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2011年11月28日

『The Struggle for Egypt』Steven A.Cook(Oxford Univ Press)

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「エジプトはどこへ向かおうとしているのか」


 今年の2月、エジプトで30年間近く権力を握っていたホスニー・ムバラクが失脚し、エジプトは新たな時代を迎えた。これは、アラブ世界において起こった大規模反政府デモや抗議活動「アラブの春」の流れの中で起こった事件だった。

 今回読んだ本はアラブ世界の中でも大きな影響力を持つエジプトの政治的歴史を追った本『The Struggle for Egypt』。著者は米外交問題評議会中東担当シニア・フェローのスティーブ・クック。

 エジプトで大統領失脚という大きな事件が起こった訳だが、この本はこの事件を受けて即席に書かれた本ではない。内容は1952年のナーセルが首謀したクーデターから、ムバラク失脚までのエジプトの政治の動きを追ったもの。外交専門家の著したものであり、ジャーナリストの描く現場の臨場感や人物像を浮き彫りにさせる感は薄い。しかし、リーダーたちが取った政策や行動がほかの国々や自国民に及ぼした影響の分析など、違った視点で優れた本だ。

 今のエジプト状況の底にはナーセルとフリー・オフィサーズ(自由将校団)が52年に起こしたクーデターがあるとクックは主張する。その根本にあるのは「政権のイデオロギーの欠如」だ。

 このイデオロギーの欠如は、クーデターを起こした時点ではナーセルたちに有利に働く。イデオロギーの曖昧さは民衆の好む考えを新政権に投影させ、旧権力を倒す側につかせる効果があった。

 しかし、この曖昧さは長い年月のなかで姿を変え、自己の権力を維持させるためにはいかなる政策も打ち出すことができる政権を作り出す原因になった。
実権を握ったナーセルたちは、産業や銀行を国有化する社会主義的政策をおこない旧ソ連と近い関係を結んだ。

 しかし、その後に大統領となったアンワル・サダトは、経済の自由化と海外からの投資を歓迎した。しかし、この政策は一部の人々だけを金持ちにするものだった。そして、サダトは親米国路線を取り、宿敵だったイルラエルと平和条約を結ぶ。サダトはこの条約締結によりノーベル平和賞を受けたが、国内では反発が強く、貧富の差も広がり、腐敗も蔓延した。サダトはその反発を力で押さえつけようとしたが、暗殺されてしまう。

 この親アメリカ、腐敗の蔓延、貧富の差の広がりのなかで誕生したのがムバラク政権だった。そしてムバラクはアメリカから多額の援助を受けながら、イデオロギーが感じられない強権な「警察国家」を作って行く。

 この本には、ムバラクを失脚させるために取ったエジプト国民の行動が時系列に描かれている。勢いを失いつつあったデモに新たな息吹を与えたグーグル社のワエル・ゴニムのことも語られている。

 エジプトは民衆の力で政権を倒したのだが、それは、イデオロギーの曖昧さという点、軍部が力を維持しているという点でナーセルたちのクーデターの時と状況が似ていると著者は分析する。

 今後、エジプトがいかなる国に発展していくのかは、国民に任されている訳だが、腐敗と権力のおごりに慣れ親しんだ上層部たちが変わっていくのにはさらに時間がかかるだろう。



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2011年11月19日

『Unwritten Laws』Hugh Rawson(Castle )

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「人生を乗り切る法則の数々」


「ボールを投げなければ、打たれない」。

 これはニューヨーク・ヤンキースのピッチャーだった、バーノン・(レフティ)・ゴメスの法則だ。一九三七年の試合で強打者ジミー・フォックスをバッターボックスに迎え、ツー・アンド・ツーになった時に編み出された法則といわれている。キャチャーはゴメスに投球のサインを出したが、ゴメスは全てのサインに首を振った。最終にゴメスは投球を行い、ジミー・フォックスはその球をレフトスタンドに叩きこんだ。

 また、広島と長崎に投下された原爆を作りだしたマンハッタン・プロジェクトに参加した、核物理学者のロバート・オッペンハイマーはこんな言葉を残している。「楽天家はそれが今ある世界で最良の選択だと思い、悲観論者はそれが本当であることを知っている者だ」。

 こんなふうに、人々が今に伝える法則や言葉を集めた本がこの『UNWRITTEN LAWS』だ。この本には500以上の法則や言葉が紹介されている。

 「自分で行う必要のない人にとって不可能はない」。

 映画評論家のA・H・ウェイラーの法則だ。ニューヨーク・タイムズ紙の記事で使われたらしい。

 違う立場の人が同じような法則を残している場合もある。まずは、シカゴのギャングだったアル・カポネの法則。

 「優しい言葉と拳銃は、優しい言葉だけより多くのことを成し遂げられる」。

 ウーム。なかなか怖い言葉だ。この法則とよく似た法則をセオドア・ルーズベルトが1901年に残しているので紹介しよう。

 「静かに話し、大きな棒を持っていればいろいろなことができる」。

 映画監督のウッディ・アレンとジョージ・ブッシュ大統領(父親の方)も同じ内容の言葉を残している。オリジナルはウッディ・アレンの方で、「成功の80パーセントはそこにいることだ」という言葉。

 これはウッディ・アレンが若手の脚本家に向けたアドバイスで、初期の段階で自作が取り上げられずに、すぐ書くことを辞めてしまう若手が多いことに対する助言だった。ジョージ・ブッシュはアレンの言葉を借り、演説の際に「人生の90パーセントは顔を出すことだ」といった。

 そのほかにも、例えばマリリン・モンロー主演の映画で有名になったアニタ・ルーズの本、「紳士は金髪がお好き」の次作のタイトルが「でも、紳士は黒髪と結婚する」だったことや、フランクリン・ローズベルト大統領の夫人であったエレノア・ローズベルトが「貴方の同意なしには誰も貴方に劣等感をもたせることはできない」といっていたこともこの本で知った。

 また、金持ちであることで有名なフォーブス誌の発行人、マルコム・フォーブスはこんな法則を残している。

 「金が全てではない。貴方が充分といえるお金を持っている限りは」。

 では、最後にもうひとつ。化粧品会社エスティ・ローダの一族のひとりレオナルド・ローダの法則を紹介しよう。

 「経験を持つ人と、お金を持つ人が出会うと、経験を持つ人はお金を得て、お金を持つ人は経験を得る」。

 この的を射た法則には、思わず声を出して笑ってしまった。


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2011年11月08日

『The Geeks Shall Inherit the Earth』 Alexandra Robbins(Hyperion Book)

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「仲間外れは成功の鍵か」

 『The Geeks Shall Inherit the Earth』。それぞれ違った学校に通う6人のアメリカの学生とひとりの教師の生活を追ったノンフィクション。この7人の共通点は、みな仲間外れになっていることだ。
 この本を読んで、初めてソロモン・アッシュという心理学者の名前や、グレゴリー・バーンズという脳科学者の名前を知った。

 1950年代、ソロモン・アッシュは被験者に一本の線を見せ、次に3本の線を見せ、最初に見た線と同じ長さの線を選ばさせた。その際、サクラの参加者数人を使い、彼らに違う長さの線を「同じ長さ」と言わせ、それを被験者に聞かせた後に選ばせると、その被験者はサクラのグループに同調し、違う長さの線を同じと答ええる場合が圧倒的に多いことを証明した。

 この実験は、同じグループの人々が例えばそれは「A」だと言う時、「B」だと言う難しさを示している。

 この本によると、脳は常にエネルギーの効率性を求める器官だという。大勢が言うことは多分合っているはずだから、考えるエネルギーを使わず、初めから大勢の言うことを合っているとすればエネルギーの節約となる。

 しかし、人との同調はこのエネルギーの節約という側面だけではなかった。2005年、脳科学者のグレゴリー・バーンズは似たような実験をおこなった。しかし、今回はMRIで脳の活動を調べた。その結果、個人がグループと対峙する時、「恐れ」のシステムが発動されたという。バーンズの研究ではその「恐れ」のシステムの発動を避けるために人はグループの意見に同調するという結果が出た。

 その後、オランダの研究者たちがさらなる実験を行った。その結果、人々と意見を異にする人間の脳には「自分が間違った」という信号が生まれるという。研究者(Vasily Klucharev)は「グループの意見との違いを脳は『懲罰』とみなす」と言っている。

 こんなにいろいろな要素があるのだから、人々と同調しないのはそれだけで大変なことなのだ。今の日本人の「空気を読めない」人に対する社会的な厳しさからして、日本人はこの「恐れ」や「懲罰」にとても弱い気がする。

 ということで、今回読んだ本。著者はアメリカの大学受験準備の激しさを描いた『The Overachievers』などを出版したアレキサンドラ・ロビンス。

 『The Geeks Shall Inherit the Earth 』は「学校で仲間外れにされる特性は、実社会で成功するための特性と一致する」という仮定から書かれている。学校で仲間外れにされる特性は、仲間たちと意見を同じにしない「オリジナリティ」「自由な考え方」「率直さ」「好奇心」「情熱」などであると著者は考える。
 対象となる学生はゲーマーのブルー、学校で「私たちはダニエルが嫌い」というクラブを作られてしまうダニエル、レズビアンであること明かし他の教師たちや学校側から追い出しをくらうリーガン先生、ポピュラーなグループに属するが、そのあり方に疑問を感じるウィットニー、ジャマイカから転校してきたニューガールのノアなどである。

 ブルーは学校でゲームのクラブを作るが、すぐに仲間に乗っ取られ、自分で作ったクラブを去らなければならなくなる。成績もあがらず卒業できない危機に晒される。

 ウィットニーはポピュラーなグループに属しているが、彼女を追ったことにより読者はアメリカの高校でのポピュラリティー(人気)がいかに確立されているかを知ることになる。アメリカの高校での人気度は人々に好かれることから生まれるのではなく、いかに目立ち、人気グループの一員の地位を保つかにある。ウィットニーはその地位を保つには親切さよりも意地悪さがより効果的だと知る。彼女の人気に憧れて集まるほかの女の子に意地悪にあたることにより、グループ内の地位を上げることができる。そしてグループには一定の規則があり、それを破ることは許されない。

 自分がレズビアンであること明かし学校内に「ゲイ・ストレート同盟(ゲイとゲイではない人々の同盟)」を組織しようとするが、学校側から様々な役職を解かれ、他の教師からも嫌がらせを受ける。読者は、仲間外れにされるのは学生だけではないことを知る。

 後半、著者は彼ら/彼女たちの生活を追うだけではなく、ひとりひとりに自分の殻を破るための「命題」を与える。著者自身が本書の中で言っているように、これはジャーナリズムの枠を越えて、ある種の社会的実験となるわけだが、著者はあえてこの手法を用いる。

 そして著者は今仲間外れにされている人間や、いじめをうけている学生に「今の状況はいつまでも続くものではない」というメッセージを送る。彼らの「オリジナリティ」「自由な考え方」「率直さ」「好奇心」「情熱」が花咲く時は来るのだろうか。

 著者はその回答を読者に与えていない。しかし、著者はその可能性は十分あると考えている。最後に著者は今仲間はずれになりいじめを受けている場合、その学生、家族、学校はなにをすべきかをリストにして提示している。

 日本ではいつまでたっても「空気を読む」ような社会的スキルがより重視されるようであり、アメリカとは文化の違いもあるが、日本人が読んでも興味深い本だと思う。


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