ選手でありその事務所の弁護士でもあった人物が残した書類の整理をすることになる。ジョーンズの書類からチャーリーは、ビュー・ステッドマンという人物の存在を知る。

 ステッドマンは殺人の罪に問われ逃亡を果たした若いゴルフ選手だった。ステッドマンはその逃亡生活のなかで名前を隠しつつ、アーノルド・パーマー、バイロン・ネルソンなど数々の一流プレーヤーと賭けゴルフをおこない、全員に勝利した。もし、ステッドマンがゴルフ選手として活躍できたなら、彼は歴史に残る成績を収めたはずだった。

 世界的に有名なゴルフ・コースであるオーガスタ・ナショナル・ゴルフ・クラブでのプレーの模様も交え、物語はステッドマンの身の潔白を証明するための裁判へと発展する。最後にはスッテドマンを殺人犯人と告発した家族の秘密が明かされる。

 緻密な調査に基づくノンフィクションとフィクションが混ざり合い、物語に緊張感を与えている。

 僕のようにゴルフをしない人間でも楽しめる本だった。
 


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