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2011年07月28日

『Self-made Man : One Woman’s Year Disguised as a Man』Norah Vincent(Penguin Group USA)

Self-made Man : One Woman’s Year Disguised as a Man →bookwebで購入

「女性が覗いた男の世界」

 
 僕が初めてボブ・ディランの『悲しきベイブ』の歌詞を知ったとき、心のなかがふっと軽くなったことを憶えている。

 その歌詞というのは、君が正しくとも間違っていても、君を守り、いつでも強くて、呼べばいつでも来てくれる人を探していると言うけれど、それは僕じゃない。君が探してるのは僕じゃないというもの。

 いまこの歌詞を読み返せば、「君」というのはアメリカ国家のことも指しているのだと分かるけれど、初めは女の子に対するだけの歌詞だと思っていた。

 当時のポップソングの歌詞は、君のためならなんでもするよというものばかりだったので、こういう男の本心を歌ったディランは凄いと思い、本当の心を女の子にみせてもいいんだとほっとしたのだ。
  
 僕たち男は、本心を女にみせない。何故かといと、本心をみせてしまったら女に嫌われるからだ。

 セックスについて言えば、社会的にどんなに高い地位についても、どんなにりっぱなことを成し遂げても、ある種の暗さや暴力的衝動を持った、男をセックスに追い立てる欲求は消えない。

 その欲求から出る言葉を女性に聞かせれば、一発で嫌われてしまう。いわゆるロッカールームでの男同士の会話は酷いものだが、男にとってはリクリエーションのような気軽さがある。

 しかし、それを女性が聞けばかなりショックを受けると思う。女性には、そういう話をせざるえない男の生理を理解できない。一方、男は、本心といえば本心だが、そんな会話には大した意味がないことが分からない女性を理解できない。だが、男たちは経験からそんな話を聞かれてしまったら嫌われることは知っている。そうして、もちろんそんな言葉を場所をわきまえず発した者は社会的制裁を受ける。
  
 今回読んだ本は、男に姿を変えた女性の著者が、男の世界に入り込み女の視点から、男を観察したノンフィクションだ。つまり女の視点を持って見た、男の内側を報告している。

 著者は、男だけのボーリング・クラブに入会し、ストリップ・クラブに出入りし、バーで女性をナンパし、女性とデートをし、営業の仕事をする。彼女は男の世界のなかで動く男たちを次のように記している。
「男たちは女たちが知っている姿よりずっと酷かった。しかし、ある意味ではずっとましだった。男たちがどうしてそんな行動に出るか、私にはもとの部分が分かってしたし、男たちにとってその衝動を克服するのは大変な苦労であることが分かった」

男が内なる衝動を抑え、「まとも」な素振りで行動するのは常に自制力が必要で、男は酷いが、一方でその酷さを見せないよう努力している男はそれなりに評価できるという結論だ。

これで男と女の距離が縮まる訳ではない、しかし女は結局話が分からないが、こちら側の持っているものと男の苦労を理解できる能力はあるようだと分かる本。しかし、それで男を許してくれている訳でもなさそうだが。


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2011年07月20日

『Area 51 : An Uncensored History of America’s Top Secret Military Base』 Annie Jacobsen(Little Brown & Co )

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「エリア51で働いた人々からの証言」


 もしあなたがレポーターで、ある夕食時親戚の小父さん(夫の小父の妻の姉妹の夫)が「凄い話があるんだ」と言ってきたらどうするか。

 そしてその小父さんがロッキード社のレーダー・マンといわれた物理学者で、世界でも最も謎の多い軍事施設である「エリア51」に働いていたとしたら。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、国家安全保障関係のレポーターでロサンゼルス・タイムズマガジンにも数多く記事を寄せるアニー・ジェイコブセンによる「Area 51」はこうして書き始められたという。

 そして話を聞かせてくれたのはエドワード・ロヴィック(彼は「Radar Man」というステルス技術の歴史に関する本を書いている)。

 ロヴィックはアニーに自分の知り合いのネットワークから、本を書くためにインタビューする人々を紹介した。

 この本でアニーがインタビューをした人間はエリア51に属していた19名。そして、この秘密施設に何らかの関係があった科学者、パイロット、エンジニアなど55名だ。

 特にインタビューの中心となっているのは、ロヴィックはもちろん、米国の偵察機U2で初めて当時のソ連上空を飛んだハーヴィー・ストックマン、エリア51のベースコマンダーだったヒュー・スレーター。そしてエリア51の購買マネジャーだったジム・フリードマンなどだが、最も重要な人物としてはエリア51で長年警備員として働き、施設内の多くの場所にアクセスがあったリチャード・ミンガスがあげられる。

 物語はエリア51の誕生から、そこで行われたU2偵察機の開発プログラム、ステルス機の開発プログラム、原爆実験プログラムなどが時系列で語られている。これらのプログラムの多くが1990年代から2000年代にかけ機密扱いから外され、米国政府により資料提供がなされている。

 しかしエリア51というと、UFOや宇宙人が施設内にいる、月面着陸はうそっぱちで実はエリア51に月面のセットが組まれそこで撮影されたものだ、などの噂がある。

 この本では有名なロズウェルの事件とその時発見された宇宙人とは何だったのかという謎から、CIAが極秘で情報を集めていたUFOの目撃情報収集プログラム、エリア51の地下基地の話までしっかり題材にし、回答を与えている。

 この本は国家安全保障に関するプロのレポーターに手によるもので、政府からの資料、CIAと軍部の権力闘争、ソ連との冷戦、CIAが使った大衆を欺く手段、テロとの戦いなどを検証。大きな歴史のなかでエリア51がいなかる役割を果たしたかを描いている。

 しかし一方で、エリア51でおこなわれているプログラムは「必要な時に必要な人物に情報を伝える」仕組みになっているので、大統領にも知らされないプログラムが存在するという。

 ある日著者はエリア51に関わったエンジニアと昼食を取った。

 「 私はクルトンを取り上げ・・・『もし私が知っていることがこのクルトンだとしたら・・・知らないことはこの皿くらいかしら』『あなたね〜』と彼は頭を振りながら言った。『本当の真実は椅子も入れたこのテーブルよりもっと大きいんだよ』」

 エリア51にはまだまだ秘密が隠されているようだ。



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2011年07月12日

『A Blind Man Can See How Much I Love You』Amy Bloom(Vintage Books)

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「エイミー・ブルームの短編集」

 
 僕はアメリカ作家のアンソロジーを読むことが多い。ホートン・ミフリンから毎年出版される『ザ・ベスト・アメリカン・ショートストーリーズ』の編集者であるカトリナ・ケニソンに会って話を聞いたころから、アンソロジーをよく読むようになった。

 ケニソンがボストンの『プラウシャーズ』誌、サンフランシスコの『ジジーバ』誌、コーネル大学の『エポック』誌など優れた短編を載せる文芸誌の存在を教えてくれたのも、僕がアンソロジーを多く読み始めるきっかけになった。

 アンソロジーや文芸誌を読むなかで、僕にとっての新しい作家を数人発見した。ローリー・ムーア、ティム・ガトロー、マキシン・スワン、エミリー・パーキンスなどが僕の好きな作家となった。

 ヴィンテージから出版されている短編集『A Blind Man Can See How Much I Love You』を出版したエイミー・ブルームもよく作品が掲載されていた作家のひとりだった。ブルームの作品は『ザ・ベスト・アメリカン・ショートストーリーズ』、フランシス・コッポラが出した『ゾエトロープ』、『ザ・スクリブナー・アンソロジー・オブ・コンテンポラリー・ショートフィクション』などに載っていた。

 ブルームのこの本が出版された頃『ニューヨーク・タイムズ』紙に彼女の記事が出た。

 「私は人々を取り巻く人間関係についての話を多く聞いてきた」

 とブルームは記事のなかで語っている。ブルームが作家としてテーマとするものは、人々の言葉と本当の感情の落差や、その行動と本当に望んでいることのギャップだと言う。

 彼女の言葉どおり『A Blind Man Can See How Much I Love You』には登場人物の隠された思いが浮き彫りにされた作品が多い。

 表題にもなっている作品には性転換を受ける娘とその母親の話だ。母親は、娘が自ら望んで男になることにできる限りの協力をしようとする。しかし、心の中には解決不可能な感情を隠している。母親は新たな男性と出会い自らも変わっていってしまう予感を感じる。

 また、同じ主人公が登場する『ナイト・ヴィジョン』と『ライト・イントゥ・ダーク』は黒人の息子と白人の継母が過去に一度だけ肉体関係を持ち、その影を長く引きずっていく話だ。お互いの胸のなかには、怒り、愛情、後悔、許しの感情が渾沌と渦巻いているが、ほかの家族たちの前では母と子の平凡の姿を演じていく。

 この短編集には、人々の心の中を微妙なニアンスで描きだす八編の短編が収められている。


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