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2011年05月10日

『The Future of Life』Edward O. Wilson(Knopf Doubleday)

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「自然科学分野の名著」

 僕は大学時代から、必要に迫られ英語の本を原書で読むようになった。アメリカの大学に入っていたので、当たり前と言えば当たり前だ。
 教科書や課題図書のほかにも、好きで読む文学作品やノンフィクション作品もほとんど全て原書で読んだ。大学の四年間を通して、日本語の本はたぶん数冊しか読まなかったはずだ。それはいまも変わらず、読むのは圧倒的に英語の本が多い。

 大学時代に読んだノンフィクションで特に面白かったのは、スティーブン・ジェイ・グールドやリチャード・ドーキンスなどが書いた自然科学系の本だった。

 今回、読んだのはハーバード大学の生物学者であり、二度もピューリッツア賞を受賞している著者エドワード・ウィルソンの『The Future of Life』。

 表紙から洒落ている。黒いバックに白の文字でタイトルが書かれてある一見堅い感じの表紙だが、覗き穴が開いていてそこに、すでに絶滅してしまったコスタリカに生息していたカエルのイラストが見える。

 そして表紙を開くと、十七世紀のオランダ絵画のタッチを真似た美しい絵が続く。この絵に描かれている六十を超える動物や植物はすでに絶滅してしまったもの、あるいは絶滅の危機に瀕しているものだ。

 ウィルソンはこの本で自然の大切さを語っているのだが、どこかの環境保護団体のようなヒステリックな調子はない。二十一世紀の人類の挑戦は「いまの生活水準を保ちながら、貧困に喘ぐ国の人々の生活を向上させることだ」とウィルソンは語る。

 一方で自然の大切さも強調する。何故なら、ひどい環境のなかで幸せになれる人間はいないからだ。著者はいろいろな例を挙げ、もし人間が知恵を絞り、正しい選択をするならば、経済的にも自然環境的にもよい社会を作り出せるとしている。

 例えば、僕の住むニューヨーク市の水質につての記述があった。ニューヨークの水は良質とされているが、九〇年代の終わりには、水源であるアップステートの森が破壊されはじめ水質が落ちた。水質を維持するためには七十億ドルをかけてフィルター施設を作る必要があった。施設の運営には年間三億ドルの費用がかかる。選択を迫られたニューヨーク市は、水質保全のための債券を発行し、集めた十億ドルで森を買い上げた。

 これにより、森の自然は守られ、ニューヨーク市は大きな財政的な負担をおわずに済み、市民たちは良質な水と美しい森を手に入れた。自然を守ることが経済的に安上がりで、環境にもよいことを示す実例だ。

 この本の、もうひとつの良さは、本が美しい文章で書かれてあることだろう。ピューリッツア受賞作家だけあって、読み物としても十分楽しい。自然科学の好きな人はぜひ一読をお勧めする。
 
 
 
 


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