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2012年06月20日

『New York Diaries : 1609 to 2009』Teresa Carpenter (EDT)(Modern Library)

New York Diaries : 1609 to 2009 →bookwebで購入

「人々の住んだニューヨークを日記で綴る」


 ニューヨークに住んでいると、この街の歴史を感じることが多い。僕は夜にアパートを出て外のベンチに座り、通りをぼーっと眺めていることがある。以前はソーホーを夜に散歩するのが好きだったけれど、いまのソーホーはまるっきり商業の地区となってしまって歩いていても面白くもなんともない。

 そこで、アパートの近くの小さな公園のベンチに座ることになるのだが、目の前を通る人を眺めていると、やはりずっと前にも僕と同じようなことをやっていた人がいて、同じように往く人々を眺めていたんだろうなと思う。

 僕にとってはこれは、O・ヘンリーの世界だし、ジャック・ケルアックの世界で、ジェイ・マキナニーの世界だ。

 ニューヨーク・タイムズ紙の書評欄で、1609年から2009年までの年月にニューヨークにいた人々の日記を集めた本「New York Diaries」の書評を読んで、この本を買った。

 この本は1月1日から12月31日までに一日ずつ区切られていて、それぞれの日に2つから4つのエントリーがある。

 例えば 4月16日のエントリーには1912年のこの日に書かれたタイタニック号沈没の感想を書いた日記が載っている。また、10月2日の項にはハドソン河を探検したヘンリー・ハドソンの航海船ハーフムーン号の乗組員の日記(1609年)、ニューヨークの画家ジョン・スローンの日記(1909年)、そのほかに女優マリリン・モンローの日記(1963年)のエントリーナドがある。

 この本に登場してくる人物はアルベール・カミュ、ジョン・ドス・パソス、トマス・エディソン、アレン・ギンズバーグ、キース・ヘイリング、ヘンリー・ハドソン、ユージン・オニール、セオドア・ルーズベルト、ジョージ・ワシントン、マーク・トウェイン、エドガー・アラン・ポー、ジャック・ケルアック、アンディ・ウォーホル、ウィリアム・スタインウェイ、ドロシー・パーカー、ノア・ウェブスターなどここに書ききれないくらいだ。

 1月18日の項にはジョージ・ワシントンが歯痛と歯茎の腫れを訴える日記があり、同じ日の項にタクシーでユニオン・スクエアにきた(料金3ドル)アンディ・ウォーホルが強風で人が宙に飛ばされる光景を人生のなかで初めて目撃したことを伝えている。

 11月19日の項ではジャック・ケルアックが家に迎えたダーク・アイズ(女の友人か)と一緒に朝まで踊りあかし、9月10日の項ではニューヨークの作家/画家デイヴィッド・ウォイナロナヴィッチが1977年のソーホーやクリストファー通りを歩き、8月16日の項では詩人ウォルト・ホイットマンが24丁目のレストランで朝食をとる。

 名前を知らない人物のエントリーも多いので、本の後ろについている人物紹介を引きながら読み進めるので時間がかかるが、ニューヨークでの夜の散歩と同じように楽しい作業だ。

 図書館、歴史協会、遺産管理組織などから苦労して本当に多くの人物の日記を集めたこの本の編者テレサ・カーペンターには感謝。彼女自身ピューリッツア賞の受賞者で、ビレッジ・ボイス紙の元シニア・エディターだ。

 ニューヨークが好きな人にお勧めの本。


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2012年06月13日

『Broke Hear Blues』Joyce Carol Oates(Plume )

Broke Hear Blues →bookwebで購入

「ジョイス・キャロル・オーツが描く心の地図」

 表紙に惹かれて本を買うという買い方があるけれども、ジョイス・キャロル・オーツの『Broke Heart Blues』がまさにそうだった。

 ピンクのキャデラックに米国北東部の秋の風景が映ったカバー。そうえタイトルにが何やら切なげだったので、バーンズ&ノーブルの売場に平積みになっていた本をレジに持っていきその場で買った。レジにいた女の子はその表紙を眺め、「私が通った学校の景色に似ているわ」と言いながら本を袋に詰めた。この表紙に反応するのは僕だけじゃないんだと思った。

 『Broke Heart Bluse』は1960年代から作品を発表しているジョイス・キャロル・オーツの、第29作目となる長編小説だ。

 オーツは『The Wheel of Love』や『Upon the Sweeping Flood』など短編や、詩も数多く手掛けている。

 短編に優れた作品が多く、『Them』という長編で全米図書賞を受賞しているが、短い物語が得意な作家とされてき。しかし、この長編は、出版当時その評判を変えるほどの評価を周囲から受けた。

 米国出版界の専門誌『パブリッシャーズ・ウィークリー』誌では「これまでの長編で最高の出来」と評した。

 オーツは1938年にニューヨーク州ロックポートで生まれた。14歳の時にタイプライターを贈られ、そのタイプライターを使って物語を書き始めた。

 大学はニューヨーク州にあるシラキュース大学に進学。在学中に文芸コンテストで優勝をしている。その後、ウィスコンシン大学院に進み、大学院を卒業後はカナダの大学やニュージャージー州にあるプリンストン大学でクリエイティブ・ライティングのクラスを受け持っている。人気作家となったジョナサン・サフラン・フォアも彼女の教え子だ。

 大学で教えながら、1年の内に数本の作品を仕上げるオーツは、米国人作家に珍しく多作だが、その理由をあるインタビューで次のように答えている。

 「私は仕事中毒になっている人間ではありません。書くことや教えることから大きな喜びを得ていて、一般に言われる『仕事』という感覚ではないのです」

 さて、本書の内容だが、ニューヨーク州にある小さな町が舞台になり、主人公はジョン・ハート・レディーという高校生。ジェームス・ディーンを思わせるジョンはクラスの女子学生の憧れの的だ。

 しかし、ジョンは母親に暴力をふるった男を銃で撃ち殺してしまう。だが、それは家族の誰かの犯行をかばって、自らを犯人として仕立て上げている可能性もある。物語はジョンが犯したかも知れないその事件を中心に、60年代から90年代に至るまでのジョンと高校生仲間の人生が描かれている。


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