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2011年04月27日

『 Physics of the Future』Michio Kaku(Penguin Books)

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「トップ科学者たちが語った近未来の世界」


 私の息子は2002年に生まれ、21世紀を生きることになるのだが、彼が暮す21世紀の後半はどんな世界が待っているのだろうか。

 時代的にみると、ヘンリー・フォードがT型フォードを発表したのが1908年。ライト兄弟が最初の飛行に成功したのが1903年。

 もし息子の生まれた年を20世紀に置き換えると、息子はちょうどこの頃に生まれたことになる。

 そして、私たちが体験した20世紀末までの生活を思うと、これは凄い違いである。

 今回読んだ本は、21世紀中にどんな科学技術が発展するかを見せてくれる『Physics of the Future』。著者はニューヨーク市立大学シティカレッジ物理学部教授で超弦理論に貢献した日系3世の物理学者ミチオ・カクだ。アメリカに住む者にとっては、ディスカバリー・チャンネルやBBCの科学番組のホストとしてテレビでもお馴染みの人物だ。

 内容は、著者が300人を超える世界のトップ・サイエンティストたちにインタビューをし、そこから見えてくる未来を予測したもの。

 コンピュータ、人工知能、医療、ナノテクノロジー、エネルギー、宇宙旅行など8分野を「近未来(2030年まで)」「ミッドセンチュリー(2030年から2070年)」「遠い未来(2070年から2100年)」に分け、それぞれの分野、年代で何が起こるかを語っている。

 例えば「遠い未来」ではナノテクノロジーの発達により物体の形を自由に変えることができるようになるという。ちょっと驚くような話だが、理論は簡単だ。砂粒ほどのコンピュータを作り、その「スマート粒子」の表面の電荷(プラス・マイナス)を変えることにより、表面の形を変えるのだ。そして人型のロボットの表面をこの「スマート粒子」で作れば、姿を自由に変えられるロボットの登場となる。

 また、コンピュータチップとレーザー技術により、癌や痴呆症の超早期発見が可能となる。

 この本のよいところは、全ての話が科学技術に裏打ちされており、まったくの夢物語ではないところだ。そして、著者は応用される科学技術を一般の読者にも分かりやすいように解説し見せてくれる。

 また著者は、未来においてどんな仕事が残り、どんな国が繁栄していくかも語っている。

 著者はまた、おまけとして最後に「2100年の1日」という章を設け、未来の会社に働く男性の1日を描いている。

 著者の描く未来は明るい。それは、何が起こっても人間の知識欲は衰えず、科学技術は発展していくという信念に基づいているからだろう。人間性と科学技術を考えるにもいい本だ。

 「さあ、科学的革新を担う科学者たちが私に語ってくれた、今後100年間の科学の仮想旅行に出てみよう」と著者は誘っている。


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2011年04月13日

『A Coyote’s in the House』Elmore Leonard(Harper Entertainment)

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「エルモア・レナードのヤング・アダルト作品」

                 
 僕は今はニューヨークに住んでいるが、昔2年ほどロサンゼルスに住んだことがある。

 そのロサンゼルスで僕は三度居場所を変えた。初めはユニバーサル・スタジオの近くのアパートに住み、それからレイモンド・カーヴァーの短編にもでてくるサイプレスという、どこか乾いた荒野にいるような気分になってくる町に住んだ。

 それから、ウィッティアというロサンゼルスの東にある小さな町に移った。ウィッティアのアパートの近くには広い公園があって、夕方そこによく散歩にでかけた。ウィッティアに住んでいる間、僕は二度野生の動物にばったりとでくわしたことがある。一度はアライグマで、もう一度はコヨーテだった。どちらもアメリカ西部の代表選手のような動物だったので、自分が西部の町に住んでいるんだな〜と変に実感したものだ。

 今回読んだ、エルモア・レナードの『A Coyote's in the House』はロサンゼルスのハリウッド・ヒルズをなわばりとする若きコヨーテ、アントワンが主人公となっている物語だ。

 エルモア・レナードというと、映画になった『Get Shorty』や『Be Cool』などで知られている、独特の雰囲気がある犯罪小説作家だ。今回の『A Coyote’s in the House』は、レナードが彼としては初めて書いたヤング・アダルト向けの作品だ。

 この物語を書くにあたり、レナードは初め主人公のアントワンの相棒となるジャーマン・シェパード犬のバディを主人公に書きだした。しかし、ジャーマン・シェパードでは『Get Shorty』や『Be Cool』に登場するシャイロック(借金取り立て屋)、チリ・パーマーのようなチンピラの格好良さはでない。そこで、レナードは主人公をコヨーテのアントワンに変えてこの物語を書き直した。

 ねずみを追って家のフェンスを飛び越えたアントワンが、その家に住むバディに出会うところから、この物語は始まる。バディは、かつて何本もの映画に出演したスター犬だったが、いまは歳をとり映画の仕事もなくなってしまった。根っからのワーキング・ドッグであるバディには、家にいるだけのいまの生活に空しさを感じている。そして、バディの家にいるもう一匹の犬が、少しお高くとまっているプードルのミス・ベティ。彼女はドッグ・ショーでチャンピオンになったことがある犬だ。

 アントワンに出会ったバディは、荒野を駆け巡る自由な生活を思い、自分がコヨーテの仲間と暮らし、アントワンが家に残りペットとなることを提案する。ミス・ベティに興味があるアントワンは、それも悪くないと考え、バディの提案を試してみることにする。

 一方、映画の仕事がこなくなり、元気がなくなったバディを見てきたミス・ベティは、アントワンに近所の猫を誘拐させ、バディがその猫を救出して持ち主に返すという狂言芝居を思いつく。そうすれば、バディは映画のなかの主人公のようにまたヒーローになることができる。アントワンもミス・ベティの考えに賛成してバディをヒーローにしようとするが、話は思わぬ方向へ展開していく。

 最後はハッピーエンドに終わるが、アントワン、バディ、ミス・ベティの三匹が出会ったことで全員が少しずつ変わっていく。いうなれば、みんなの心が少し成長したのだ。ヤング・アダルト向けの物語なので、英語のほうもそれほど難しくなく、レナードの作風であるスピード感もたっぷり味わえる楽しい本だ。




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