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2011年11月08日

『The Geeks Shall Inherit the Earth』 Alexandra Robbins(Hyperion Book)

The Geeks Shall Inherit the Earth →bookwebで購入

「仲間外れは成功の鍵か」

 『The Geeks Shall Inherit the Earth』。それぞれ違った学校に通う6人のアメリカの学生とひとりの教師の生活を追ったノンフィクション。この7人の共通点は、みな仲間外れになっていることだ。
 この本を読んで、初めてソロモン・アッシュという心理学者の名前や、グレゴリー・バーンズという脳科学者の名前を知った。

 1950年代、ソロモン・アッシュは被験者に一本の線を見せ、次に3本の線を見せ、最初に見た線と同じ長さの線を選ばさせた。その際、サクラの参加者数人を使い、彼らに違う長さの線を「同じ長さ」と言わせ、それを被験者に聞かせた後に選ばせると、その被験者はサクラのグループに同調し、違う長さの線を同じと答ええる場合が圧倒的に多いことを証明した。

 この実験は、同じグループの人々が例えばそれは「A」だと言う時、「B」だと言う難しさを示している。

 この本によると、脳は常にエネルギーの効率性を求める器官だという。大勢が言うことは多分合っているはずだから、考えるエネルギーを使わず、初めから大勢の言うことを合っているとすればエネルギーの節約となる。

 しかし、人との同調はこのエネルギーの節約という側面だけではなかった。2005年、脳科学者のグレゴリー・バーンズは似たような実験をおこなった。しかし、今回はMRIで脳の活動を調べた。その結果、個人がグループと対峙する時、「恐れ」のシステムが発動されたという。バーンズの研究ではその「恐れ」のシステムの発動を避けるために人はグループの意見に同調するという結果が出た。

 その後、オランダの研究者たちがさらなる実験を行った。その結果、人々と意見を異にする人間の脳には「自分が間違った」という信号が生まれるという。研究者(Vasily Klucharev)は「グループの意見との違いを脳は『懲罰』とみなす」と言っている。

 こんなにいろいろな要素があるのだから、人々と同調しないのはそれだけで大変なことなのだ。今の日本人の「空気を読めない」人に対する社会的な厳しさからして、日本人はこの「恐れ」や「懲罰」にとても弱い気がする。

 ということで、今回読んだ本。著者はアメリカの大学受験準備の激しさを描いた『The Overachievers』などを出版したアレキサンドラ・ロビンス。

 『The Geeks Shall Inherit the Earth 』は「学校で仲間外れにされる特性は、実社会で成功するための特性と一致する」という仮定から書かれている。学校で仲間外れにされる特性は、仲間たちと意見を同じにしない「オリジナリティ」「自由な考え方」「率直さ」「好奇心」「情熱」などであると著者は考える。
 対象となる学生はゲーマーのブルー、学校で「私たちはダニエルが嫌い」というクラブを作られてしまうダニエル、レズビアンであること明かし他の教師たちや学校側から追い出しをくらうリーガン先生、ポピュラーなグループに属するが、そのあり方に疑問を感じるウィットニー、ジャマイカから転校してきたニューガールのノアなどである。

 ブルーは学校でゲームのクラブを作るが、すぐに仲間に乗っ取られ、自分で作ったクラブを去らなければならなくなる。成績もあがらず卒業できない危機に晒される。

 ウィットニーはポピュラーなグループに属しているが、彼女を追ったことにより読者はアメリカの高校でのポピュラリティー(人気)がいかに確立されているかを知ることになる。アメリカの高校での人気度は人々に好かれることから生まれるのではなく、いかに目立ち、人気グループの一員の地位を保つかにある。ウィットニーはその地位を保つには親切さよりも意地悪さがより効果的だと知る。彼女の人気に憧れて集まるほかの女の子に意地悪にあたることにより、グループ内の地位を上げることができる。そしてグループには一定の規則があり、それを破ることは許されない。

 自分がレズビアンであること明かし学校内に「ゲイ・ストレート同盟(ゲイとゲイではない人々の同盟)」を組織しようとするが、学校側から様々な役職を解かれ、他の教師からも嫌がらせを受ける。読者は、仲間外れにされるのは学生だけではないことを知る。

 後半、著者は彼ら/彼女たちの生活を追うだけではなく、ひとりひとりに自分の殻を破るための「命題」を与える。著者自身が本書の中で言っているように、これはジャーナリズムの枠を越えて、ある種の社会的実験となるわけだが、著者はあえてこの手法を用いる。

 そして著者は今仲間外れにされている人間や、いじめをうけている学生に「今の状況はいつまでも続くものではない」というメッセージを送る。彼らの「オリジナリティ」「自由な考え方」「率直さ」「好奇心」「情熱」が花咲く時は来るのだろうか。

 著者はその回答を読者に与えていない。しかし、著者はその可能性は十分あると考えている。最後に著者は今仲間はずれになりいじめを受けている場合、その学生、家族、学校はなにをすべきかをリストにして提示している。

 日本ではいつまでたっても「空気を読む」ような社会的スキルがより重視されるようであり、アメリカとは文化の違いもあるが、日本人が読んでも興味深い本だと思う。


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