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2011年05月27日

『I’m over All That』 Shirley MacLaine(Atria Books)

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「女優シャーリー・マクレーンのエッセイ集」


 今年77歳になるハリウッド女優シャーリー・マクレーンのエッセイ集。歳を重ね、自分の人生で何が大切で何がいらないかを語る約50のエッセイが収められている。

 以前は大切に思っていたが、いまはもう価値を感じないものには「退屈な人間に対し丁寧に振る舞うこと」「有名であることから生まれる効果」「感謝祭やクリスマスを家族と過ごすこと」「失礼な若者たち」「宗教の名で教わった畏れ」「レッドカーペット」など、まあそうだろうなと思うことが挙げられている。

 面白いのは、やはり何をいまだに大切に感じているかだ。「優れたジャーナリスム」「世界の政治家(彼女は多くの政治家と交遊あるいは関係を持った)」「毛染め」「ライブ公演のスリル」「アメリカ建国の父達」そして「セックス」。しかし、セックスについては「セックスの方が私を見放した」とある。

 この本の出版と合わせて出演した人気トーク番組「オプラ・ウィンフリーショー」で1日3人の男性とセックスをしたと告白した彼女だが、その話は「Does Anyone Get Over Sex and Power」というエッセイのなかにある。この章では、ジョン・F・ケネディとの交際やロバート・ケネディの選挙戦の夜に起こったことなどが書かれてある。

 そして、やはりハリウッドの女優の貫禄と言うか、登場する人物が凄い。ジャック・ニコルソン、ディーン・マーティン、エリザベス・テーラー、ヒッチッコック、ジュリア・ロバーツなどの業界仲間はもちろん、フィデル・カストロ、ミハイル・ゴルバチョフなども個人的な友人としてエピソードに登場する。

 華やかで、物怖じせず、コミカルであり辛辣さもあるエッセイ集だが、彼女のエッセイはそれだけに留まらない。

 「アウト・オン・ア・リム」や「ゴーイング・ウィズイン」などのいわゆるニューエイジ分野の本を出版してきた彼女だが、このエッセイ集にも、その考え方が散りばめられている。

 「 宇宙はそれ自体に記憶がある。宇宙は起こったすべてのことを記録し記憶し、それを蓄える意識次元がある。その意識次元はアカシック・レコードと呼ばれる」

 彼女は各人が自分のアカシック・レコードに触れ助言を得る方法も紹介している。また、カルマ、アストラル光、輪廻転生、2012年人類滅亡説などについても語っている。

 エッセイの長さは1ページから5ページほどとどれも短く、文字も大きめだ。1冊200ページほどの本なので、気軽に読めるのも魅力だ。


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2011年05月15日

『The White House Connection』Jack Higgins(Penguin Group)

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「ミッド・アトランティック英語を楽しめるサスペンス」

 ミッド・アトランティックという英語がある。和洋折衷という表現があるけども、こちらは英米折衷の言葉、つまりイギリス英語とアメリカ英語の中間を意味する。ニューヨークに住んでいると、ミッド・アトランティック英語を話すアメリカ人に時々会う。気取ってそんな英語を話すのかと思うが、その人の育ってきた経歴のせいなのかも知れない。

 今回読んだ『The White House Connection』の主人公がこのミッド・アトランティク英語を話す人物だった。著者はサスペンス作家としてお馴染みのジャック・ヒギンズ。サスペンスには犯人が分からず謎解きを楽しむものと、最初から犯人が分かっていて、追う側と追われる側のかけひきを楽しむもがある。『The White House Connection』は、このふたつが同時に楽しめる作品だった。

 つまり、殺人を続ける犯人は最初に知らされるのだが、事件のきっかけとなるスパイの正体は最後まで明かされない。

事件は、IRA(北アイルランドの独立を求めるカトリック系過激派組織)の一派であるサンズ・オブ・アーインの一味に、イギリスのおとり捜査官五人が殺害されることから始まる。

 しかし、この事件はイギリスとアイルランドの平和交渉の障害となるため、闇に葬りさられてしまう。数年後、死期の迫ったイギリスの諜報部員が、殺された五人の捜査官のリーダーだった青年の母親に真実を告げる。

 この母親がボストンで生まれ、イギリス貴族の家庭に嫁いだという設定のため、彼女の話す英語がミッド・アトランティク英語だった。母親は、ホワイトハウスにいる「コネクション」と呼ばれるスパイが流した情報のせいで息子が殺されたことを知る。復讐を誓った初老の母親はサンズ・オブ・アーインのメンバーを次々と殺害していく。

 そして、この殺害事件を追うのが、イギリスの首相直属の諜報員三人と、アメリカの大統領直属の一人の諜報員。

 殺害を繰り返す母親を追ううちに、ホワイトハウスの高官でなければ得られない情報を流す「コネクション」と呼ばれるスパイの存在が明らかになっていく。

 殺人を続ける母親と事件解決を使命とした諜報員の動きに、「コネクション」が誰であるかの謎解きがからむ二重構成となっている。

 物語の舞台も、ニューヨーク、ロンドン、ロンドン郊外、北アイルランドとアメリカとイギリスを合わせたものだった。

 北アイルランドでのカトリック系住民の独立を目指す北アイルランド紛争のことを知っていれば、物語の設定がすんなりと入ってくるが、知らなくとも十分楽しめる作品だった。


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2011年05月10日

『The Future of Life』Edward O. Wilson(Knopf Doubleday)

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「自然科学分野の名著」

 僕は大学時代から、必要に迫られ英語の本を原書で読むようになった。アメリカの大学に入っていたので、当たり前と言えば当たり前だ。
 教科書や課題図書のほかにも、好きで読む文学作品やノンフィクション作品もほとんど全て原書で読んだ。大学の四年間を通して、日本語の本はたぶん数冊しか読まなかったはずだ。それはいまも変わらず、読むのは圧倒的に英語の本が多い。

 大学時代に読んだノンフィクションで特に面白かったのは、スティーブン・ジェイ・グールドやリチャード・ドーキンスなどが書いた自然科学系の本だった。

 今回、読んだのはハーバード大学の生物学者であり、二度もピューリッツア賞を受賞している著者エドワード・ウィルソンの『The Future of Life』。

 表紙から洒落ている。黒いバックに白の文字でタイトルが書かれてある一見堅い感じの表紙だが、覗き穴が開いていてそこに、すでに絶滅してしまったコスタリカに生息していたカエルのイラストが見える。

 そして表紙を開くと、十七世紀のオランダ絵画のタッチを真似た美しい絵が続く。この絵に描かれている六十を超える動物や植物はすでに絶滅してしまったもの、あるいは絶滅の危機に瀕しているものだ。

 ウィルソンはこの本で自然の大切さを語っているのだが、どこかの環境保護団体のようなヒステリックな調子はない。二十一世紀の人類の挑戦は「いまの生活水準を保ちながら、貧困に喘ぐ国の人々の生活を向上させることだ」とウィルソンは語る。

 一方で自然の大切さも強調する。何故なら、ひどい環境のなかで幸せになれる人間はいないからだ。著者はいろいろな例を挙げ、もし人間が知恵を絞り、正しい選択をするならば、経済的にも自然環境的にもよい社会を作り出せるとしている。

 例えば、僕の住むニューヨーク市の水質につての記述があった。ニューヨークの水は良質とされているが、九〇年代の終わりには、水源であるアップステートの森が破壊されはじめ水質が落ちた。水質を維持するためには七十億ドルをかけてフィルター施設を作る必要があった。施設の運営には年間三億ドルの費用がかかる。選択を迫られたニューヨーク市は、水質保全のための債券を発行し、集めた十億ドルで森を買い上げた。

 これにより、森の自然は守られ、ニューヨーク市は大きな財政的な負担をおわずに済み、市民たちは良質な水と美しい森を手に入れた。自然を守ることが経済的に安上がりで、環境にもよいことを示す実例だ。

 この本の、もうひとつの良さは、本が美しい文章で書かれてあることだろう。ピューリッツア受賞作家だけあって、読み物としても十分楽しい。自然科学の好きな人はぜひ一読をお勧めする。
 
 
 
 


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