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2012年04月29日

『Coming Apart : The State of White America, 1960-2010』 Charles Murray(Crown )

Coming Apart : The State of White America, 1960-2010 →bookwebで購入

「1960年から現在までにアメリカ白人社会に起こったこと:保守派からの声。」


アメリカの保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」の研究員であるチャールズ・マレーの新刊。

 マレーは「ベル・カーブ」という著作(リチャード・ハーンシュタインと共著)で人種によりIQの差があるという論理を展開し全米に議論を巻き起こした。テレビで多くのリベラル派論客たちがマレーの説は馬鹿げていると息巻いた。

 そのマレーの新刊は、1960年から2010年までにアメリカ白人社会に起きた二極化を検証した本となっている。

 マレーはこの間に生まれた「ニュー・アッパークラス」(富裕層のトップ5%を占める25歳以上の成人)は、国民のなかでも最も高いIQと収入を得て、特定の地域に住み、お互いに結婚をし、子供たちをトップクラスの大学に送り込んでいるという。

 マレーは社会の動きをみるために「勤勉さ」「正直」「結婚」「信仰」という分野から「ニュー・アッパークラス」「ニュー・ロワークラス」の比較をしていく。

 例えば「結婚」の項ではこのふたつの違ったクラスに属する30歳から49歳の人口を比べ、アッパークラスの方が結婚をする率が高く、離婚をする率も低く、幸せな結婚をしていると感じている人々が多いことをデータによって示している。

 また、結婚と子育てを結びつけ最も優れた子供を育てるのは、統計的にふたりの産みの親が揃っている家庭で、次に離婚した親たちの家庭としている。結婚せずに子供を生んだ女性の家庭はその順位が最も低くなっている。

 この統計をもとに、結婚外で生まれた子供の60年から2010年の数を調べ、婚外子と母親の教育が大きな関係があることを示している。大学以上の教育を受けた女性が結婚をせずに子供を産む比率は極端に低くなっている。

 マレーはまた、特定のジップコード(郵便番号)にニュー・アッパークラスが集中して住んでいることに注目し、ハーバード大学やエール大学などのエリート大学の卒業生の多くがこのジップコードからの学生であることを示している。

 ニュー・アッパークラスはこのジップコード内で暮すことにより、外部との接触が限られ、自分たちの世界だけに留まっているとしている。

 最も頭の良い人々が最も良い教育を受け、最もよい仕事に就き、お互いに結婚をし、さらに頭の良い子供を作り出す。一方で、ロワークラスの人々は学校を中退し、低賃金の仕事に就き、彼ら/彼女らの子供はシングル・ピアレントの家庭で育つ確立が高く、子供たちIQも上がることがないとしている。

 このような統計を見せて彼は何を訴えたかったのだろうか。

 そうれは社会にはもっと保守的になるべきだということだろう。

 結婚にしてもレベラルな考えの持ち主は、ゲイ同士の結婚や他の形の結婚があってもよいと考える。しかし、結果的に最もよいのは伝統的な結婚で、それ以外の形の結婚を認めるのはよい社会を作り出さないと彼はこの本の統計を通して言っている。

 この50年間、白人社会では労働者階級と接触がなくなった富裕層が増え、彼らが自分たちの「現実」だけのなかで暮す一方、低所得層も増え続けている。

 著者はこの現状を伝え、今のアメリカに必要なものは、伝統的な結婚、伝統的な勤勉さ、信仰の重要性を伝える保守的なムーブメントだと主張し、 白人富裕層は培った自分たちのモラルを主張するのに躊躇すべきではないと語っている。



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2012年04月20日

『The Sleep-Over Artist 』Thomas Beller(W W Norton)

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「独身男性も楽じゃないと思える作品」


ニューヨークに住んでいる僕にとって、ニューヨークがたくさん出てくる物語はそれだけで楽しめる。きっとこの街が好きなのだと思う。

 W・Wノートン社より出版されたトマス・ベラーの短編集『セダクション・セオリー』に続く『ザ・スリープ・オーバー・アーティスト』もニューヨークを主な舞台とした小説だ。僕のアパートから五分とかからない本屋、シェークスピア・アンド・カンパニーでこの新刊を見つけ、普段なら定価より安く買えるアマゾン・コムから二、三冊まとめて新しい本を注文するのだが、この本はその日のうちに読みたくてその場ですぐに買ってしまった。

 ベラー自身、若手の作家だが、一方では人気作家のデイビッド・フォスター・ウォーレスなどの作品を掲載してきた文芸誌『オープン・シティ』の創刊編集長でもある。『オープン・シティ』は表紙の感じも新しく、なかなかよい作品が掲載されている。
 
 また、ボストンにあるエマーソン・カレッジから発行され高い評価を受けている『プラウシャーズ』やホートン・ミフリン社から出ている『ザ・ベスト・アメリカン・ショートストーリーズ』などの文芸誌、それに『ニューヨーカー』誌など雑誌にもベラーの作品は掲載されてきた。
 
 『ザ・スリープ・オーバー・アーティスト』には彼の前作で登場したアレックス・フェイダーの六歳のころの話から二十代の終わりまでの話が年代ごとに十二作収められている。
 
 表紙ではノベルとなっているが、同じ主人公が登場する短編集とみることもできる。メリッサ・バンクの『ザ・ガールズ・ガイド・トゥ・ハンティング・アンド・フィッシング』も同じ手法を用いた小説だったなぁ、と思いながら読み進めた。
 
 物語は、まずアレックスが住むアッパー・ウエストサイドの様子や、友人の家に泊ってばかりいるアレックスの生活が描かれる。次に二十歳を過ぎたアレックスが通ったグリニッチ・ビレッジのドラッグディーラーのアパートでのできごとや、ガールフレンドや伯母のアパートでの物語が語られる。
 
 最も長い作品である『セコンズ・オブ・プレジャー』は、ロンドンに住む子供を持つ女性と遠距離恋愛をし、最後にその関係も終わりをむかえる話だ。読んでいくうちに、この小説が他人の家で起こったことばかりを描いている作品だと気がつき、なるほど、それで『ザ・スリープ・オーバー・アーティスト』というタイトルがついているのだと納得した。

 近頃は、都会に住む独身女性を描いた作品が脚光を浴びているが、独身男性もいろいろ苦労をしているもんだとおかしなところで共感した作品だった。


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2012年04月09日

『Cadillac Jukebox』 James Lee Burke(Hyperion)

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「ご存知、刑事デイブ・ロビショーが活躍するエンタメ小説」

 アメリカの人気スリラー作家、ジェームス・リー・バークのインタビュー記事がニューヨーク・タイムズ紙に載った。

 刑事デイブ・ロビショーが活躍するディテクティブ・ストーリー・シリーズでお馴染みの作家だが、そのインタビューが面白かった。

 ジェームス・リー・バークはそれまでの長い作家活動のなかでライターズ・ブロック(作品が書けなくなってしまうこと)を経験したことがないという。特に興味を惹いたのは、物語を書く時、彼はふたつ、あるはみっつ先の場面しか見えておらず、構成が最後までできあがっているわけではないことだった。

 「私が書いてきた物語は、誰かの手によって私のなかにすでに刷り込まれていて、私はそれを辿っているだけです」とジェームス・リー・バークは語っている。

 ジェームス・リー・バークの作品は構成が凝っていて、どんでん返しなどもあるのでこの発言は驚きだった。

 ということで、今回はそのジェームス・リー・バークの作品『Cadilac Jukebox』の紹介。

 『Cadilac Jukebox』は刑事デイブ・ロビショー・シリーズのひとつだ。ルイジアナが舞台となっているので、アメリカ南部の風景描写がたっぷり読める楽しみもある。

 また、ビート作家ウィリアム・バロウズをモデルとした人物が脇役として登場してくる。ジェイムス・リー・バークとバロウズというのはなんとなくミスマッチのような気がするのだが、案外ふたりは知り合いだったのかもしれない。

 物語はルイジアナ州の町で起こる刑務所破りを発端として、政治家、マフィア、主人公の昔の恋人や家族、友人などが複雑にからみあい展開されていく。

 スリリングな物語のなかにもメランコリーな影があり、質の高いエンタテインメント小説を楽しみたいという人にお勧めの本だ。また、アメリカ南部が好きで、風の湿り気とあの熱さを感じたいと思う人にも最適な本だろう。


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